第55話 緑の処刑場①
“最強龍氣師”ウォセメル・ワノンは、地下要塞に通じる2カ所の入口(高さ5ヤーン・幅10ヤーンほどの石造りの建屋で、厚さ2ヤーンの鋼鉄扉を潜り抜けると地下に通じる大中小の昇降機が設置されている)を守護する4体の力猿を排除するべく愛龍を2体ずつ差し向けた。
『これまで一度もコイツらと戦ったことはないけれど、戦歴を分析すれば所詮は凶魔獣とやり合ってるのがお似合いの雑兵聖獣にすぎないことは明らか──つまり猛焔弾を使用するのも惜しい連中なのだから、さっさと巻き付いて全身の骨を砕いてやるとするか……!』
真の敵ともいうべき巨鳥部隊がすぐに参戦してくることは自明であるため、この程度の相手に少なからぬエネルギー消耗を強いられる主力兵器の使用はおろか、飛翔する労力すら惜しい──かくて深紅の女龍氣師は鋼扉300ヤーン(約500m)までは空中移動させたものの、そこからは大蛇のごとく地面を這い進ませることを選択したのであるが、むしろ真正面から襲撃することでいきり立った力猿どもが突進してくることを狙っていたのである。
『ま、とはいえ扉の周辺に何らかの罠が仕掛けられている可能性は捨てきれないから、できるだけ距離を取って仕留めるに越したことはないか……ホホホ、しかし仮にそれが重火器類だとしても、アイツらのゴツい背中がこちらの楯になってくれるって寸法よッ!』
一方、肉眼で凶霊龍の接近を捉えた樹上に佇む“野人聖獣師”ルコリト・ユドンはベガモ三兄弟に警告の叫びを発する。
「オーイッ!御三方ッ、敵襲だッ!!
前方からこっちに地面をのたくりながら向かって来るのは二匹の大蛇型凶霊龍だが、おそらくそっちにも同様の布陣で向かってるはずだから注意しろよッッ!!」
「くッ、いよいよ現れたか星覇獣国めッ!
よくも由緒ある聖域にズカズカと土足で踏み込んで来れたものだッ、そのド厚かましさだけでも万死に値するわッ!
退却するなら今のうちだぞッ、されど王国の大地の守護神たる力猿連合、その頂点に君臨する我らベガモ一族の恐ろしさを骨の髄まで味わいたいというのであればそのまま進み続けるがいいッッ!!」
こう大見得を切ったリーナス・ベガモは、分身であるザヴァランが両手で握りしめた長大な投擲槍の尖端を前方に向けて目を凝らす──だが数メッツ後に前方から出現したのは二つの紅蓮に燃え滾る猛焔弾であったのだ!
「ヤ、ヤベッ!だ、だが真後ろには要塞入口があるから一族の名誉にかけてもよけるわけにはいかねえッ!
こ、こうなったらエシャム(聖獣秘密研究所長)が太鼓判を押してくれた特製プロテクターを信じるしかねえ──闘神ツェルナコラよ、どうか我にご加護をッッ!!」
大木の幹のごとき両腕を眼前で交差させ、腰を深く沈めて盤石の防御姿勢を取った力猿連合の旗頭に対し、自他共に認める“孤高のはぐれ者”は一目散にはるか彼方へと退避していた!
「こッ、このクソ外道がッ!…ぬぐわあああッッ!!」
2年前に晴れて兄弟揃って聖獣師となり、それぞれが命を預け合う相棒を得た後に実父にして連合総帥であるキーナスの峻厳な方針に則って彼らは星覇獣国が都市蹂躙の尖兵として運用する凶魔獣の主要供給地となっている獣獄地帯へ半年もの間派遣されたのであるが、そこに素体確保のため定期的に投入される凶魔獣(重戦車のごとく堅牢な皮膚装甲に覆われた四足獣が主体であった)と繰り広げた攻防(圧倒的な能力差ゆえにみごと全勝で任務を全うした)以外に戦歴というものを持たぬゆえに、敵の主力兵器である凶霊龍の猛威がいかほどのものか、この一撃によってまざまざと痛感させられたのである!
かくて必死の踏ん張りも虚しく、17ヤーン(約30m)・22ロドム(およそ35t)の巨体を大きくふっ飛ばされたザヴァランは激しい金属音を立てて鋼扉に激突し、しかもボーアッグがかわしたもう一発の余波を左側面に浴びるハメになった──されどさすがに闘主軍の技術の精華ともいうべき“超力猿”の鎧とそれに保護された本体にさしたるダメージは無いようであった。
「こ、この役立たずがッ!
テッ、テメエそれでも防衛隊員…いや聖獣師かッ!?
だ、だがあの落ちこぼれはそもそも響鳴石を与えられてねえから連絡なんて最初から不可能……さっきまでは対凶魔獣目潰し用の【闇粘土】で首から下をガッチガチに固めてやって、親父が到着するまでその辺に頭だけ出して埋めとこうと思ってたがもう許せねえッ!
おあつらえ向きに飛び散った猛焔弾の欠片によって周囲の樹々が早速バチバチと燃え始めたが、このままバトルが白熱化すりゃ森ン中が火の海になるのも時間の問題……へへへッ、そうなりゃ伸び放題の剛毛以外に身を守ってくれるモノもねえテメエにゃ地獄の苦痛を味わいながら黒焦げになる運命しか残されてねえぜッ、ザマァみやがれってんだッッ!!」
──されどその時、最愛の兄ルーナスと弟ラーナスはより深刻な窮地に陥っていたのである!




