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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第3章 王家の森に果てし者よ……

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第32話 念殺士シェリスの報告②

「──さて、それではまず王国軍の内部事情について報告してもらおうか。

 前王(ガドゥア)がついにゾルゲシタスへ直接攻撃をかけることがなかったのは周知の通りだが、彼奴めは同時に外星人の促すままに連中の技術をヌルラリア流にアレンジした兵器類の開発に余念がなかったようだ……それらに要する巨額費用が聖獣防衛隊の維持に必要な膨大なコストと相俟って、今やパヅァルアの国庫は文字通り火の車、誇張抜きに開闢以来最悪の状況にあるといってよかろう。


 ふふふ、これでは星覇獣国(われわれ)との決着以前に経済的破綻によって王国終焉を迎えそうな雲行きだが、もはやこの魔龍皇による攻撃よりも闘主の指令に背いた際の制裁を恐れるに至ったらしいガドゥアは、宮廷内の数少ない賢臣どもの諫言に一切耳を傾けることなく軍備増強のためにひたすら民へ過酷な負担を強いてきた──そして耐えに耐え忍んできた彼らの我慢もついに限界に達しつつある……くっくくく、侵略者を撃破するための新兵器開発努力それ自体が民草の王室への憎悪と離反を促す要因となってしまっているとは何とも皮肉な話だな。


 そこでだ、奴が最も注力していたらしい〈戦闘潜水艇〉とやらの建造は現在どのあたりまで進捗しているのかな?」


「はっ、我々が叛乱軍のエース格と見込む若き海軍将校・ヴェルグの証言によりますと、10名近くの外星人技術者の献身的な協力によってほぼ9割方完成し、王家の号令さえあればいつでも出撃できる状況のようです──尤も闘主軍(かれら)の存在は未だ新国王にすら秘匿され、軍内においてもあくまで聖門王国の先進的技術陣による“天才的発明品”であると喧伝されているらしいのですが……これは不可解な話ですね、どうして前王は息子に真相を告げることなく逝ってしまったのか……」


「ふふん、それは簡単なことだ──つまり、“狭量な小人物”ガドゥアは自身をあらゆる意味においてはるかに凌駕するゼトゥスに嫉妬し、せめてこの〈大機密〉だけは唯一の優越心の()()()として固持し続けたのであろう……とはいえあの犀利な頭脳の持ち主のこと、周囲を取り巻く真紅の魔人や聖獣どもがパヅァルア…いや霊法光星(ルヌラリア)における天然由来の産物などではないことなどとっくに弁えておるだろうがな。


 ま、いずれにせよ外星人どもは限りあるパヅァルアの資力を潜水艇(それ)に一点集中し、空からの攻めは巨鳥どもに委託する方針らしいな……それで一旦は静観し、旗色次第では王国内に隠匿した宇宙機群を起動して直接介入に踏み切る腹積もりだろう……!」


 無言で頷くシェリスとウォセメルを睥睨しつつ、ズザ・ビラドは愉しげに続ける。


「されどその見通しは甘いと言わざるを得んな──なぜならば余は展開中の〈王家の森殲滅作戦〉において地下要塞に立て籠もったゼトゥスを筆頭とする王国重鎮どもを残らず誅伐する目算であるし、戦闘潜水艇については蹶起したヴェルグらが外星人技術者皆殺しに成功した時点で彼に進呈するつもりだからな。


 ところでどうであった、王国民として史上初となる星覇獣国幹部の座を約束されて、あの若者の反応は?」


「はい、思わずこちらが苦笑させられるほどそれはそれは感激致しておりまして、誇張抜きに随喜の涙を流さんばかりでありました──しかも技術者とはいえ闘主の尖兵を相手取るのに連中の兵装では心許ないわけですが、こちらが大奮発して供与した15機の【特装強襲戦甲】を纏って臨めば必ずや勝利するはずです」


「……逆に言えば、そこまでの好機をモノにできぬようでは我々による呵責なき制裁の対象となることを避けられぬということだな」


「──御意」


 何らの感情も込められていない魔少年の淡々とした同意に、むしろ満足気に首領は頷く。


「うむ。いずれにせよ長きにわたり豊饒なるパヅァルアの地を醜悪な欲念によって(ほしいまま)にしてきたマナレックの呪われし血も新旧国王が(きびす)を接して世を去ることでようやく払拭されることになるわけだ──かくて彼の地は余が樹立せし星覇獣国へと生まれ変わり、ルヌラリア全土を支配下に収めるべく無敵の進軍を開始することになろう。


 むろんヴェルグのみが青雲の志に燃えているわけではなく、自己の野望を成就すべく進んで我が手足となって精励せんとする軍人たちは引きも切らぬありさまだが、彼らの意志に何ら変化はないのであろうな?」


「ええ、もちろんです──どうやらゼトゥスに関する限り“鳶が鷹を生んだ”例外的存在といえそうですが、とにかくガドゥアに(つら)なる血族どもの腐敗堕落ぶりは目に余るものがあり、連中を打倒することが即ち無辜の王国民を果てなき呻吟から救う唯一の手段と確信する救国の志士たちの数はまことに驚くほどでありまして、彼らが勇躍立ち上がるならば餓狼と化した窮民らも雪崩を打って追従するのは必定であります……!」


「ふふ、そうか……だがなシェリスよ、客観的に見るならばおまえが先ほど申したように、父とは比較にならぬ逸材であるゼトゥスへの待望論が王国内に醸成されていてもおかしくはないはずではないか?

 ならば新王が待望久しい救世主となって聖門王国再建に乗り出すと渇望するのが民心というものではないのかな……!?」


 含み笑いつつ投げかけられた絶対者の問いに、念殺士を名乗る美少年は凄艶なまでの悪魔的微笑と共にこう答えたのであった──


「ははは、魔龍皇様もお人が悪い……。

 なぜならば()()()()を命じられたのは他ならぬ貴方様ではございませんか──つまり、次期国王ともあろう存在がなにゆえに闘神城を遠く離れた王家の森の地下深く息を潜めているのであるか?

 それは即ち、“そこにおいてゼトゥス王子は、昼夜にわたって飽くことなく王国中から(かどわ)かしてきたうら若き、そして選りすぐりの麗しき乙女たちを鬼神も目を背けしむる淫欲の赴くままに凌辱し尽くしているのだからである”と信じせしめよ、と……仰せのとおり、わたくしはこの困難なるご命令にしたがって三日三晩一睡もせず、文字通り全身全霊を傾けた〈想像念写〉を敢行し、難行苦行の甲斐あってゼトゥスと()()()()()()によって繰り広げられた、この世で考えられる限りの痴態が焼き付けられた醜聞画像を実に数百枚も作成して関係各所に配布したのでありますが、その反響は全く凄まじいほど激越でありまして、彼奴めの威信は無残にも一夜にして雲散霧消し、更に(オス)としての熾烈な嫉妬も相俟って、かつてのごとき主従関係の回復はもはや完全に不可能な情勢であります……!!」

 



  

 


 


 


 


 


 

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