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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第42話 叛逆の血塗られし牙

 新国王の両足に縋りついて泣き崩れた戦景眺映士の声がようやく歔欷(すすりなき)に変わった頃、入室を求める玉鈴が二人の耳朶を打った。


「…うむ、ダゴードだな……」


 鳴らし方の特徴から相手を悟った王の声が明らかに沈痛なものであったこともあり、ようやく我に返ったパレル・ラツォーロは尊体から弾かれたように飛び退いて平伏する。


「──入れ」


 口許に寄せた響鳴石に向かって厳かに命じたゼトゥス・マナレックは、そちらに向けてゆっくりと歩を進める──そして彼が遠退くのを察した少女聖獣師の華奢な躰に痙攣のごとき震えが(はし)った。


「失礼致します」の箆太(のぶと)い声と共に入ってきた守護隊長を拝命する真紅の魔人であったが、ただならぬ気配を瞬時に察して全身を鎧う並ぶ者なき超筋肉を強張らせる。

 何より異例なのは主君が自らこちらに向かって来られることだ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……どうやら悪い報せのようだな、一体何があった?」


 いかなる内容であろうと動揺することはないぞと言わんばかりに(まなじり)を決し、唇を固く結んだこの世のものならぬ美貌に不覚にも?一瞬魅了されつつ、王国軍最強戦士は大股で歩み寄るとパレルを慮ってか小声でおそるべき事実を告げた。


「大変なことが起こりました……コルバーダの海軍総司令部があろうことか複数の若手将校が率いる叛乱部隊に急襲され、ゾルゲシタス制圧作戦の具体的手順を煮詰めるため緊急会議中であったリカール総司令以下の軍幹部が(ことごと)く抹殺されてしまったというのです……!」


「──なっ、何だとッッ!?」


 この驚天動地の事態の勃発にさしもの勇者も呆然となったが、国内に渦巻く黒雲のごとき民心の不満と怨念への懸念は常に彼の心の奥底に(わだかま)っていたのである──しかしよもや聖門王国安寧の礎ともいうべき軍内においてかかる兇変が発生するとは!?


「それで……首謀者は一体誰なのだッッ!?」


 赫怒したゼトゥスの裂帛の叫びは白を基調とした典雅な室内の空気を一気に戦場のそれへと変え、はじめて王の真正の怒りを目の当たりにした分厚い絨毯に顔を伏せたままのパレルは、文字通り雷撃を受けたかのように震撼するのであった!


「……申し訳ございません、目下様々な情報が錯綜しておる状況でして……しかも予め戦力を分散させていた叛逆者どもは本件と殆ど同時に司令部内の通信施設を制圧した模様でして、大事件は瀕死の一幹部の響鳴石からガドゥア様の国葬準備に向けて闘神城への途上にあった腹心へと奇跡的にもたらされた今際(いまわ)の声によって発覚したもののようです……」


「……くッ、そうであったか……。

 だがその背後に星覇獣国の影が揺曳していることは間違いない──父上の暗殺からかつてない規模の凶霊龍襲来という波状的な攻勢を更に増大させるべく新たな作戦が加わったということか……しかも我が股肱の軍人たちを(たぶら)かしての……!


 そしておそらく事態は海軍のみに留まらず軍全体に波及することになろう……なぜなら我が王国はおよそ10年にも及ぶ魔龍皇との抗争によって漸進的な戦費の増大を強いられた結果物心両面における未曾有の危機的状況へと追いやられ、信じたくはないことだが愛する民の心にも王室への怨嗟がかつてない規模と深度で瀰漫していると聞く……。


 となれば邪悪な野望に身を灼く叛逆者にとって乾いた薪の山を前にしたも同然であり、後はそこに焔を点じた1本の小枝を放り込めばたちまち業火となって燃え上がるであろう──されどこのゼトゥス・マナレックの目の黒いうちは断じてそうはさせんぞッッ!!」


 虚空を睨み、両拳を握りしめてこう言い放った若き王は、最側近である守護隊長の金色の双眸を凝視しながら「こうなったからには後には退けん──今から私自身が先頭に立って早急に魔龍皇と決着をつけるッ!!」と高らかに宣言したのであった。

           ✦

「──くくく、それにしても窮民たちの血の汗と苦い涙、そして果てなき呻吟を強いる王侯貴族への呪詛の念を養分としてすくすくと成長した仄暗く広大な樹木の海は、我が凶霊龍たちにとっても故郷の龍命泉には及ばぬまでもそれなりの鋭気をもたらしてくれるオアシスと言えそうだな……。


 だがしかし、ある意味で闘神城以上に腐敗した王朝の象徴であるこの呪われた大森林を焦土と化すことなくしてパヅァルアの民は新たな一歩を踏み出すことは断じて叶わぬ──むろんそこにゼトゥス・マナレックの首という“極上の供物”が添えられることなくば全く意味をなさぬことはいうまでもないが、な……!


 さて、どうやらヴェルグを首魁とする叛乱軍も予定通り蹶起した模様だな……しかも心眼にて確認したところでは、この若者の統率力と冷徹さは余の期待以上であったようだ──さすがは我が陣営において比肩する者なき選択眼を備えたおまえが白羽の矢を立てた逸材だけのことはある……」


 左横に控える緑衣の魔少年に向けて奇怪な仮面の奥に光る鬼火のごとき視線を送りながらこのように褒め上げた星覇獣国首領であったが、次の刹那秘蔵っ子の白い頬が幽かな紅に彩られたのを見逃すはずもなかった。


「……なるほどな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」


 


 




    



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