第50話 龍氣師VS時計師の決闘⑧
相手が伝説の魔導士である以上、接近を察知されているのは承知の上であったが、星の鬼兵団総帥による迎撃手段は遠征隊の予想の斜め上をゆくものであった!
連中の砦に辿り着くにはいかなるルートを選択したにしてもほぼ垂直にそそり立つ岸壁を実に300ヤーン(約500m)もよじ登らねばならぬのだが、愚直にロッククライミングを試みようものならそれこそ弓矢鉄砲岩塊その他を雨あられと浴びせられて、いかに魔龍皇将士団の精鋭陣といえども全員が登り切ることは困難であろう。
そこで彼らが採った戦略は、星覇獣国技術陣が開発した【天翔仙翅】によって上空からの猛爆をかけるというものであった──といっても改めて特殊装備を身に帯びるというわけではなく、各自が背負っている楕円形の金属物体こそがその本体であり、腰に装着した握り拳大の操作装置によって自在に大空を駆けめぐることができるのだ──とはいえ当然ながら無制限の駆動が可能なわけではなく、それなりの高速飛行で連続使用するならおよそ7カーヌ(約2時間)が限界であり、遠征隊としても本番は地上戦と踏んでいるため持参の投擲爆棒を半分費消した段階で順次降下する予定であった。
「じゃあ、行くぞッ!
建物の配置──といっても中央に位置する円蓋型の砦とその四隅の物見櫓以外にこれといった建造物は存在しねえようだが攻撃はそこからだけとは限らねえ、常に敷地全体に目を配り、突入後も4つの班は常に先頭を行くリーダーの指示に忠実に従うことッ、いいなッ!!」
「──はッ!」
かくて総勢47名の遠征隊は11人で編成されたチーム(二名の弟子を引き連れたシェリスはガデラズ班と行動を共にする)ごとに仙翅を起動させ、装置の側面からスーッと伸び広がった全長2ヤーンの透明な翼を羽撃かせて勇躍黒鳳帝国の前線基地を壊滅すべく翔び立ったのである!
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ほんの僅かの間であったろうが、石壁への激突に伴う呼吸困難によって前後不覚に陥っていた魔少年が再び闘示盤に視線を向けた時、そこに怪物の姿は無かった!
『……!?』
ようやく立ち上がり、ビリビリと痛む両腕をさすりながら主君の傍らに戻った時、彼はそこに信じられぬものを見たのだ!
「グローメズが……戻って来ているッ!」
まさしく、画面の左半分で現在繰り広げられているのは全長16ヤーン(およそ25m)に優に達するであろう鮮やかな赤紫色の巨龍が必死に逃げ惑う青紫の悪鬼をまるで愉しむかのように追い回している異様にして夢幻的な光景であった!
「魔龍皇様、これは一体……!?」
「──ああ、あれか?
ふっふふ……おまえが現地にいるならまだしも、ニミルド単体でネウェスを仕留めるのは困難であろうからな、しかも今は王家に止めを刺す大詰め段階…それこそ一時を争うゆえ、特例として1体だけ差し戻したというわけだ……」
半ば呆然となって秘蔵っ子が発した問いに、仮面の絶対者は含み笑いつつこう応えた。
「な、なるほど……あっ、その王家の森でも動きがあったようですね……!」
残った6個の鏡晶珠の内、魔龍皇は半数をニミルド方面に振り分け、残りを自らが操龍する8体のべジュネオスの動向を闘示盤の右半分に映し出すために使用していた──とはいえ今のところは薄闇に閉ざされた森の内部を臙脂色の龍体がゆっくりとうねるように游泳しているのみ……されどウォセメル・ワノンの全身から燃え熾る焔のごとき殺気=深紅の霊光が噴き上がっていることから、シェリスは彼女が既に戦闘状態に突入していることを感得したのであった。
「余が心眼にてざっと見渡したところでは、現在森に存在する聖獣は4体の力猿のみらしい──これならば対処するのは“最強龍氣師”だけで充分であろう……とはいえゼトゥスの許可を得次第、巨鳥部隊をはじめとする援軍も襲来するであろうから出陣はそれからでも遅くはない……しかも先ほど約した賭けの件もあり、それに勝利すべくウォセメルの闘志はまさに最高潮に達しておるゆえ、別にハンデをつける必要はないが激励の意味を込めてこの4匹はあえて進呈しようかと思ってな……!」
「……」
いかにも魔龍皇らしいどこまでも傲岸不遜な語り口に返す言葉もなく密かに女龍氣師の表情を窺ったシェリスは、それが聴こえているのか否か、固く瞑目して己の運命を決する戦いに臨んでいる厳粛な表情に思わず『何と美しい……』と深く感銘するのであった。
されどそんな魔少年の感傷を強引に消し去るかのようにズザ・ビラドが言を継ぐ。
「そろそろ鎧刃部隊も到着する頃合いだな。
ところでおまえとガデラズはやけに仲がいいようだが、先のヴァヅマ討伐で更に絆を深めたらしいではないか……実はな、星覇獣国もいよいよルヌラリア完全制圧に向けて本格始動するにあたり、喫緊の課題である地上最強陸軍の編成と統率を奴に任せるつもりなのだが、万が一ダゴードに苦杯を喫することになれば、やむを得ぬが代わりの者を立てねばならん──そしてその人材はむろん鎧刃部隊の中から選抜するほかはない。
そこでだな、チュベルリーから帰還後にガデラズ本人から総括的報告は受けておるが、最適任者を見繕うためにも改めておまえ自身の視点であの遠征を振り返ってもらいたいのだがな……それとも老魔導士誅戮で手一杯だったがゆえに、専門分野が異なる連中については特に語る材料もないか?」
非情な絶対者による辛辣な物言いには慣れっこである魔少年が今さら気分を害することはなかったが、あたかも将士団随一の格闘戦士の敗北を見越しているかのごとき言い草にはさすがに義憤を覚えざるを得なかった。
かくて首領との対話において間を置かぬことを常に心がけている彼にしては珍しく、たっぷり沈黙した上で静かに語り始めたのである──。
「……あの日、鬼兵団の砦に向けて上空からありったけの爆棒を投下し、みごとドーム状の屋根に大穴を空けた我々を真下から襲ったのは、あろうことか大嵐のごとき凄まじい烈風でした……それはいうまでもなくヴァヅマが数十年に及ぶ試行錯誤の末に編み出したとかいう【幻嵐闘術】の発動であったのですが、およそ5メッツ(約10分間)も続いたそれに翻弄された我々はせっかく到達した頂上から叩き落とされるのを免れるべく苦心の末何とか着地し、ありったけの爆棒を放りつつ砦に突撃したのです──したがって最上階のヴァヅマの居室に駆け上がるまで彼らと行動を共にしていましたから、私なりの観点から意見を述べさせて頂くことはできようかと存じます……!」




