第35話 巨鳥部隊、壊滅寸前!
漆黒と紫に彩られたドーム型の聖獣瞑闘館内に凄まじい悲鳴が轟き、凶霊龍の餌食となった相棒と同様に激越な苦痛に襲われた使役者たちが直径50×厚さ約1.6ヤーン(80×2.5cm)の、極限集中に必須のアイテムである絶妙な座り心地の【瞑闘座】から次々と転げ落ちて床板をのたうち回る事態に統率者であるスレイツ・オルツァーとムウェレ・ケイノスは呆然となったが、さりとてここで戦闘を中断するわけにもいかず、非常事態に備えて壁際に待機していた第三段階以下の使役者に館内の医務室への搬送を命じる──とはいえ恐るべき敵の魔技によって犠牲者がうなぎ登りとなれば僅かな収容面積はあっという間にキャパを超えてしまうことになる……。
その時、七人の聖獣師の誰もが望んでいた指示が部隊長の甲高い声によって告げられた!
「──コイツは危険すぎるッ!
したがって第六段階以下の者は大至急帰還せよッ!!
それとこれはあたしの勘だが、ひょっとしたら訓練所が襲撃されるかもしれんッ!だから瞑闘館周囲を厳重にガードしてほしいッ、とりあえず以上だッ!!」
むろん被害は不運にも魁となったオルツァー隊とケイノス隊に留まらず、群龍の総数が22体にも及ぶとあってたちまち全チームに広がったが、不幸中の幸いとして愛鳥の後を追って命を失った者はいなかった。
これは第四段階に達した使役者が最初に叩き込まれる〈緊急心魂離脱訓練〉の賜物であったが、ここにはある落とし穴があった──即ち、位階を上がるにつれ当然ながら聖獣たちとの絆は深まり、それが聖獣師ともなれば文字通り一心同体の境地にまで達するわけだが、皮肉にも心身を超え、もはや魂魄レベルで強固に結びついているからこそ相棒がいざ生命の危機に陥ろうとも急の離脱は困難であり、内に秘めた矜持と覚悟が盤石であればあるほどに死の危険性は高まるのである──まさにロズガと運命を共にした筆頭聖獣師のように……。
かくて地獄の戦場に残るのは七人の聖獣師以下、18名の第六段階使役者のみとなり、これまで数で圧倒していたはずの巨鳥部隊とたった一人の龍氣師が率いる群龍軍の戦力は一気に均衡するに至ったのである!
「オッホホホホッ、何と他愛のない……まあでも指揮を執ってる奴には少しばかりマトモな判断力があるみたいね。
でも我が分身たちの〈破天戮嵐陣〉は聖獣師が浮上してきたぐらいで停止するほど生易しいものではない──ひっひひひッ、むしろそっちこそノロマな手下どもを楯にされて手も足も出なくなるんじゃないかしらッ!?」
この傲然たる自負を証明するかのように、べジュネオスの八面六臂の二段式殺法は更に鋭さを増して殆どその細部を目視することが困難となり、まるで半透明の赤く巨大な紐が逃げ惑うカラフルな巨鳥たちに執拗に絡みついては焔の塊を吐き出してゆくという奇怪極まる処刑風景を引き続き展開させる──されどさすがに精鋭のみとなった現在では猛焔弾も百発百中というわけにはいかず、更に渾身の絞め技も頸部を瞬間的に硬化させるという彼らクラスではじめて可能な卓越した身体調律力によって即死を回避され、そこに狙いすました聖獣師たちの必殺弾が頭部目がけて襲来する事態に陥ったのであった!
されど絶対者によって“最強”の称号を冠せられた女龍氣師が怯む様子は微塵もなかった──それどころかその病的なまでに白い喉元からはこれまで以上にけたたましい狂笑が迸ったのである。
「ひぃっぎゃはははははッ!やっと面白くなってきたわねッ!!
それではこのウォセメル・ワノンをここまで昂ぶらせたオマエたちにとっておきの褒美を与えるとしましょうかッ──さあ人鳥共々、その浅薄な魂の全てをもってこの魔奥義を堪能しつつ果てるがいいわッ!
今こそ受けてみよッ、4年近くに及ぶ血みどろの修練の結果ついに会得した【環獄還塵渦呪螺】をッッ!!」
次の刹那、捕捉者が惜しげもなく獲物を捨てると同時に、虎視眈々と敵の隙を窺いながら虚空をのたくっていた個体もまたあたかも鉄片が強力な磁石に吸い寄せられるかのように合流して二体一組となると、それぞれ仲間の尾を噛んで巨大な環を形成したのである!
この光景を目撃した瞬間、巨鳥部隊長の背に氷風のごとき戦慄が疾った!
「あれは……そ、そうだッ、魔龍皇が戦蟲族を一撃の下に葬ってのけたあの凄まじい必殺技と同じ体勢じゃないかッ!?
い、いかんッ、凶霊龍の近くにいる連中ッ、今すぐ逃げろッ!そこにいると消されてしまうぞッッ!!」
「バカめッ!今さら遅いわッ!!
食らっええええええええッッッ!!!」
ミコーレが絶叫した時には龍体による円環は既に超速回転を開始しており、同時に内部に発生した暗赤色の凄まじい渦動は殆ど一瞬にして10体の巨鳥たちを飲み込んでしまったのであった!




