第62話 巨鳥部隊に迫る影②
「ふふん、まあそこまでは誰でも思いつくいわば定石であろうが、ならばどれだけの数の散躰を差し向ければよいと考える……?」
されどこの問いも織り込み済みの魔少年は、落ち着いた口ぶりで見解を披瀝する。
「べジュネオス手強しと覚った巨鳥部隊の指揮官は賢明にも一線級以外の聖獣を退却させましたので目下アジトにはそやつらが待機しております──まずはその殲滅を行わねばなりませんが、わたくしが危惧しておりますのはそれより別の、はるかに強大な障碍物です。
それは……」
ここからの最強念殺士の推測は魔龍皇を大いに首肯させ、続けて提案された凶霊龍の割り振りもすんなり嘉納されて提示された通りの数が現地に投入されることになったのであった。
「ふふふ、よかろう。まさにそれは余の読みと一致する──ではアリョーカ方面についてはその方針でゆくことにするが、一方の王家の森についても作業を急がねばな──まずはもうじき到着するガデラズのために〈門〉を開けてやらねばならん……!」
こう語ったズザ・ビラドは、ウォセメルから引き継いだ4体のべジュネオスを二組に分けて2か所の通用門に集結させると、まずは瀕死の力猿たちを現場からかなり離れた場所まで引きずってゆき、その場から門まで猛ダッシュをかけさせて13ヤーン(約20m)ほど手前でジャンプを敢行し、遠心力を利用した猛烈な尻尾パンチを連続で浴びせるのであった──その後は2体が阿吽の呼吸で猛烈な打撃を交互に放ち、それが5メッツ(約10分間)も続いたあたりで厚さ0.5ヤーン(約80cm)の鋼扉がミシミシと悲鳴を上げはじめる!
「全く凄まじい……凶霊龍としては細身のべジュネオスですが、秘めたパワーは他種に全く引けを取るものではありませんね……!」
感嘆の表情を見せる秘蔵っ子に「あたりまえだ」と得意げに応じた魔龍皇は、
「よいか、目を向けるところはそこではなく、ユゴラーザやグローメズを大きく凌駕するあやつの耐久力だ──連中が無機物を対象とするこの作業に従事した場合、一発の威力は勝ったとしてもそれこそ5メッツあたりで急速に動きが鈍ってくるはずだが、打撃の手応えを摑んだベジュの勢いは逆に尻上がりの様相を呈しておるではないか……あたかも男女の精神的な底力の差をまざまざと見せつけられる思いで一抹の忸怩たる思いはあるが、この勇姿を目の当たりにしたおまえなら、余がこの個体を操龍するウォセメルに最強龍氣師の称号を授けたことに合点がゆくであろう……!」
「はあ、なるほど……ところで魔龍皇様、残る8体のベジュネオスは今どのような活動を?
やはり王家の森を火の海にすべく猛焔弾連射に専念しているのでしょうか……!?」
この疑問に、ズザ・ビラドはさもおかしげに含み笑いながらこう応じた。
「くくく……さすがに上空を巨鳥どもが旋回している現段階においてそれはない。
というのも余は森よりも上空を旋回する巨鳥どもを各個撃破することを念頭に置いていたからで、案の定ウォセメルが放った猛焔弾に引火した樹木周辺に凶霊龍潜伏の目星をつけた連中が急降下してきたところへここぞとばかりに襲いかかり、目下交戦中なのであるからな。
しかし彼奴らめ、先ほどまでとは打って変わった殺気を発散し、動きも格段に鋭さが増したようだ──どうやら何者かに筆頭聖獣師の死を伝えられ、報復の念に燃えているのであろう……」
この情報に一瞬緊張するシェリスであったが、当の巨鳥部隊のアジトに10体ものグローメズが向かっていることに改めて心を強くするのであった。
『操者が他ならぬ魔龍皇様である以上、散躰が目的地に到着し、聖獣師どもを襲撃するまでただの1体のベジュネオスをも失うことはあるまい──そうなると21対7という戦力差からみても圧勝するのは確実……まあ先刻思わぬ活躍を見せた20個余りの鏡晶珠が鬱陶しく介入してくるのだろうが、もしかするとそれをも乗っ取ってしまわれるおつもりではないか……!?』
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「ちきしょうッ!火事を目安に降下しようとしたらとんでもない方角から次々と猛焔弾が飛んできやがった!!
そういや15体ほどの凶霊龍が森に這い込んでるんだっけ……その内の4体が力猿と相討ちになったとしてもまだ10匹余りが健在か……ってことは所在を摑むのが困難な相手を森を焼き払いながら追い詰めていかなきゃならない……キツいぜッ……おおっとッ!」
顔をしかめる部隊長ミコーレが真下から撃ち上げられた猛焔弾を間一髪かわしつつ、怒りの熱閃煌破弾をブチ込んで思いきり右斜め前に移動する──されど間の悪いことに同じく退避行動中の副官スレイツ・オルツァーの愛鳥ジェイザーと軽く接触し、少なからぬ衝撃を被るのであった。
“す、すまんッ!”
“いやこちらこそッ!”
共に手練れ同士だけに即座に体勢を立て直して左右に散るが同様の不具合は全員に発生しているらしく、ミコーレは凶霊龍の操者が無闇矢鱈に猛焔弾を放っているのではなく巨鳥部隊の退避行動まで計算し、仲間同士の激突を誘発すべく最も効果的な一撃を放っていることを悟って戦慄した!
『ち、違う……さっきまでこの臙脂色を操っていた奴は、巧妙かつ陰険ではあったがあくまで勝つために必死で我々に立ち向かってきていた……し、しかしコイツのやり方はもっとずっと冷酷で、単なる道具として凶霊龍を扱ってるのが強烈に伝わってくる……そしてあたしの経験上、ここまで急激に戦闘スタイルが変化するなんてあり得ない……す、するともしかして、現在臙脂色を操作してるのは……』
次の刹那アギムとムウェレの悲鳴が部隊長の鼓膜を震わせ、彼女は猛焔弾から逃れて衝突してしまった二人に別の2か所から放たれた追撃の猛焔弾が直撃したことを知ったのである!




