第48話 龍氣師VS時計師の決闘⑥
「や、やったッ!ここから怒涛のラッシュで一気にトドメだッ!!」
こう叫んだ少年念殺士は敵を股裂きにした灼熱の牙刻流星を更に深く埋め込もうと試み、片や青年龍氣師もまた標的の首を半ば切断した蛇擊流疾刃を一層食い込ませんとするが、すぐそこまで迫った敗北をあくまで拒否するかのように瀕死の?サイボーグ戦士はまたもや眩い紫光に包まれた!
「バカめッ、何度も同じ手が通用するかッ!!」
嘲笑したニミルドは、背中から地面に落下して大の字となったネウェスの頸部に埋没した流疾刃を左右に超高速で激動させ、いわば巨大なノコギリと化して斬首せんとするが!?
「なっ、何ィィィィッッ!?」
二人の将士団幹部が同時に叫んだのもムリはなかった──なぜならば発光を続けるバトルサイボーグの両手足がみるみる伸長してゆくではないか!?
そして徐ろに右手を股間に伸ばした闘主軍の戦士は牙刻流星を摑み、あっさりともぎ剥がしてしまったのである!
「くッ!はっ、放せッ!!」
怪物の魔手から必死に特殊暗器を飛び立たせようとするシェリスだが、この変形により猛烈にパワーアップしたらしいレィ・ネウェスの剛力からどうしても逃れることができぬ。
「ああッ!?」「うおおッ!?」
またも両雄の口から驚愕の叫びが迸った──何と鋼よりも硬い牙刻流星がたった一握りでバキバキと音を上げ、粉々に粉砕されてしまったのである!
「……ふふふ、この“闘主の代理人”レィ・ネウェスを甘く見てもらっては困りますね……さて、それではたっぷりとお返しさせてもらいましょうか……!」
紫光は徐々に弱まり、改めて姿を現したサイボーグ戦士の外観はかつての“妖美の時計師”という異名とは似ても似つかぬ奇怪なものへと一変していた!
シェリスとニミルドの会心の一撃による頸部や股間部の浅からぬ損傷が自己修復されているらしいのも信じ難い事実だが、それよりも異様なのはやはり異常伸長した棘だらけの手足であり、更に両手の指先からは厚刃の大型ナイフそのものというべき鉤爪が生え、両肘からは偃月刀を彷彿とさせる凶刃が、両膝頭からはドリル状に溝の切られた円錐形が飛び出しており、凹凸の無かった頭部とボディも禍々しい十数本の角と一千近い棘にびっしりと埋め尽くされている。
そして何らの表情も刻まれていなかった仮面もまた、真紅に燃える凶眼と耳まで裂けて鈍色の牙が底光りする口蓋を備えた地獄の悪鬼そのものへと変貌していたのであるが、大きさそのものか変化していないため四肢とのアンバランス加減がまさに悪夢的というしかなかった。
「……ほほう、これはまさに闘主そのものを可視化すればかくのごとき姿形となるといういわば〈自画像〉というものではないか?
“見えざる悪鬼”がこのような遊び心を有するとは意外であったが、無力な凡夫が間近で相対すれば立ち所にショック死するだけの見た目ではあるようだな……。
伸長したのは手足のみで、頭部から生え出した角部分を加算しても全長はおよそ3ヤーン(約5m)といったところか──しかもルヌラリアでも最高クラスの硬度を誇る極晶石製の牙刻流星を握り潰すとは、膂力の方もなかなかと見える……ふふふ、さてニミルドよ、そしてシェリスよ、魔龍皇将士団の中核を担うおまえたちが此奴をどう料理するか、余としても大いに注目せざるを得んな……!」
子飼いの戦士たちの窮境を明らかに愉しんでいる風情の絶対者に対し、ギリッと奥歯を噛みしめた魔少年は、とりあえず攻撃目標を眼球に定める。
『ピンポイント攻撃ならば旋煌刃波よりも【天裂穿弾】の出番だな──!』
龍氣師とは異なり、基本的に秘術発動の際呪文を必要としない念殺士の真骨頂は何といっても迅速さと手数にあり、今回のケースにおいてもシェリスの反応速度がニミルドを凌駕した──後方へ引いた魔少年の右手はあたかも実際に目潰しを狙うがごとくVサインを形作っており、その指先にはイヴェロイ・ドゥヌバを一蹴した時と同じく、いやそれをはるかに上回る緑色の光球が点じられている!
「──食らえッ!コケ威しのハッタリ野郎ッッ!!」
気合一閃、渾身の念を込めて突き出された右拳であったが、二本の指から光の弾丸が放たれると殆ど同時に凶相を魔少年に向けた怪物の双眸がカッと燃え上がり、噴き出した二筋の紅蓮の怪焔が天裂穿弾とぶつかり合って相殺してしまったのである!
「ク、クソッ!やはり画面越しではムリがあるかッ!?」
地団駄を踏む最強念殺士に対し、一瞬ニヤリと嗤ったかに見えた闘主軍の斬り込み隊長は耳まで裂けた大口を開けると、その喉奥は既に地獄の業火を彷彿とさせる暗赤色に染め上げられているではないか!?
「シェリスよ注意せよ──彼奴の決め技が来るぞ、それこそ画面越しであろうがかなりの威力があるはずだ」
淡々とした首領の警告を受け、瞬時に拳を固めて眼前でクロスさせた魔少年の全身が霊光と呼ぶにはあまりにも鮮烈なエメラルドグリーンの輝きに包まれる──されどかつて妖美の時計師であった魔物が吐き出した轟炎はリアルタイムで王家の森を映し出している闘示盤の右半分をも覆い尽くしたに留まらず、あろうことか画面を突破して龍眼の間に侵入し、全身全霊のサイコバリヤーで防御した最強念殺士を凄まじい勢いで吹き飛ばしてのけたのである!




