第7話 戦蟲族の切り札
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「凶霊龍は消滅したが……それと入れ替わるかのように敵側の鏡晶珠が鋼撃闘虫を襲い始めたッ!
お、おのれ……戦蟲族には無い飛び道具で攻められている以上、このままでは全滅させられてしまうッ!!
かくなる上は師よ、一刻も早く聖獣師に命じて撤退させた方が良いのではッ!?
以前推断されていたように鏡晶珠を操っているのが魔龍皇であるならば、これまで何度も繰り返されたように苦杯を舐めるのは必至──それとも、まだ何か打開策が残されているとでもッ!?」
殆ど命令に等しい新国王の促しを受けたナージェムであったが、まず言葉をかけたのは背後の愛弟子に対してであった。
「──パレルよ、どうやらこちらの鏡晶珠を立ち向かわせようとしているようだが血迷うでないぞ。
何度も繰り返し戒めておいたであろう、あくまでも聖獣師以前に戦景眺映士としての本分を全うせよと……心境著しいおまえであれば目下ズザ・ビラドめが行使しておる〈鏡破殲線〉を放てることは承知しているが、魔龍皇と互角の撃ち合いを展開するのはとても不可能であるからな……。
よいか、そもそもあの漆黒の鏡晶珠がビラドに直結している以上、〈本体〉を討たぬ限り完全消滅させることは不可能なのだ──つまり、根本解決には目睫に迫ったゾルゲシタス島制圧を成し遂げねばならぬということ……!
そして王よ、わたくしから命ぜずとも霊法光星各地にて輝かしい戦歴を残してきた手練れのノーテズであれば、退き時がいつかは明確に心得ておりましょう……。
そしてあえてこのナージェムから申し上げれば、鋼撃闘虫の底力が発揮されるのはむしろここからと確信しておりますッ!」
「むう……そ、そうなのかッ!?
もしそれが事実なら頼もしい限りだが……!」
だが問答が続けられる間も魔龍皇による鏡晶珠の光線攻撃は間断なく続き、直撃されたディヴォガたちは黒い焔に包まれて墜落してゆく……。
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『天空を自在に飛翔させることさえ至難な鏡晶珠を、あれほどまでに強力な砲火兵器として難なく駆使するとは……ルヌラリア広しといえども、これをなし得る霊術師、いや魔導士は五指にも満たぬであろう……さすがに魔龍皇を名乗るだけのことはある……!
だが、これで我が盟友に勝利したとほくそ笑んでいるようならとんでもない心得違いというものだぞッ!
たしかに天然の鋼撃闘虫ならここで敗退濃厚となるが、実に207年もの長きにわたり、戦蟲族と共に歩んできた我が一族のみに伝わる秘伝の生育法によって成長した彼らには〈奥の手〉があるッ!
見よ、超秘技【烈翔錐撃弾】をッッ!!』
ユゴラーザが発生させた火焔龍がのたうち回るリュシオーク市街──その中心部を断ち割るかのように流れる川幅75ヤーン(約120メートル)のアシュアン河の岸辺は業火を逃れて殺到した王国民たちで埋め尽くされていたが、そこに架かる大橋をごった返す群衆に押されながら歩を進める着用したチュニックはおろか、頭髪・瞳の色までも鮮やかなグリーンに彩られた若者が天空を睨み上げつつ心中で叫んだ途端、鋼撃闘虫たちはまたもや合体態勢に入ったが今回は数十匹単位で1ユニットを形成しており、速やかに猛回転を再開させたがその姿はあたかもドリルミサイルを彷彿させた!
『──よしッ、行けえええぇッッ!!』
かくて一斉発射された錐撃弾は迎撃の怪光線を超高速で蛇行しながらかわしつつ、1個の鏡晶珠を2本の錐撃弾の尖端がサンドイッチにして割り砕くという精妙にして豪快な荒技を披露《・》る!
「──うむ?
ほほう、中々やるではないか……さすがに戦蟲族一筋で命脈を保ってきたノーテズ家の現当主だけのことはある……!
だが彼奴らは元来パヅァルアの住民ではなく、不倶戴天の黒鳳帝国に出自を持つはずだが……もとより代々〈虫嫌い〉の王家に疎まれて仕官の夢が叶わず、仕方なしに戦蟲使いとしての腕をルヌラリア全域に売り込んだ結果、皮肉にも最大の仮想敵国に召し抱えられるに至ったというわけか……。
むろん余としてもノーテズの動向には少なからぬ関心を寄せてはいたものの、唯一の師にして無二の同志である真龍帝が遺憾なことに醜怪なる戦蟲族を大いに厭うておられるため、その意を汲んで我が軍勢に迎えることを保留しておる間にナージェムに先を越されたらしい……。
とはいえ生物兵器として大いなる可能性を秘めた戦蟲どもに全く手をつけぬというわけにもいかず、将士団にも若干名の使い手を養成してはいるが現状ではあくまで対人暗殺者レベルに留まっており、聖獣師と同格に位置付けられる〈本家〉とはとても勝負にならん……!
されどこの映像は島の端に設けた連中の訓練所にも中継中であるゆえ、彼我の差を目の当たりにして大いに奮起していることであろう。
さて、こうなると余も些か本気にならざるを得んな──これらの伏兵に鏡晶珠を全滅させられるようなことになればあの凛々しくも麗しきゼトゥスが鮮血に染まって息絶える歴史的場面を逸するおそれがあるゆえにッ!!」
こう宣言された直後、残存する35個の漆黒の怪球は鋼撃闘虫のお株を奪うかのように瞬く間に連結してリング状になると同時に凄まじい高速回転を始め、奇怪にも直径1メートルほどの円の内部にぽっかりと暗黒の空洞が口を開ける。
片や地下要塞内では、好転しかけた戦況にまたも立ち込めた暗雲に新国王が悲痛な叫びを上げたのであった。
「あ、あの黒い空間は何だッ!?
しかもよく見ればあたかも潮の目のごとく激しく渦を巻いているではないかッ!?
ああッ、ディヴォガたちが捕らえられた木の葉の様に中心に呑み込まれてゆくッ!!」
まさしく、謎の渦の凄まじい吸引力は十数本の錐撃弾を忽ち数百匹の戦蟲へと分解したばかりか、僅か1メッツ(40秒間)以内にその全てを消滅させられてしまったのである!




