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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第40話 力猿軍団の咆哮②

 出撃した聖獣師らの監視役として随行したガドゥアお気に入りの王国軍人・バーゴルは、跨ったパヅァルア屈指の駿馬がみるみる引き離されてゆくのを目の当たりにして驚嘆した。

 そしておよそ45メッツ(約90分)後に現場に到着するとすぐに、凶暴な力猿たちが鉄棍を竹竿のごとく軽々と振り回しながら狂気の魔導士が魔界の改造技術によって生み出した怪物どもをメッタ打ちにしている地獄絵図を目撃して絶句させられたのである……。


「な、何というおぞま……い、いや凄まじさだ。

 魔獣どもはどうやら王国内において最も危険な野獣地帯であるドネイラー高原に棲息する数種族がいかなる暗黒の技術によってか悪魔的に巨大化したもののようだが、その(はや)さも膂力も“超猿獣”たちに全く太刀打ちできておらん……!


 し、しかし彼らの活躍によって狂える魔導士の傀儡どもを撃退できたとしても、もし連中が掌を返して侵略者に一変しないという保証がどこにある……!?」


 王の密使がこの尤もな疑惑に煩悶している頃、ガドゥアは新たな訪問者と館の奥まった一室にて謁見していた。 

 そろそろ中年に差し掛かった、銀髪を戴く端正な面立ちのルゼルク・ナージェムと名乗るその男は先ほどの連中とは異なり単独で現れたのであるが、何と力猿とは比較にならぬ巨大な白い巨鳥の頸部に巻かれた金属製の首輪に設置したゴンドラに搭乗して代官屋敷の広大な庭に降り立ったのである!


 その間、ガドゥアに随従する王国軍は何らの迎撃行動を取ることはなかったのだが、それは先行のキーナスが“もうすぐ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、何卒ご拝謁賜りますよう謹んでお願い致します”と言い残していたからなのであった。


 はたして〈筆頭聖獣師〉を自称するナージェムは貴族の血脈に連なる者でこそなかったが、その人品骨柄に非の打ち所がないことはほんの二言三言交わしただけで“厳格な人間通”を自認する国王には直ちに把握されたのである。

 しかも驚くべきことに、これも力猿軍団の統率者が述べていたようにナージェムはここへは同行しなかった直属の巨鳥使いたちと共に他の三都市を荒らし回る凶魔獣どもを退治し尽くしたと確言し、半信半疑の腹心たちがようやく実用化されつつあった機械通信によって現地と連絡を取ったところ、たしかに数羽の巨大な怪鳥がほぼ同時刻に三都市上空に出現し、文字通り神の化身かと見紛うほどの凄まじい攻撃を数でははるかに勝る害獣どもに浴びせかけてごく短時間の内に殲滅してしまったと……されど彼らが新たな侵略者ではないという確信が得られなかったがために、いかに国王陛下にご報告するか目下喧々諤々の激論が交わされていたところなのだと判でついたような返答がもたらされたのであった。


「と、いうことは……昨夜の夢で告げられたように、呪われし魔導士めは今回の手痛い敗戦を受け、かねて用意のこれらの魔獣をはるかに凌駕する大怪物を戦線に投入する日も近いということか……!?」


 さすがにルヌラリア随一の賢王と謳われただけのことはあり、聖門王国を覆う暗影はむしろこれから更に色濃くなることを察知した第十一代国王は、ルゼルク・ナージェムの求めに応えて王国軍の切り札としての聖獣防衛隊の結成をその場で認可したのであった──!

           ✦

 およそ500ヤーン(約800m)(へだ)たった地下要塞の2ヶ所の入口で待機するベテラン聖獣師のルコリト・ユドンと彼を右肩に乗せた相棒のボーアッグは殺気立った視線でベガモ三兄弟の次男・リーナスの愛獣=ザヴァナンを睨みつけていた。


 もとより彼らの父である“力猿連合の元締め”キーナスとの確執もあって野人聖獣師と三兄弟の仲は最悪であり、敵の主力が大空からの脅威である凶霊龍に完全に切り替わった4年前から部隊の()()こそナージェム直系の巨鳥部隊に譲ったものの、未だ不定期に出没して王国民の恐怖の的となっている凶魔獣どもを須らく誅滅すべく各地に配置された力猿(かれら)の役割は決して小さくはなく、頭数的に最大勢力を誇る上に総帥であるキーナス自身が筆頭聖獣師とは真逆の野心家とあって、今や防衛隊の枠を超えて王国軍内に隠然たる影響力をもたらす不気味な存在にのし上がっていたのであるが、生来の反逆児であるルコリトは生理的嫌悪の対象である彼から何かと距離を取りたがり、不慮の事態を懸念したナージェムは苦肉の策としていわば〈番外地〉ともいうべき王家の森の番人に据えたのであった。


 これは野生の申し子にとって願ってもない幸運であったが、同時に宿痾ともいうべき並外れた自堕落さを加速させる要因とも相成って、素面でいる時が無いほどの過度の飲酒と許可された訪問者たち(さすがに貴族階級に対しては自重していたようだが)へのマナー度外視の悪ふざけが問題視されて要塞内に自分の瞑闘室が与えられぬどころか、隊員の標準装備である響鳴石すら支給されぬという、まさに身から出た錆の不遇をかこつ日陰者に成り下がっていたのである……。


 片やキーナスはキーナスで増上慢なルコリトを排除する機会を窺い続けていたのであるが、後継者である三兄弟(ルーナス&リーナス&ラーナス)が期待以上の成長を見せてくれたことに力を得て、息子たちをあえて王家の森に配置することでこの聖域にふさわしからざる異端児を葬り去らんと兄と慕う筆頭聖獣師にゴリ押ししたのであったが、(あに)図らんや凶霊龍襲来という想定外の非常事態を受け、最愛の存在の窮地を救うべく目下自ら大軍勢を引き連れて濛々たる土煙を上げつつ全速力で王家の森へ向かっていた!


 










 


 


 








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