第69話 闘主軍ルヌラリア撤退!?
瞑闘館が突如として発動した〈超常現象〉にミコーレたちは唖然呆然となるしかなかったが、ひとまず命拾いしたことだけはハッキリと認識した。
「とにかく驚いた……まさかこの建屋がこんな奥の手を隠し持っていたなんて……しかもお師匠や秘密研究所から何の説明も無かったし……ね、ねえヨシュア、さすがのアンタもこれについての知識は……!?」
すかさず“巨鳥部隊の知恵袋”から否定のコメントがもたらされる。
「いいえ、全く……どうして事前にレクチャーされなかったのかは不可解というしかありません……まさか上層部もこのような事態は想定しておらず、我々に伝達する必要を認めなかったのかもしれませんが……」
「もしそうなら、敵軍を侮りすぎているとしかいえんな──だってそうだろう、予め瞑闘館に卓越した飛行能力が施されていることを認識できていれば使役者たちもはるかに落ち着いて操獣できたはずで、未来ある若鳥たちの全滅という酸鼻を極めた大惨事は避けられたはずじゃないかッ!?」
ある意味犠牲者たちに最も個人的な思い入れを有するといっても過言ではない主任教官が憤懣やる方ないといった様子でまくし立てると、それをなだめるように副官のスレイツが介入する。
「まあ思慮深いナージェム師のことだ、そこには何らかのお考えがあったことは間違いあるまい……むろんそれが何であるのかは推測に因るしかないが、たとえば瞑闘館の能力へ我々が依存するのを予防するためだとか……」
「──依存だと?
オルツァー副官ともあろうお方が随分妙なことを言い出すものだ……たとえ瞑闘館にどれほど強力な武装が内蔵されていたとして、どうして聖獣という最強兵器を擁する我々がそれに縋り付かねばならんのだ?
先ほど(主任)教官も指摘されたように、事前に情報が開示されていれば今回の悲劇は回避は不可能でも大幅に軽減できたはず……つまりどう判断してもこの件については上層部の手落ちであると指弾せざるをえんな……!」
普段は努めて抑制している貴族の矜持を炸裂させたジェルマーの反論に一同は静まり返り、部隊長はひとまずこう述べて沈静化を図るしかなかった。
「──みんなの意見は尤もだ。
とはいえ周知の通りルゼルク・ナージェム筆頭聖獣師が壮烈な戦死を遂げられてしまった以上、いずれエシャム所長に会見を申し入れて真相を究明させてもらうことにするわッ!
とにかく今はこの窮地を脱し、逆転攻勢をかけねばならんッ!したがって各自の聖獣の召還に専念することッ、いいねッ!?」
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「やはりあの建物が宇宙機という我々の読みは当たっていましたね──かくて新国王が倒れ聖獣師どもも次第に無力化されつつある現在、ルヌラリアの覇権を巡る争いはいよいよ我々とダゴードら闘主軍によって展開されることと相成りましたか……」
腹心の最強念殺士による一抹の感慨を込めての呟きを嘲笑うかのように星覇獣国首領は冷やかに告げる。
「──はたしてそうかな?
ではここで聡明なる軍師殿に訊ねたいが、そもそも現時点における闘主の心境をどのように見ておられるのかな……!?」
「闘主の心境、ですか……?」
戸惑う魔少年に目をやることなく、グローメズを上空の瞑闘館に向けて一斉跳躍させながら仮面の絶対者が続ける。
「さよう……そもそも深宇宙より襲来せし“見えざる悪鬼”が余への恐怖心ゆえに方針転換したことは龍氣師たちの頭越しにおまえだけには伝えていた通りだが、聖門王国を走狗となして星覇獣国と小競り合いを展開する間も惑星全体の精査は小賢しく継続していたものとみえ、どうやら完全征圧するにはあまりにも困難な魔界であることをようやく悟ったらしいのだ──その証拠に、一時ルヌラリアをぐるりと包囲していた百機近い大型宇宙機が、現在では僅か数機にまで減少していることを余は感知しておる……!」
この〈仰天情報〉に震撼するシェリス・エルアーであったが、その中身はむろん血も凍るかのごとき恐怖であった!
「ふふふ、将士団随一の饒舌家であるおまえらしくもない……そこは“ま、魔龍皇様ッ、いかに霊法光星征服が困難であろうと、それほどの巨大戦力を配備しておきながら闘主は何ゆえにそれを行使しなかったのでありますかッ!?”などと声張り上げる場面であろうが?」
「……」
「──まあよい。
簡潔に要点を述べるならば闘主はこの星がその名にふさわしい宇宙最大最強の〈戦霊力〉を秘めており、深入りすればするほど手酷い報いを受けることを遅ればせながら理解したということなのだ……ま、それも当然というべきであろう、何しろこの物質世界のはるか高次元にあって、その気になれば即座に全てを破壊し尽くせる龍魂素界と繋がる生身の存在など、宇宙広しといえどもこの魔龍皇と余の薫陶を受けた龍氣師を他にすれば存在せぬのだからな……!」
「……」
ここでようやくズザ・ビラドは緑衣の魔少年を一瞥しながら含み笑う。
「くくく、一体どうしたのだ最強念殺士よ、まるで魂を抜かれてしまったかのような大人しさではないか……いつもの調子でヤイソレとせっついてくれねば張り合いのないこと夥しいぞ。
(それでも石像のごとく佇立したまま呆然と闘示盤に見入ったままの秘蔵っ子に軽くため息を吐きながら)
……ならば余が全次元で唯一心服する極龍帝(龍魂素界最高存在)からもたらされた真実を明かしてやろう──それはな、闘主は現在ルヌラリアよりもはるかに重要視する異空間にて交戦中のエクルーガなる武装勢力に敗北寸前にまで追い込まれており、戦局を一気にひっくり返すべくなりふり構わず手持ちの全戦力をそちらに振り向ける肚を固めたということだ……!」




