第61話 巨鳥部隊に迫る影①
国王守護隊長に屋外で展開される地獄風景を中継しつつ、戦景眺映士パレル・ラツォーロは自身の響鳴石で巨鳥部隊長ミコーレ・ラワートに交信を求めた。
“ああビックリした……何なのよいきなり?
あ〜でもさっきの鏡晶珠捌きは見事だったわね!戦闘面でもあれだけやれるんなら、アンタを単なる中継係にしとくのはつくづくもったいないと痛感したわ……ねえ、さっさと後継者を育てて部隊に加わってくんない?そうだ、今から師匠に申し入れてみようかな……!?”
ここでウッと言葉に詰まった少女聖獣師は、亡師ルゼルクが一番弟子を動揺させぬためダイイングメッセージを遺していないことを知って、改めて瞳の奥から熱いものがこみ上げるのを感じるのであった──だが天才聖獣師の姉貴分が師の命脈を絶った天空からの黒焔に気付かなかったらしいのが意外ではあったが……。
『でも仕方ないか……あの時姉さんは他の龍氣師と死闘中だったんだものね……けれどまさかあたしの口から師父様の死を伝えなきゃならないなんて……たとえ王国の未来を悪魔の軍勢から守り抜くための尊い犠牲だとしても、あまりにも辛すぎる……』
自分から呼び出しておきながらダンマリを決め込む妹分に業を煮やした短気な性分の部隊長は、普段であれば容赦なく怒鳴りつけたであろうがさすがに状況を弁えて声をひそめる。
“ちょっと……用もないのに呼び出したってワケ?そんなはずないわよね?
ねえ、今そこに国王様がいらっしゃるのなら、王家の森に逃げ込んだ凶霊龍をどう処置されるおつもりなのかお訊きしてくれない?
もちろんまずは森の番人を任されてる力猿連合のベガモ三兄弟に連絡を入れるのがスジなんだけど、元々なぜか巨鳥部隊を目の敵にしてる連中は一年前に赴任してからず〜っとガン無視なんだわ……おかしいと思わない?師匠からも何回も注意されてるはずなのに全然改善されないってどーいうこと?だから明らかにケンカを売られた以上はこっちも意地になって最近は全然無干渉だったんだけど、場合が場合だからガマンして下手に出たのに……それでも出やがらないのよッ!ねえ、アンタからもゼトゥス様にあの無責任兄弟の所業を訴えてやってちょーだいなッ!!”
ミコーレが一方的にまくし立てている間に何とか心を整えたパレルは、早めに真実を告げておくことを決意してこう切り出す。
“姉さん、実はお伝えしておかねばならないことがあります……師父様が魔龍皇との一騎討ちに臨まれたのはご存知でしょうが、残念ながら先ほど、愛鳥と共にご逝去されてしまわれました……”
これ以上ない凶報に絶句するミコーレ……そして彼女が口を開いたのはたっぷり半メッツ(約1分間)後であった。
“!?……な、何ですって……あ、あのナージェム師がな、亡くなられた……!?”
“はい、間違いありません……”
おそらく部隊長は自身の響鳴石を〈限定開放〉しているであろうから、少なくとも六人の聖獣師がこの会話を傍受していることはパレルにも自明であった──そして彼らが受けた衝撃を、盤面から漏れる悲嘆の呻きによってミコーレは生々しく感得させられたのである……。
“そうか……ならばこの戦いは我が祖国を防衛すると同時に恩師の弔い合戦でもあるわけだ──今さら決意を新たにすることもないけれど、これでますます死んでも負けられない戦いになったというワケね……!
で、改めて国王様に今後のご指示をお仰ぎしたいんだけど……!?”
“実は先ほどまでご在室であられた国王様は、御自ら戦線の先頭にお立ちになることをご決意され、お支度のためつい今しがたご退室いたされました……ですが巨鳥部隊へのメッセージを残されておられましてそれによりますと、火の手の上がった個所は全て交戦地帯であるゆえ、上空から或いは降下してあらゆる攻撃を加えることを許可する、と……!
そして3体…いえ4体の力猿に関してですが、この交信直前に凶霊龍迎撃に動いたものの奮闘虚しく相討ちに終わった模様です……!”
暫しの沈黙の後、盤石の意志を固めた巨鳥部隊長が厳粛な戦士の口調で応じる。
“了解した──たしかに2つの通用門付近で猛焔弾のものとおぼしき炎と複数の爆煙を感知したので、残る凶霊龍を直ちに発見して戦闘態勢に入るッ!
こちらから送信を行うことはしばらくないと思われるが、国王様からの新たなご命令等がもたらされたなら速やかに伝達してもらいたい……以上だッ!!”
“しかと承りましたッ!ご武運をお祈り致しますッ!!”
されどこの時、戦景眺映士は自身も戦列に加わることを改めて決意していた──これ以上愛する者たちを誰一人死神の手に渡さぬために!
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「──さて、いよいよ余が単独で全ての敵に相対する時を迎えたわけだが、おまえとしては目下の戦局をどう読んでおる?
親衛隊長兼軍師として忌憚のない意見を聞かせてもらいたい……」
『これじゃ、今日中だけでどれだけ肩書が増えるか分かったもんじゃないな……』
と内心苦笑させられるシェリス・エルアーであったが、彼は苦手な心眼行使ではなく直感によって首領の次なる手を読んでいた。
「はい、闘主軍の介入という不確定要素を一旦排除するならば、ヴェルグら蹶起勢の奮闘ぶりも含めまして完全に我が軍優勢にて展開しておると見て間違いないかと……しかも12体のべジュネオス散躰と無傷の19体に上るグローメズという巨大戦力が縦横無尽に暴れ回り、しかも操龍なさるのが魔龍皇様とあれば文字通り最強の布陣と申せましょう──そして地下移動中の紫の凶霊龍たちを何体かアリョーカ丘陵、つまり巨鳥部隊の拠点に差し向けて聖獣師どもを誅戮すれば、その時点で大勢は決したかと……!」




