第71話 闘主の非情なる選別
鏡晶珠を潜り込ませてはいなかったため黄色い瞑闘館に擬装した闘主軍宇宙機内部における修羅場は側近の目から隠され、心眼にて独り窃視する魔龍皇は「しかし人とはどこまでも…つまり命果てるその瞬間まで救われぬ存在よの」と冷笑の響きを込めて呟く。
「はあ……全く同感です」
〈真相〉には気付かず渦呪螺によって塵と化しつつある聖獣師の運命のみに想いを馳せながら応える魔少年を無視し、失神して後方にのけ反った巨鳥部隊長の唇を熱烈に貪る造反者に蔑みと微かな激励の視線を注ぐ星覇獣国首領は心中で独りごちる。
『ククク……あの娘の愛鳥は全聖獣中最も美しく強力な存在ゆえ、あっさり始末するのはあまりに惜しい──したがって無傷の宇宙機いずれかとセットで回収するとしよう。
さて、残るは念殺士の助平心のおかげで辛くも命拾いしおった新国王とダゴードか……されど悲願達成に燃えるガデラズには悪いが、余の見るところあの奇妙な番兵どもは中々侮り難い存在であり、配置された数によっては大いに手こずらされることだろうて……。
したがってゼトゥス討伐に万全を期すため、最終的には要塞内に散躰から更に縮小した凶霊龍を侵入させることとなろう……我が不肖の弟子が生涯で唯一成し遂げた大仕事=実父暗殺に倣ってな……!』
その間も宇宙機の崩壊は刻々と進行し、焦燥に駆られた襲撃犯は獲物を慇懃に横たえるや即座に憧憬の女神がまとった琥珀色の革製戦闘服のファスナーを一気に臍下まで引き下ろし、性の興奮と死の恐怖にわななく両手で握りしめた胸元の生地を思いきり左右に開いたのであった!
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魔龍皇がベジュネオスの毒牙からセラステラのみを遠ざけたのはむろん唯一所有欲を唆られた聖獣を無傷で入手したかったからであるが、はたして操者を活動停止に追い込むことでその動きを封じられるかは未知数であった──されどそれは杞憂に過ぎなかったようである。
なぜならばミコーレの呼びかけに即応して訓練所に嘴を向けた“蒼穹の女王”は、結局王家の森から離脱することなくあたかも糸の切れたマリオネットのごとく落下してしまったのであるから……。
『ふふふ、12もの散躰があれば7匹を数えるのみの巨鳥を仕留めるのは造作もなかったが、あの朱色には3体、空色には2体を割り振る必要があった……しかもどちらも女聖獣師の相棒であったようだが、こうなると我が軍のみならず敵側においても男性陣の大いなる奮起が望まれておるようだな……。
ま、それはともかく当初予定していた余の魔念による“名誉の戦死”に非ず、最も信頼を寄せていた部下に柔肌を蹂躙されつつうら若き命を閉じようとはさすがに憐れみを禁じえんが、これも“見えざる悪鬼”の尖兵となり、このズザ・ビラドに牙を剥いた報いであろう……では塵に還るまでの僅かな時間を一幅のあぶな絵として愉しませてもらおうか……むッ!?』
琥珀色の下着に包まれた、夢にまで見た豊かな乳房が露わとなり、すかさず淫獣の両手がむんずと鷲掴みにしたその瞬間を狙いすましたかのように被害者の全身がまばゆいレモンイエローの光に包まれると、のしかかる加害者の上半身はたちまち同色の焔に燃え上がったのである!
「ぎぎゃあああああッッッ!!!」
メラメラと炎上する頭部を抱えて反り返るケティム・フォートン……一方、ミコーレを呑み込んだ妖光は輝きを更に増して唐突に消え失せた──彼女の肉体と共に!
「うぬッ、味なマネを……ということは闘主め、聖獣師のみを救出し、以下の連中は残らず切り捨てようという肚か!?
そして連中に新たな聖獣を、もしくは戦闘宇宙機を与え、再び余に刃向かわせようとッ!?」
仮面の絶対者が忌々しげに口走ったセリフから、魔少年は消滅寸前の瞑闘館内においてただならぬ異変が勃発したことを悟った。
『まさに風前の灯同然の機内から連中を救い出すにはそれこそ瞬間移動させるしかないはず……しかしそれだけの労力を傾けるだけの価値が奴らにあるというのかッ!?
それとも満身創痍のニミルドをあえて拉し去ったように、ネウェスのごとく魔改造して新戦力に加えんとしているのでは!?
いずれにせよ闘主が人に対して動く時、そこには必ずや邪悪極まる底意が隠されているはず……!』
「その通りだ──だが闘主め、聖獣師全員を救うつもりはさらさら無いようだな……そしてその基準は残酷なまでに連中の力量を正確に反映したものとなっておるようだ──即ち、我が将士団におけるイヴェロイ同様のお荷物的存在であった濃紺とそれに次ぐ無能である赤紫……皮肉にも此奴らは無傷の2機に陣取っておるゆえ他の五名より助かる可能性がはるかに高いというのに主人から見捨てられたことで生殺与奪は余に委ねられることになった──さて軍師どのよ、この哀れな者どもをいかに遇するべきかな?」
些か迷惑そうな口ぶりで意見を促す首領への返答に魔少年が窮している間に5機の宇宙機は環獄還塵渦呪螺の深淵に消え失せたのであったが、懊悩する魔龍皇は「ダメだ、赤紫はまだしも濃紺はどうしても使い道を思いつかんッ!かくなる上は……」と吐き捨てながら、間髪入れず最もアギムの近くにあった渦呪螺(運命の悪戯か、主任教官を心底から愛していたリュガナの瞑闘館を消滅させた)に更なる襲撃を命じたのであった!




