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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第49話 龍氣師VS時計師の決闘⑦

 身長1.1ヤーン(約175cm)・体重40グヌン(約64kg)という体格のシェリス・エルアーは実に直径30ヤーン(およそ48m)の魔龍閣の¹/₃近い距離を吹っ飛ばされ、派手な激突音を立てて漆黒の石壁に叩きつけられてしまった。


「う……ぐッ……」


 むろん百戦錬磨の念殺士であり、サ(・)イ(・)コ(・)パ(・)ワ(・)ー(・)の(・)続(・)く(・)限(・)り(・)一流剣士による渾身の斬撃をも弾き返すバリヤーで全身を覆っていた彼が全身火傷や複雑骨折、或いは内臓破裂といった致命的なダメージを負うことは無かったが、したたかに浴びた闘(・)主(・)か(・)ら(・)の(・)洗(・)礼(・)は、たとえ間接的なものであってもこれまで経験したいかなる霊的攻撃とも異なる悪魔的な一撃であった!


『……き、効いたッ……!

 こ、これに匹敵するダメージといえば、半年前に〈幻嵐師〉ヴァヅマの“今際の一撃”を食らった時ぐらいだッ!!』

           ✦

 パヅァルア聖門王国とナザーグ黒鳳帝国の国境を区切るチュベルリー山脈の最も険峻な断崖上に砦を築く【星の鬼兵団】なる“ルヌラリア全域革命”を標榜する秘密結社がいつしか黒鳳帝国の諜報機関に変質しており、聖門王国はむろん星覇獣国に関しても執拗な情報収集に血眼になっていることを確信した魔龍皇は、直ちに殲滅すべくシェリスと鎧刃部隊を差し向けたのであるが、王国軍に先んじて手を打った理由はただ一つ、マナリック家を打倒し、パヅァルア中枢を掌握した暁には速やかに“黒鳳帝国皇帝”ゴシュメル・ナザーグを討伐する計画であったからである。


 しかも現時点では真の敵ともいうべき闘主軍は戦蟲族を駆使するノーテズ一族のみに接触している様子であり、しかも彼らを“悪魔の眷属”と見なして苛烈な弾圧を加えているとあっては、どうやら皇帝はあっさり外星人どもの軍門に降ったガドゥアとは大いに異なる硬骨漢らしい──だがその事実だけをもってズザ・ビラドは帝国攻略を決して楽観視はしていなかった。


「されど余に言わせれば、彼奴が擁する兵員は質量のみならず個々の技倆においても惰弱な聖門王国軍を完全に圧倒しておる。

 そして問題のヴァヅマだが、齢(よわい)150歳に達する斯界の最長老でありながら未だ帝国内で十本指に入る魔導力を保持する大物。

 つまりシェリスよ、おまえが真の最強念殺士となるためにこの老魔導士と相見える機会を得たのはまさに天の配剤といえよう──吉報を待っておるぞ……!」


 かくて星覇獣国最強の白兵戦団と共に峨々たるチュベルリーに向かった魔少年であったが、彼らは予め明確な役割分担を取り決めてあった──即ちシェリスはあくまでも首魁ヴァヅマ抹殺に専念し、ガデラズ・バドオ率いる鎧刃部隊は約200名の鬼兵団誅滅に精励するというわけである。

 行使する異能力や戦闘スタイルこそ対照的であったが最強念殺士と鎧刃部隊長はなぜかウマが合い、この両者がスクラムを組むということはつまり魔龍皇将士団において最も強力かつ凶悪な殺戮システムが起動することを意味していた。


「フフフッ、かつてはヴァヅマの薫陶を受けた魔導士どもが主力であった鬼兵団も、今じゃ数名常駐してる黒鳳帝国の武術師範の指導の下、鎧刃部隊(われわれ)同様の“脳筋武闘集団”に変貌しつつある……調査によると、その比率は8:2ってところだ……」


「ふ〜ん…ってことは、超高齢の頭領の力が衰えてゆくのに比例して純粋な帝国軍へと移行してるってワケですね。

 とはいえヴァヅマ謹製の【金剛神丸(しんがん)】はナザーグにとっても大いに魅力でしょうし、精神的恐怖と肉体的苦痛を同時に除去するあの魔薬をたっぷりと投与されてるであろう鬼兵どもはかなり闘えると見て間違いないでしょう──ひょっとすると、黒鳳帝国があの因業ジジイに接近した最大の理由がそれであったのかも……」


「同感だな。まあ霊法光星随一の工業力を自負する連中のことだから純粋に科学的アプローチで同様の効果を発揮する薬物を開発してる可能性もあるが、とりあえずルヌラリア屈指の魔導士の技と成果物をキープしておくのもムダじゃねえと判断したんだろう……」


 さすがに騎乗したまま急斜面の岩山を駆け上がるのは不可能と判断した彼らは、麓にて星覇獣国シンパの旅籠屋に愛馬を預けると自らの足で登攀を開始したのであるが、先頭を行くシンボルカラーの翡翠色に染め上げられた小粋な意匠の雷牛革製高地用戦闘服に身を包んだシェリスと、何時に変わらぬ総重量50グヌン(約80kg)の漆黒の甲冑を装着したガデラズの会話はいつしかヴァヅマという“伝説の魔導士”の変(・)節(・)に移っていった。


「オレは未だに不思議なんだが、そもそもルヌラリアに存在するあらゆる権威に反発し、〈全域革命〉とかいう御大層な旗印を掲げていた誇り高き魔導士がどうして一帝国の走狗にまで落ちぶれちまったんだろうな?

 今さら富や女をいくらチラつかされたって目が眩むようなトシでもねえだろうし……まあテメエで広げた大風呂敷のムリさ加減にホトホト嫌気が差して、人生終了の間際で現実路線に切り替えたってことなのか……!?」


 首を捻る鋼の巨漢に対し、彼の鳩尾辺りまでしかない背丈の魔少年はニヤリと笑いながらこのように応じたのであった。


「それに関して、ボク個人としてはこう考えてますね──つまり、ヴァヅマは魔導士としてはるかに後輩でありながら誰もなし得なかった龍魂素界との盤石な紐帯を我が物とし、ルヌラリア屈指の巨大勢力を築き上げるに至った魔龍皇様との間に開いたどうにもならぬ、文字通り天地の懸隔に絶望した挙句ドス黒い妬心の焔に身を灼き、もはやなりふり構わぬ自棄的な心境にあるのだと……つまり彼奴の真の目的は聖門王国ではなく我ら星覇獣国の打倒にあるということです……!」



 

 

 


 




 

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