第47話 龍氣師VS時計師の決闘⑤
念殺士シェリスがまず行ったことは、怨念の龍氣師に呼びかけることであった。
なお、協力手段としては恋人がそうしたように牙刻流星を借用することは考えていない──むろん彼女並みにそれを扱える自信はあったが、こともあろうにライバル(彼自身としてはあくまで仲間意識の方が強かったのだが)に自身の虎の子の武器を使われるのは多大な抵抗感があるだろうと推察したからである。
だが、紫のサイボーグ戦士がむっくりと上体を起こした以上は急がねばならぬ……即ち、魔少年としては仮にニミルドに拒絶されたとて介入を思い留まるつもりはなかったのだ。
“──聴こえますかニミルド龍氣師?
こちらはシェリス・エルアーです。
わたくしは現在龍眼の間に在り、残念ながらテュセリーさんはネウェスの凶光攻撃によって気を失われてしまいましたため、代ってお力添えさせて頂きますが、この超遠距離に加えてわたくし独自の念擊殺法を行使致しますゆえ、彼女ほどの強力な援軍にはなりかねますことを予めお断りしておきます……”
この慇懃無礼と紙一重ともいえる呼びかけを傍受した魔龍皇の失笑を感じはしたものの、既に史上初の試みに没入しきっている魔少年はとりあえず三つ数える間は相手の返事を待ち、もたらされぬ場合は直ちに標的の傷ついた背中に得意技の一つである【旋煌刃波】を叩き込むつもりであったのだが──。
“……忝ない……できれば牙刻流星を使ってもらいたいのだが、できるか?”
反射的に緑衣の念殺士は叫んでいた。
“もちろんですともッ!論より証拠、それではお借り致しますッ!!”
愛する戦士の必殺武器を二度と敵の手に渡さぬためであろう、意識を失う寸前のテュセリーは必死の気力を振り絞って二十角形の特殊暗器を弾き飛ばしており、それは負傷した左膝を立てて中腰の姿勢となった闘主の代理人の左斜め後方およそ13ヤーン(約20m)に佇立する大木の幹の、地面から5ヤーン(約8m)あたりに深々と突き刺さっていた。
そして闘主から授けられた超高感度のセンサーによってそれを素早くキャッチしたバトルサイボーグは、その方角へ一直線に猛ダッシュしたのである!
『奴め、図々しくももう一度あれを盗用するつもりだなッ!だがそうはいくかッッ!!』
不敵な笑みを湛えた魔少年の翡翠色の双眸が妖しく耀くと、無色透明な牙刻流星があたかも感応したかのごとく同様の光に包まれ、すぐそこまで迫るレィ・ネウェスの顔面へと凄まじい縦回転状態で襲いかかったのだ!
「──ちいッ!!」
今度こそ撃墜すべく再び左手を死の飛来物に向けたものの、最強念殺士に遠隔操作される透明な凶器はそれを嘲笑うかのようにジグザグ飛行で連射される赤紫の光の矢をみごとにかい潜り、ザギッ!という鈍い激突音を立てて青紫の仮面とぶつかり合う。
「──うぐはッ!!」
シェリスとしてはネウェスの額に先ほどの樹木のごとく20本の鋭刃を抉り込ませることを目論んだのであるがそれは叶わず、牙刻流星は血煙?を浴びながらまたもや宙を舞ったのであるが、大きくのけ反った紫の戦鬼の喉笛を間髪入れず襲来した横殴りの蛇擊流疾刃が直撃したのである!
「──な、何のッッ!!」
卓越した身体感覚によって上体を更に大きく後方へ投げ出さなかったならば、さしもの改造人間といえど致命傷を負っていたかもしれぬ──そう確信させるだけの禍々しい殺意がこの一撃には込められており、目の当たりにした念殺士は同時にそれが自分に向けての示威行為であることをまざまざと感得していた。
『なかなかやるなッ!ならばこちらもッ!!』
生身の躰では到底不可能な超スピードでの連続バク転によって二方向からの猛攻を逃れんとする闘主軍の尖兵に、持ち前の嗜虐心を唆られた魔少年は闘示盤に氷のごとき冷笑を向けると、ある悪魔的な思惑を乗せて透明な凶器を疾らせる!
「ふはははははッ!調子に乗って飛び跳ねていられるのもそこまでだッ!!
見えざる悪鬼の犬めッ、今こそキサマに“霊法光星最後の砦”星覇獣国の鉄槌を下してやるぞッ!存分に味わうがいいわッッ!!」
こう叫びながらシェリスは不発を承知で自身のプランをイメージのみで龍氣師に送念したのであるが、奇跡的にそれは通じたとみえて“面白いッ、思いっきりやってくれッ!”との返答がもたらされたのである!
“──アッハハハハハッ!了解ッ!!
行っけええええッ、牙刻流星ッッ!!!”
最強念殺士のサイコパワーによって超高熱を帯び、白い閃光と化した特殊暗器は狙い通り標的が逆立ち状態となった瞬間を逃さず真上から股間を直撃し、一気に臍のあたりまで斬り裂いてのけたのである──そしてこの衝撃によって大量の体液を噴出させた被害者が慌てて?両手を損傷部にあてがった刹那を逃さず、地を這うように疾走してきた蛇擊流疾刃がガラ空きになった頸部にザックリと食い入ったのであった!




