第20話 激突!聖獣師VS龍氣師②
聖獣防衛隊巨鳥部隊長ミコーレ・ラワートは、上空約63ヤーン(100m)そして全長およそ7000ヤーン(約11.2km)に達する見えざる防衛ライン=殲敵決死線のほぼ中央に愛鳥を陣取らせ、凶霊龍を今か今かと待ち構えていたが、次第に苛立ちを募らせていた。
七人の聖獣師がそれぞれ十数名の使役者を率いて約100ヤーン(およそ160m)の幅を決死の覚悟をもって死守するこの単純ながらも緊迫感漂う陣形は、各自の力量はもとよりチームとしての結束力が何よりも問われるいわば〈総力隊形〉であり、聖獣師たちが日頃から子飼いの隊員たちと共同生活を送りながら一蓮托生のムードの醸成に心を砕いているのもまさにこの作戦のためだとさえいえた。
したがって日々の任務の締めくくりとなる就寝前の反省会では、ほんの短時間ではあったが常に決死線バトルにおける様々なパターンを想定してのシミュレーションが実践されていたのである。
その際に攻撃の起点及び決着を担うのが聖獣師となるのは共通していたがそこに至るまでの過程の組み立てはほぼ無限のヴァリエーションがあり、敵の手強さによっては全チーム一体となってのコンビネーションアタックが必要となるわけだが、さすがの聖獣師たちにも茫漠たるイメージしか掴めぬため、自軍の両サイド(両端を固めるムウェレとリュガナは隣とのみ)と隔週末に合同練習を行うに留まっていたのであった──つまりミコーレは右翼を守るジェルマー及び左翼を受け持つヨシュアがそれにあたり、以下貴族は副官と、一方の博士は主任教官と訓練を重ね、紫と朱をシンボルカラーとする寡黙な二人は隔週で左右を入れ換えていた。
『……僭越ながらあたしのセンター以外は公平を期すため籤引きでポジションを決めたんだけど、結果として個人的に一番しっくりくる並びになっちゃった(苦笑)。
でもまあ、こんなこと部隊長として絶対口に出せないけど、まさか決死線を、しかも総出で実践する日が来ようとは想像だにしなかったわ……!
さて、巨鳥部隊が出動してない体調不良の隊員と治療中の聖獣を除いた総勢117体なのに対し、3体の凶霊龍が群体化したところでせいぜい40体そこそこ……ま、数の上では圧倒してるんだけど、何せ相手は敵軍最強勢力なんだから正直これじゃ心もとない……もちろん泣き言は言ってらんないけどね。
んで、やっぱり気になるのは魔龍皇の動向だけど、ここはお師匠様を信じてお任せするしかない──何せ秘蔵っ子のロズガ君は対鏡晶珠特化型に魔改造された我が部隊の秘密兵器なんだから、必ずや期待に応えてくれるでしょッ!』
一体化した相棒の金色の双眸を通して全方位に注意を凝らすミコーレの脳裡にふと妹分の面影が浮かび、またもや苦笑がこみ上げてきた。
『……はたしてアイツ、憧れのゼトゥス様のお傍に控えて今どんな心境なのかしら?
まあ幸いにも、たった一つの取り柄wである鏡晶珠の操作は普段と変わりなかったから頭ン中まで真っ白けっけになってるわけじゃあなさそうだけど……。
そもそも鏡晶珠使いを目指した動機ってのが、聖獣師として最もあのお方に近付ける可能性があるから、なんて不純極まりないものだったんだから全く開いた口が塞がらないわ……!
片や硬派好みのあたしからすると、美女に見紛う王子様(あっ、もう国王様なんだった)よりも、あのミステリアスで頼もしい天下無敵のダゴードちゃんの方によっぽど惹かれるんだけど……ま、人の好みはそれぞれだからねッ!
実際、我が親愛なる隊員たちも妻帯者の主副官や主任教官という一部の例外を除いて皆お年頃なんだから、恋の鞘当てが方々で勃発するのも残念ながら避けられないし、事実刃傷沙汰すら何件か発生しちゃってる……。
しかも遺憾なのはそれがヒトだけに留まらず、聖獣たちにすら及んじゃってることなのよねぇ……ま、とはいえあたしのセラステラ嬢は全鳥が仰ぎ見るべき最上級の高嶺の花、いわば女王格なんだから侵し難い気品に圧されて誰も近付くことすらできないけれど……ムッ、凶霊龍め、ついに現れたわねッ!
でも見たところ、目一杯間隔を空けて向かってくるし、数もどうやら十数匹程度だからやはりユゴラーザだけみたいだけど……ってことは、百体以上の軍勢をその10分の1の頭数で蹴散らそうってのッ!?
ウフフフフッ、全く泣く子も黙る聖獣防衛隊で最強と謳われる我ら巨鳥部隊が随分と舐められたモンじゃない、ホントいい度胸してるわ……』
瞑闘室内にてこれまで半眼だった両眼をくわっと見開いたミコーレ・ラワートは、瞬時に般若の形相となって絶叫した──!
「上等だッ、テメエがそのつもりならこっちも単騎で受けてやらあッ!
いいかいみんなッ、他のチームはいざ知らず、ウチの防衛線目がけて飛んでくるヤツはあたしだけで仕留めるから絶対に手出しするんじゃないよッ!!
さあッ、身の程知らずに目にもの見せてやろうぜセラステラッ!!
──突撃だァァァッッッ!!!」




