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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第38話 聖なる森の侵犯者

 16体の群龍(べジュネオス)どもの動きは先ほどまでの鋭さがウソのように鈍麻しており、勢いづく巨鳥たちの熱閃煌破弾や真空殲刃舞から間一髪逃れるのがやっとという現状が、凶霊龍にとって唯一無二の原動力ともいうべき龍氣師から送られる〈操念〉の圧力低下を如実に示していた。


 そしてここでも一人気を吐いているのが攻撃陣に加わった27個の鏡晶珠であり、その細く鋭い白色光線は着実に標的を捕らえて暗赤色の血煙を噴き上げさせてゆくものの、やはり威力的に急所である眼球に命中しない限り動きを止めるまでには至らぬようであった……。


 しかし絶対者からの手厳しい叱責によってようやく本来の氷のごとき冷静さを取り戻したものか、“最強龍氣師”はひたすら王家の森への侵入のみを目指しているかのようであり、その執念が実ってまずは3体がバキバキと巨木をヘシ折りながら這い込むことに成功する。


「し、しまった!ついに潜り込ませちまったか……だがこれ以上は断固として阻止するんだッ、いいねみんなッ!!」


 部隊長の檄に「了解ッ!」と応じる面々であったが、その間も振り向きざまの猛焔弾を牽制として効果的に用いつつ、次々と危険極まる魔物が鬱蒼たる大森林へと消えてゆく……。


「うぬぬ……よくもあの穢らわしい龍体を聖なる森に侵入させおって……!

 覚悟はしていたとはいえ、本当にこの由緒ある神域が炎に包まれるであろう大悪夢に見舞われようとはな……。

 かくなる上はようやく出番を迎えた力猿たちによる死に物狂いの防戦を期待するしかないが……はたして彼らの剛腕がどこまで通用するものか……!?」


 ここですっくと立ち上がった若き新国王は、呆然と見上げる少女聖獣師を慈愛を込めて見下ろしながら静かに語りかける。


「パレルよ、君の意には反するかもしれんが、私も戦支度(いくさじたく)をする時が来たようだ──というのも、敵が王家の森に照準を定めたということはその最終目的が私の命にあることは明白ゆえ、凶霊龍に加えてこの要塞内に潜入するための強力な白兵部隊を差し向けていることはほぼ確実。


 ならば万難を排して襲来するであろうそやつらに怒りの鉄槌を下すのは、どうあってもこのゼトゥス・マナレックでなくてはならん──わが臣下としてこの道理、理解できるであろうな?」


「……」


 決死の覚悟を固めた王の視線を受け止めきれず俯いた戦景眺映士は全身を細かく震わせるのみであったが、ようやく消え入るような声を絞り出して問いかける。


「もし…もしもそうであると致しましても、ならばあのお強い守護隊長様たちにお任せするわけにはいかないのでありましょうか……!?」


 僅かの沈黙を経て、ゼトゥスは微笑みつつ答える。


「むろん私としても最も頼みとするダゴードには最前線に立ってもらう──君もさっき小耳に挟んだであろう針擊獣兵団を率いてな。


 されど乗り込んでくるのは魔龍皇めが絶対の自信をもって選抜した(つわもの)どもであろうから、用心しておくことに()くはない……そして彼奴は当然のように鏡晶珠をも紛れ込ませようと目論むであろうから、新国王として正面切っての宣戦布告を叩きつけてやるつもりなのだッ!」


「──い、いやですッッ!!」


 こう絶叫したパレル・ラツォーロは、あろうことか白い脚衣(ショース)に包まれた王の両足に無我夢中で飛びかかり、そして縋りついたのであった!


           ✦


「うむ、よろしい──どうやら全頭が森に忍び込んだようだな」


 と満足気に頷いたズザ・ビラドであったが、先ほどとは()()()()()()()()()右側に控えるウォセメル・ワノンは固い表情で俯いたままである……。


「後は19体のグローメズ散躰が到着するのを待つばかりだが……しかしレィ・ネウェスめ、やけに勿体ぶってなかなか現れぬな。

 ま、奴の狙いとしてはここでニミルドを斃して凶霊龍の侵攻に楔を打ち込もうというのであろうが、他ならぬ余が操龍を引き継ぐのであるから生憎だな、ふふふッ。


 ところでシェリスよ、もしおまえがあの時計師と相対したならばどう対処するつもりかな?」


『とうとうおいでなすったな』とばかりに苦笑した魔少年は、またもや芝居がかった表情で「あ〜、わたくしがネウェスとですか?」と腕組みしながら思案する。


「え〜っと、まあ状況にもよりますが、たとえば100ヤーンほども離れているのであれば全力を込めた念擊殺法にて脳か心臓の機能停止を狙うでしょうけれども、10ヤーンあまりの至近距離であれば否応もなく奴十八番(おはこ)の格闘戦に持ち込まれるでありましょう……とはいえその際も些か腕に覚えのございます体術にて馬鹿正直に立ち向かうのではなく、念殺士ならではの秘技を繰り出すことになりましょうが……」


 いかにも思わせぶりな口調であったが、それがシェリスの自信の深さを雄弁に物語り、彼が“闘主の代理人”を微塵も恐れていないことを示していた。


「なるほど、そうきたか……たしかに先ほどイヴェロイを一撃の下に倒してみせたあの神秘的な技を見ても大いに納得だな──だがニミルドもなかなか侮れぬ殺人術の使い手だぞ。

 むしろ余としては、奴の本領は龍氣師としてよりも各種暗器を使用した“闇の戦闘者”にあるのではないかと睨んでおるくらいでな……ま、時が来たらば闘示盤の画面を()()()して克明に観戦させてやるから楽しみにしているがいい……」


「おお、それはありがとうございます──こう申しましてはアレですが、実にワクワクしますね……!」


 傍らで苦悩する自分を置き去りにして勝手に盛り上がる主従に業を煮やしたか、女龍氣師はキッと顔を上げると呪詛を唱えるかのごとき陰に籠った声音で問い糾す。


「魔龍皇様……畏れながらわたくしの見ますところ、既に8体を御自ら操龍されておられるようですね?

 もしそうであるならば、残る8体を未だこのウォセメルに委ねておられるのはいかなる理由(わけ)なのでございましょう……!?」


 龍氣師として誰よりも高い矜持を固持する彼女にとって、この屈辱的な仕打ちがどれほど耐え難いものであるかは血を吐くかのような物言いに露わとなっていたが、非情なる絶対者はあくまで冷ややかな口ぶりでこう切って捨てる。


「……最強龍氣師ともあろう者が余の意図を見抜けぬとは、全く情けない限りだな。

 よいか、これは授けた称号にあるまじき醜態を晒したおまえに対する最後の温情であり、()()()()()()()()()()──即ち、互いに同数の散躰を操龍することでどちらが戦果を挙げることができたか?或いはどれだけの個体を失ったか?それを競い合おうというのだ。

 いずれにせよ、万が一余がおまえに劣る結果に終わるようであれば、いかなる要求にも応じる用意があることをここで宣言しておこうかな……!」

 

 





 







 

 



 

 

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