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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第33話 念殺士シェリスの報告③

「くっくくく、そうであったな……。

 そもそも彼奴の浮世離れした美貌そのものが一部臣下の反感を募らせる要因となっていたようであったが、今回の仕掛けによってそれは王国軍全体に広がったとみてよかろう。

 そしてこの種の噂の常として、まさに燎原の火のごとく速やかにそして(あまね)く市井にも広がり、善良な民たちが新国王に寄せた切実な祈りを粉微塵に粉砕することだろうて……!


 ところでシェリスよ、そうなるとある意味時代を動かしたおまえの〈作品〉を余も一瞥してみたいものだがな……」


 予めこの展開を予知していたものであろう、妖気漂う緑一色に彩られた魔少年はズボンのポケットに突っ込んでいた右手を上衣のそれに移すと、人差し指と親指の間に挟んだポストカード大の紙片を恭しく首領に差し出し、受け取った魔龍皇はそれに視線を落とした瞬間に呵々大笑した。


「ぬはははははッ、これは傑作だ!

 いやしかし、よくぞ凝念のみでこれだけ鮮明な画像を定着できるものだなッ…さすがの余もこれには驚嘆を禁じ得んぞッ!!

 ぐっふふふッ、たしかに百万言を費やした革命宣言よりもこの一枚の破廉恥画像を閲覧させた方がよほど反乱者どもの士気は高まることであろう──なあウォセメルよ、こんなゲスの極みともいうべき行状を満天下に晒されては、新国王どのは二度と表舞台に出てこられまいなッ!?」


 ズザ・ビラドが摘んだ紙切れをひらひらと眼前に舞わせた刹那、口許を左掌で覆って「まあッ!?」という勇猛な龍氣師にはあるまじき嘆声を発した赤髪の魔女は、即座にその()()()()を恥じたかのように、


「何というハレンチな……でもさすがに()()が表沙汰になっては、もはや王家の威厳も何もあったものではございませんわね……ほほほッ、いずれ股肱の巨鳥部隊や守護隊長がそれを目にした際にはたしてどんな反応を示すものか全く見物でございますわッ!──下手したら、最後まで支えとなってくれるのはあの自慢の宝剣一本きりということになりかねませんわねッ!!」


 かくて異様な面子による哄笑が悪魔の司令室に轟き、首領から()()()を返還された念殺士は酒瓶を抱えて慎ましく控えるピンクの仮面美女に悪戯っぽく笑いかけながら「どうです、ご覧になりますか?」と声をかける。

 

 この不意打ちにドギマギしながら「いえ、私は……」と首を振るテュセリーであったが、眼前の魔龍皇がそれに見入った時点で内容をしっかり視界に収めていたのだった。


「いや、おまえは見ぬ方がよかろう。

 なぜなら余の保護下になければあの()()()()が王国中に張り巡らした魔手にかかり、地獄の毒牙の餌食となった公算が大であろうから心身に悪影響を及ぼしかねん……!」


 自ら提案した下世話な作戦がまんまと図に当たって上機嫌?の絶対者に冗談めかした横槍を入れられ「これは失礼しました」と軽く頭を下げた魔少年であったが、その刹那彼が手にした()()に驚くべき異変が生じた──何と突如として緑色の焔が燃え上がり、みるみる内に灰も残さず消失してしまったのである!


「ま、わざわざ秘蔵しておくほどのモノではありませんから……」


 こう呟きながら再びズボンのポケットに手を突っ込んだシェリス・エルアーは、「ああ、そういえば」と思い出したように話題を転じる。


「帰島直前にキャッチした情報では、ガドゥア討伐の宿願を果たしたニミルド氏と(くだん)の時計師がどうやら決闘しそうな雲行きですね──はたしてどのような展開になるとお考えですか?」


 目下のところ魔龍皇は鏡晶珠操作を中断しているらしく闘示盤には仄暗い森の内部映像が固定されたままであり、これに退屈したらしい秘蔵っ子が何気なく発した一言に、首領は逆に「おまえはどう予想するのだ?」と問い返す。


 さすがに即答を避けた緑の魔少年は、俯きながら口許に左手を添えて「う〜ん」と暫しの間熟考する。


「もちろん氏の龍氣師としての力量については門外漢たるわたくしごときに論評できるはずもありませんが、対レィ・ネウェスとなりますと当然ながら格闘戦となりましょうから、凶霊龍を操作しながらあの“闘主の代理人”とやり合うのはなかなか骨だな、と気遣わずにはおられませんが……」


 こう喋っている間も、シェリスは後方のテュセリーがにわかに身を強張らせるのを察知していた──尤も彼女とニミルドが恋仲であることはとっくに承知していたから、むしろ微笑ましい気分になったくらいだが。

 しかしながら魔龍皇の次の発言によって若き念殺士の表情はきりりと引き締まり、「なるほど」と頷きつつ純粋に仲間の勝利を祈念するのであった。


「そのとおり、だからこそニミルドには出発前にこう言い渡しておいた──“操龍中に敵襲を受けたならば直ちに中断し、眼前の敵に集中せよ。その間グローメズは余が引き受けるゆえに一切の懸念は不要だ”、とな……!」














 




 

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