第63話 巨鳥部隊に迫る影③
衝突によって無防備状態になったところを直撃されたアギムのデオーズンとムウェレのシウォークのダメージは深刻で、両者は激しく錐揉みしながら逆立ち状態で墜落してゆく──しかしそれをリュガナのバジェギオとジェルマーのヴァーテスが逞しい鉤爪で相手のそれをガッチリとホールドして断固阻止する!
「う、うまいッ!……よーしッ、これであたしもようやく踏ん切りがついたッ!
いいかみんなッ、これは殺るか殺られるかの戦争なんだッ!だからもはや由緒ある森への引火をためらっている時じゃないッ、そこに蠢くあの魔物どもを根絶やしにしない限り王国に安息の時は訪れないんだからねッ!
全責任はこの巨鳥部隊長ミコーレ・ラワートが負うッ──熱閃煌破弾一斉発射ッッ!!」
かくて黄をシンボルカラーとする“指揮鳥”セラステラが口火を切り、続いて4体の巨鳥たちが橙・空色・青・黒の必殺弾を雨霰と撃ちまくったことで既に十数カ所で炎上中の王家の森は更なる業火に包まれてゆく……。
「くっくくく……連中も必死だな。
されど無闇矢鱈に火を放ったところで森の崩壊が加速するのみで文字通り利敵行為以外の何物でもないぞ……!
しかも負傷した仲間を抱え続け、一次的に森に安置しておくこともできぬとあっては戦力はさらにダウンしてゆくばかりか、そもそも操者が陣取る訓練所に危機が迫っておるわけであるから事を急く必要もない……さあどうする聖獣防衛隊よ?
おお、どうやらガデラズらも到着したようだな──分厚い鋼扉も大方ガタがきておるし、後は鎧刃部隊得意の爆破工作で仕上げて一気に雪崩込んでもらおうか……」
余裕綽々で宣う魔龍皇に改めて敬服しつつ、最強念殺士もまた今日で全ての決着がつくと半ば信じはじめていた。
「そうですか、いよいよ真紅の魔人との決戦ですね──かねて用意の秘策とやらを炸裂させて、何としても勝利を摑んでもらいたいものです……!
わたくしも遠隔の地にあるとはいえ、念を凝らせば微力ながらサポートできましょうし……」
目を細めて述べる魔少年であったが、首領から告げられた新たな指令を仄めかされて思わず口許を引き締めるのであった。
「またおまえの悪いクセが出たようだが、それには及ばん──なぜならばダゴード狩りは彼奴にとって戦士生命を賭け、しかもウォセメルとの恋の帰趨をも左右する大一番だけに、たとえ無二の盟友であっても容喙されることを望むはずがないからだ。
それよりもな、最強念殺士たるおまえにしかこなせぬ重大任務があるではないか……どうだ、分からぬか……!?」
以心伝心というのも奇妙であるが、先ほど“近未来におけるニミルドとの対決”を仰せつかった瞬間、シェリスはその任務が課されることを予想していた。
「魔龍皇様、それは……ここからゼトゥスを念殺せよ、ということですね……!?」
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針擊獣兵団を構成する6種の生物はそれぞれが個性的で、そして異様であった。
むろん国王守護隊長に絶対服従する存在であるため王国軍にとって危険な存在ではなかったが、その魁偉な外貌が足枷となって普段は専用格納庫にて息を潜めることを余儀なくされていた──しかも時折森に襲来する怪人部隊は彼らが出るまでもなく他の番人たちによってつつがなく駆逐されてきたため、今回が事実上の初陣なのである。
されど来たるゾルゲシタス遠征には当然秘密兵器として投入される予定であることもあり、〈管理者〉のダゴードも総員出撃させるつもりはなかった。
『国王様の仰せ通り要塞警護と野外戦闘に役割分担することになるが、比重は当然前者にかけることになろう──さすがに業火に巻かれ、凶霊龍がのたうち回る森に飛び出したとて獣兵たちが武勲を挙げられるものでもなかろうしな……』
したがって彼がまず向かったのはオーガン、ユゼルガ、キーラートという〈要塞組〉の待機室であったが、〈主人〉の気配を察した獣兵らがそれまで上げていた唸り声をピタリと止めたことに思わず微笑させられる。
超強力電磁石によるロックが真紅の魔人が右掌を翳すことで解除され、全高5ヤーン・幅3ヤーンの鉄扉がゆっくりと左右に開かれる。
おそらく常人であれば、高校の体育館ほどのスペースに収容された30匹ほどの怪生物を目の当たりにして目眩を起こし、清潔に保たれた環境にもかかわらず濃厚に漂う独特の獣臭に嘔吐してしまうかもしれぬ。
かくて3種の獣兵たちは互いに隔てられることなく、特殊な訓練を受けた五人の飼育員に世話されながらこの空間で共同生活を送っているのだが、同様の待機室がもう一つ存在し、そこではより年少のメンバーが息づいており、彼ら6種は要塞組・野外組問わず一室ごとに最低週に2度は森に出て、他ならぬダゴードを相手に実戦さながらの演習を行っていた。
したがって総計104体の獣兵団は例外なく師たる真紅の魔人に叩き伏せられた経験を有し、この一事をもって彼に心服していたのであるが、一方のキーパーたちにとっても守護隊長は畏怖の対象であり、彼の入室を覚ったこの道4年のベテランであるグレーの作業着姿のマック青年は温顔を引き締めて即座に直立不動となり、緊張しきった表情で接近を待ち受けるのであった。
「──ご苦労、マック君。
既に司令室から指示を受けていると思うが、いよいよ針擊獣兵団も初陣の時を迎えたようだ。
尤も今回のケースでは野外戦闘組は一応温存して要塞警護組のみの出動となりそうだが、連中のコンディションはどうかね?」
「はっ、持って生まれた野生の勘なのでしょうか、3種共に昨夜あたりから闘争本能を昂ぶらせてさかんに咆哮しておりまして、互いに牽制し合ってもおったようですが、森での戦闘が開始されたあたりから不思議と落ち着きを取り戻した模様です……ですが人型のオーガンにやや怯えのようなものが窺えるのが若干気になりますが……」
「ふうむ、そうか……たしかに6種中最も知能が高い分そうなるのもムリはないが、いざ敵と対峙すれば燃え滾る闘志がそれを凌駕することは私が身をもって体験している……!」
3種がワンフロアで生活しているとはいえ同種で固まるのは自然であり、褐色の堅牢な硬質皮膚で全身を鎧う人型獣兵はスペースの左側に陣取っていたが、計11体の彼らはあたかも試合前のサッカーチームのごとく車座となり、幼い子供が見たら号泣し悪夢にうなされそうな角の無い鬼のごとき醜貌を上げようともしない連中に歩み寄ったダゴードは、軽く跳躍して円の中心に立つと自身を凌駕する体格の面々をゆっくりと睥睨したのであった。




