第8話 再臨のユゴラーザ
「く、くそッ!やられたッ!!
だ、だが鏡晶珠が合体することであのようなおそるべき魔技が可能となるとはッ……!
し、しかも鋼撃闘虫が消滅したことで一次撤退した凶霊龍が再襲来することはほぼ確実ッ!
うぬう、長きにわたり(ナザーグ黒鳳)帝国にて酷烈な迫害を受けてきた我が一族にようやく正当なる評価の光を当ててくれたナージェム師に報いるべく、聖獣防衛隊員としての初陣は何としても勝利で飾りたかったのだが……ワゼル・ノーテズ一生の不覚だッ!」
謎の文言をまくし立てつつ憤怒の形相で天を睨む緑衣の青年に周囲の避難民たちは狂人でも見るかのような硬い視線を注いでくるが、かつて味わったことのない敗北感に打ちのめされたノーテズ家の若き当主は全く意に介する風もなく魔龍皇への呪詛を吐き続けるのであった……。
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「善戦むなしく戦蟲族は散ったか……。
されど蒼き凶霊龍に見舞った渾身の一撃はみごとであった──あれなくしてはリュシオーク市街は火炎地獄の更なる拡大を許してしまったであろう……。
ともあれワゼル・ノーテズなる青年が聖獣防衛隊の一員として充分な力量を備えていることが分かっただけでも収穫はあったというものだ──師よ、ルヌラリア全域を視野に入れての人材発掘の努力には頭が下がります。
王国民に成り代わり、心から感謝致しますぞ……」
真意の籠った労いの言に、筆頭聖獣師は恐縮しきりといった様子で頭を下げる。
「──かくも過分なるお言葉を賜り、まことに恐懼感激であります。
たしかに星覇獣国、しかも最強兵器の凶霊龍を向こうに回しての初戦と致しましては及第点の奮戦ぶりと申せましょうが、やはり今回も魔龍皇の介入によって煮え湯を飲まされる形と相成りましたな……!
しかも私がノーテズ獲得に動いた理由としまして、基本戦術として大群攻撃を身上とする戦蟲族であれば魔龍皇が駆使する鏡晶珠対策にも最適と計算していたのですが……まさかあのような超絶奥義を隠し持っておったとは、全く迂闊でありました……」
肩を落とし、悄然と語られた敗戦の弁に両手を組んだまま「うむ」と厳しい表情で首肯するゼトゥス・マナレックであったが、その視線は既に次なる戦いを見据えていた。
「これまで一対一の聖獣同士による騎士道的な激突であった両軍の闘争に、魔龍皇が鏡晶珠によって途中参戦するようになっておよそ半年──それまでは一進一退の互角の攻防であったが、この卑劣な妨害が常態化してからは明らかに我が方の旗色は悪い……。
しかも先ほど消滅した凶霊龍はあくまで鋼撃闘虫の猛攻に耐えかねて一時撤退しただけであろうから、再襲来するのは確実といえよう──しかも悪逆な暗殺行為によって父王を亡き者にした今、彼奴らは完全に一線を超えたッ!
おそらくズザ・ビラドの腹積もりとしてはこの勢いに乗じて後継者たる私を屠るべく、間髪入れず凶霊龍を差し向けてくるであろうと確信せざるを得ないのだ──はたして師はいかが思われるかッ!?」
「全く同感です。
そもそもガドゥア様のお命を奪ったという重大事が、何よりも雄弁にビラドがついに宿願である王国簒奪に向けて乾坤一擲の勝負に出たことを物語っております。
かくなる上はご明察のとおり、あの凶霊龍がこの地下要塞目がけて襲来することはほぼ確実──そこに魔龍皇による鏡晶珠攻撃が加わるとあらばまさに一大危機……とはいえご安心下さい、ビラドにはこのナージェムが身命を賭して対処致しますし、例の凶霊龍は星覇獣国壊滅に向けて牙を研いで参りました新生防衛隊の門出にとってまたとない獲物であります──これが決して大言壮語ではないことを必ずやご高覧に入れましょうぞッッ!!」
決して気負うことなく、従来の平静なる口調でなされた昂然たる断言に大きく頷いた新国王は、勢いよく立ち上がると力強く宣言した。
「うむッ、頼んだぞッ!
だが私としては諸君のみを危地に向かわせるわけにはいかんッ──なぜならば、我が理想の王者像は決して王国の苦難を安全地帯から傍観する臆病者ではなく、常に最前線に立って突破口を切り開く行為者であるからなのだッ!!
しかも相手は大いなる道標である偉大な父を卑劣な手段で殺害した悪魔の化身、これを前にして黙っておられるほど私の血は冷えてはおらぬぞッ!
師よ、あくまで先陣を防衛隊に譲るのは吝かではないが、このゼトゥス・マナレックが愛剣を振りかざして斬り込む場面も想定しておいてもらいますぞッ!!」
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かつてない恥辱にまみれたベテラン龍氣師が気力を振り絞って再召喚した時、蒼き凶霊龍は指令通り14体に分裂していたがその外観にも変化が生じていた。
即ち精悍な筋肉質の胴体に両翼と両手両足が生え出したドラゴン体型であったのが、より爬虫類的な“有翼の角蛇”とでも呼ぶべき形状へと一変していたのである。
ゲジャジャジャジャジャジャアッッッ!!
単体時に発する豪快な咆哮とは対照的に、錆びた歯車が軋むかの様な不快極まる鳴き声をひっきりなしに立てながら赤く染まるリュシオークの空に群龍化して再来したユゴラーザは、魔龍皇の飛び道具に先導されて最大の標的が身を潜める【王家の森】目がけ大蝙蝠を彷彿させる両翼を羽撃かせたのであったが、その魁偉なる雄姿はあたかも傷心の召喚者を鼓舞するかのごとくであった──!




