第52話 龍氣師VS時計師の決闘⑨
最強念殺士の沽券にかけて踏み留まったシェリスであったが、二人の弟子はたまらず後方へ大きく吹き飛ばされ、早々に鬼兵どもを制圧した鎧刃部隊員に抱き止められるありさまであった──そして次の刹那、ピタリと風が収まったのだ!
「ふふふ、そういうことか……オレ一人で入って来いと……面白い、受けてやるぜ」
代名詞である不敵な笑みを浮かべて大股に入口に進む魔少年であったが、近づくほどに強まる黴臭さには閉口せざるを得なかった──されど怯むことなく室内に足を踏み入れると、およそ10畳ほどの空間の奥に設えられた木製の質素な寝台上に身を起こした、顔一面を長い白髪と胸元まで垂れる髭に覆われた、木乃伊のごとく痩せさらばえた老人が待ち受けていたのである。
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「……ですが不思議なことに、そこでわたくしの記憶がプツリと途切れているのです。
ただ病床のヴァヅマから凄まじい殺気を感得し、無我夢中で旋煌刃波を放ったことだけは覚えております──そしてほとんど同時に腹部に凄まじい一撃を食らったことも……これにより、不覚にも半失神状態に追い込まれてしまったワケですが……」
「……駆け寄ったガデラズによれば、老魔導士の枯れ枝のごとき首はみごとに刎ね飛ばされていたという……ということは、彼奴は現世という苦界から逃れ、魂の安息を得るべくおまえを招じ入れたものとみえるな……」
「もしそうならば、何も攻撃してくることはなかろうと思うのですが。
ま、ともあれお迎え間近の今際の一撃としてはなかなか強烈でした──しかも老衰の極みにしてアレなのですから、全盛期はさぞやとんでもない御仁だったのだろうと後から戦慄したものです……」
「それはたしかだ──余がこの道に参入したおよそ40年前には既に百(歳)を越えていながら未だ霊法光星最強クラスの魔導士として堂々現役を張っていたほどであるからな……そのただならぬ強さの秘密を我が物とすべく、一時は奴を徹底的に研究し尽くしたこともある身としては些か感慨深いものがある……ま、最期の一撃には畢竟志半ばでこの世を去らねばならぬ無念の想いが込められておったのであろう……おっ、どうやら決着の時を迎えたようだな……!」
森林内を縦横無尽に駆け巡り、時折振り返って火焔噴射などを試みていたネウェスであったが、とどのつまりは火災を発生させたのみで凶霊龍には僅かなダメージを与えることすら叶わなかった──そしてついに、おそるべき牙が不吉に底光りする巨大な口に棘だらけの胴体を咥え込まれてしまったのである!
かくてそれなりの硬度を備えているはずの青紫色のボディがあっさりと凶牙に貫かれ、バリバリバリッと無残に砕かれてゆく窮境から逃れんと、両眼と喉奥から必死に紅蓮の猛火を噴出する怪物であったが闘示盤の映像から窺う限り、赤紫の魔龍にとっては心地よい涼風程度にしか受け取られていないようであった──そして皮肉なことに、この必殺技を持続させればさせるほどバトルサイボーグの体組織の崩壊が加速してゆくようであった。
「このままネウェスが自爆したら……さすがにグローメズといえど消滅の憂き目は避けられぬのではありませんか……!?」
「ま、たしかにな。だがどうやらあの未熟者は早朝の実父抹殺からここまでの過程で精力を消耗し尽くし、たとえ猛焔弾を放ったとしても標的に正確に命中させるだけのサイコパワーがもはや残ってはおらん以上、最小限の労力で済む凶霊龍の本能的攻撃に縋るしかあるまい……」
「……」
論より証拠、とばかりに仮面の絶対者は漆黒の鏡晶珠を動かして怨念の龍氣師の現況を映し出すが、トレードマークである天地徹鏡を失い、灰色の双眸を剥き出しにして地面に大の字となり、所々裂けた土埃まみれの紫のローブに包まれた胸板を大きく上下させる様は敗残の姿そのものであり、これらは頼みの相棒がUターンしてくるまでの間、必死に流疾刃を乱舞させて青紫の悪鬼と渡り合ったものの、斬撃を加える度に両肘の偃月刀によって蛇擊帯を寸断されたばかりか、お返しとばかりに繰り出された大型ナイフを束ねたかのような貫手攻撃を文字通り死に物狂いでかわすうちにスタミナをとことん搾り取られた結果であったのだが、グローメズの帰還があと半メッツ(約50秒)遅ければニミルドは確実に仕留められていたであろう……。
ガギッ、ガジッ、ギシャッ、ギジジッ…!
こうして粛々と凶霊龍の咀嚼が進むほどに紫色の火花を飛び散らせつつ不気味な金属音が森閑たる樹木林に鳴り響き、かつて貴婦人たちを魅了した妖美の時計師であった“闘主の使者”の変わり果てた五体は、懸念された自爆攻撃を起こすこともなく無抵抗のままズタズタに噛み裂かれて大地に散乱したのであった……。




