第37話 最強龍氣師錯乱す!
「──ぐぎゃあああああッッ!!!」
両手で左目を押さえて大きくのけ反った女龍氣師は、先ほどまでの倨傲に満ちた態度物腰がウソのような、あたかも断末魔のごとき悲鳴を上げて龍眼の間の厳粛な空気を震撼させた!
むろん刎首されしべジュネオスの4散躰は切断面から暗赤色の体液を夥しく噴出させると、みるみる実体を喪失して龍魂素界へと無念の帰還を余儀なくされ、新たにパレルが命中させた穿孔光線によって解体された渦呪螺に副隊長のスレイツとムウェレが猛然と襲いかかる。
「よしッ、これで6体狩ったことになる──このままのペースで行けば森を傷つけることなくべジュネオスとやらを仕留められそうだねッ!
パレルの奴、なかなかやるじゃないのッ!!
こうなるとアイツには戦闘面に専念してもらって中継係を新しく育てなきゃならないねッ!
──さあディークス主任教官、次はアナタの番ですよッ!!」
しかしここでウォセメル・ワノンが自ら結合を解いたためこの連携攻撃は打ち止めとなり、七人の聖獣師たちは16体に縮小した憎き群龍どもに殺到する。
「お、おのれ舐めおって……!
と、とにかく今は〈龍力〉をかなり消耗したこの子たちに休息を与えねばならんが、これしきの相手に背中を見せることはどうしてもできかねる……せ、せめて一人ぐらいは聖獣師の首を獲らねば……!」
細い肩を大きく上下させながら荒い息を吐く彼女に、
「油断したな、おまえらしくもない。
そもそもこんな序盤で秘奥義を繰り出すこと自体が集団戦の鉄則から大きく逸脱しておることが分からぬはずもあるまいに……よいか、改めて申し渡しておくが全てを一人で相手取ろうなどと思うな。
そもそも真の敵はルヌラリア列国と大差ない戦力しか保有せぬ聖門王国などではない──この宇宙が図らずも生み出してしまった“見えざる悪鬼”が統べる強大な軍団だぞ。
しかも相手からの嘲笑をおそれてか疲労困憊の凶霊龍たちに更なる戦闘を強いようしているようだが、さすがにそれは無謀というもの──よく聞け、戦局への俯瞰を忘れあくまでも己の矜持……いや虚栄心を優先させるとあってはあのイヴェロイと何ら変わらん痴愚者ということになるぞ……!」
「な、何とッ!?……ま、魔龍皇様はこのわたくしがあの廃人と同様の無能者と仰るのですかッ!?
そ、そんな、それはあまりにも無体ではありませんかッ、ついさっきまでは最強龍氣師と讃えて下さっておられたではありませんかッッ!?」
「愚かな……一体何を取り乱しておるのだ?
これまで格下と見下してきた聖獣師どもに一本取られたのがそれほど口惜しいというのか?
全く、そのように子供じみた我を張り通すことがただ自分の価値を下落させることに繋がることも理解できんとは、どうやら余はおまえを買い被っていたようだな……」
激しく痛む目をカッと見開いて睨み上げてくる赤髪の魔女に視線を移すことなく闘示盤を凝視する仮面の絶対者は醒めた口調でこう吐き捨て、彼女を更なる絶望へと追いやるのであった。
「シェリスよ、こやつの態度を見てどう感じる?
はたして余は首領として間違ったことを言っているか?
おまえが先ほど語っていた我とこやつが固執する我とは明らかに別物であろうが……!?」
念殺士を名乗る魔少年もまた先輩にあたる龍氣師を直視することなく、必死の抵抗を続けながらも明らかに劣勢の凶霊龍たちに複雑な視線を送っていたが、同時に奇妙な違和感を覚えていた。
『ニミルド氏に告げたように、魔龍皇様は部下たちが駆動する凶霊龍を容易く乗っ取ることがおできになる──そして実際にイヴェロイを切り捨てるためにユゴラーザを自ら操龍され、ワザと敗北させた。
それは分からんでもない……何せあの御仁の衰えっぷりは傍目にも明らかで、皆の足手まといにしかならん体たらくだったからな。
しかしここでさっきまであれほど持ち上げていたウォセメルさんまで外すというのはどうにも解せん……しかもオレのこれまでの個人的な印象では犀利な知力を誇る沈着冷静な策士といったところで、このヒステリックな激昂ぶり自体が不可解極まる現象なのだが……これじゃまるで、彼女自身が魔龍皇様に心を乗っ取られてしまったみたいじゃないか……だが一体何のために?』
ここまで思い及んだところで、シェリス・エルアーの脳裡にある恐るべき考えが電光のように閃き、彼はそれを真実と確信した!
『──そっ、そうかッ!
ここにいる二人と、これからレィ・ネウェスと一騎討ちを行うニミルドから凶霊龍を取り上げれば、魔龍皇様は龍魂素界の全戦力を独占されることになる……これが意味するところはただ一つ、聖獣防衛隊を含む王国軍ふぜいならばいざ知らず、いよいよ前面に出てくる闘主軍に勝利するには龍氣師では役不足ということなのだッッ!!』




