第65話 魔少年の秘めたる邪恋
ズザ・ビラドとシェリス・エルアーの注視を浴びる黒水晶製の闘示盤には、ベジュネオスの渾身の打擲によって撓んだ第一通用門から潜入した4個の鏡晶珠──その内の2個が操者・魔龍皇が施した霊的バリアによって高性能センサーに等しい鋭敏極まるダゴードの超感覚をも欺き、彼が専用浴室の扉を開いた際にまんまと忍び込むことに成功したのであるが、それらによって異様にして艶めかしい光景が映し出されていた!
かくてパヅァルア聖門王国の新たな支配者を葬り去らんという悽愴な気魄に燃える最強念殺士は、やや前傾姿勢となって緑の妖光に包まれた右掌を全裸となって金色の女神の彫像が傾ける水瓶から迸るシャワーを上体をのけ反らせてその逞しい胸板に浴びる新国王の心臓へ向けると、全身全霊を込めてその鼓動を停止させんと念じる!
『瞑れいゼトゥス・マナレックよッ!
キサマさえ消え去れば、オマエを傀儡としてルヌラリアを思うままに支配しようという外星人どものもくろみは根本から崩れ去る……となればダゴードや聖獣防衛隊を連中が直接指揮せねばならなくなるワケだが、はたしてそのような不安定極まる体制に強烈な不満を燻ぶらせる王国民が唯々諾々と従うものかな!?
それよりは腐敗した権力の桎梏を打ち砕き、パヅァルアに真の解放をもたらすべく蹶起した我がヴェルグ率いる青年将官たちを熱烈に支持するに違いないのだッ!
しかし危ないところではあった──もし攻撃が遅れて闘主に授けられたあの白麗神鎧を装着されていれば、至近距離ならまだしもはるか長距離を隔てたこのシチュエーションでは念殺術をほぼ完璧に防御されてしまっていただろう……ふふふ、しかし新国王よ、敵味方を超えてキサマの肉体の美しさだけは認めざるを得ん──卑近な例を挙げさせてもらえば、オレが軍内にバラまいた件の〈破廉恥画像〉も、ヴェルグによれば義憤を装った嫉妬に基づく怒りだけではなく想像念写されたゼトゥスの痴態そのものに劣情を催す輩が少なからず発生したということだが、なるほどこうして実物を拝めばそれも納得がいくというものだ……』
かくて完全に主導権を握った緑衣の魔少年は、無意識に舌舐めずりすらしながら獲物の心臓をチクチクと弄び、その冷酷にして淫蕩な行為によって嗜虐的な性的興奮が高まるほどに、全身から噴き出すエメラルドグリーンのオーラは今や人としての輪郭を喪失した超自然的な光体と化さしめていたのである。
『さあ我が秘術の虜囚よッ、もっと喘げ、そして呻けッ!
(およそ半メッツ=1分間後、ニンマリと悪魔の微笑を湛えながら)
おお、やはり予想通り生命の危機に瀕した肉体が意識することなく激しく聖(性)器をそそり勃たせたなッ!
クククッ……それも尤もだ、せっかく人も羨む国王の嗣子として生を受けながら、子宝を授かるどころか運命の相手と結ばれることすらなく父の待つ冥府へと降らねばならぬというのだからなッ!
いや、そうじゃない……既に〈妃候補〉とは邂逅していたはずだったな、あの可憐な聖獣師パレル・ラツォーロにッ!!
実はオレが彼女を認識したのはゾルゲシタス帰還の直前だが、入手した画像を一瞥した瞬間にこの少女はキサマを魅了し尽くすであろうと確信したものだ──というのも一見微風にそよぐ高原の野花のごとく素朴にして可憐な外見の内奥に揺るぎなき芯の強さと…そして熾烈なまでの支配欲を秘めていることがありありと感得できたからな……そして見かけの勇壮さの内側に隠したオマエの真の姿、つまりナルシスティックな女性的傾向はパレルのごとき“愛らしき魔物”にこそ己の全てを貪り尽くされたいという被虐的願望に震えていることが明白だからだッ!
されど気の毒だが、その美しき肉体はこのシェリス・エルアーが頂く……あたかも奉仕を求めるがごとく無防備に晒されたその胸板に渾身の天裂穿弾を叩き込むことによってなッッ!!』
“真正な恋愛感情”こそ若き蹶起者に捧げているとはいえ、魔少年にとってもやはりゼトゥス・マナレックの類稀なる美身は看過するわけにはゆかぬ豪奢な獲物であり、既にその心を我が物としたとおぼしきパレルへの妬心?もあってかその破壊的欲望はかつてないほどに燃え上がっていた!
そしてこの一撃によってゼトゥスを昇天させるべく右拳を大きく振り被った瞬間、不気味なほどの沈黙を保っていた仮面の絶対者が、
「愚か者め……劣情によって振るわれる拳に一体いかなる超力が宿るというのだ?」
と呟くのをたしかに耳にしたのである……!




