第19話 激突!聖獣師VS龍氣師①
「──パレルよ、巨鳥部隊の聖獣師……たしか七人いたと記憶するが、彼らの愛鳥に一つずつ鏡晶珠をあてがってもらいたいのだが、できるかね?」
手首に巻いた響鳴石にて筆頭聖獣師から部隊の出撃を報告された聖門王国新国王ゼトゥス・マナレックは、後方に控える可憐なる聖獣師を振り返りながらそう問いかけるが、返答はあたかも待ち受けていたかのように即座にもたらされた。
「はい、もちろん可能でございます。
……実は市街戦に向かわせたものとは別に、予め彼ら七名とナージェム様の分に珠を割り振ってございますので、直ちにそれを投影してご覧に入れます……」
御前であることから口ぶりこそ緊張しきっているものの、その芯には確たる自信がはっきりと窺え、満足気に頷いた若き王は闘示盤に向き直りながら両腕を組んで見入るのであった。
それまで映し出されていたのは火の海と化したリュシオーク市街から王家の森目がけて飛翔する14体の不吉な凶霊龍であったが、一瞬で画面が切り替わるとそれは整然と8分割(上下4コマずつ)されており、今まさに部下を引き連れて翔び立ったエース級巨鳥たちの勇姿が鮮やかに活写されていたのである!
「おお、みごとだ──うむ、あの目の覚めるような黄色い聖獣が師が後継者と公言する部隊長……ミコーレ・ラワートと言ったか、彼女の愛鳥だな──さすがに頂点に立つ存在だけあって、他を圧する威厳に満ちた飛翔ぶりだ。
そしてあの一際殺気に満ちた飛びっぷりを見せる青い猛禽がゴラノ公爵の愛息のパートナーか……うむ、師の話では舞台随一の闘将ということだが、そう讃えられるだけのことはあるな、全く頼もしい限りの出で立ちだな……」
こうして丹念に8体の巨鳥たちを確認したゼトゥスは些か心の余裕ができたものか意外な言葉を口にした。
「ところでパレルよ……つかぬことを訊ねるが、鏡晶珠にて捉えた映像を各自の響鳴石に投影することは可能であるのかね?」
この問いを受けて可憐なる聖獣師の表情がさっと青ざめた──まさにこれが意味することこそ彼女が最も恐れる事態であったのだから!
「は、はい、それはたしかに可能でございます……ですけれとも、ま、まことにご無礼ながら、なぜそのようなことをおっしゃられるのですか……!?」
「……う、うむ?」
よもや彼女からこのような〈逆質問〉を受けようなどとは予想もしていなかった新国王が一瞬言葉に詰まるのに力を得たか、パレル・ラツォーロはガバッと床に両手を着くと、声を震わせながらこう哀訴するのであった。
「もしも、もしも間違っているようでございましたならいかなるお咎めも受ける覚悟でございますが、国王陛下のお言葉は、わたくしには御自らご出陣なされた場合をご想定されてのお問いかけと拝察されました……そ、そうであるならば、衷心からお願い致しますッ!ど、どうか思い留まりになって下さいませッ!!
も、もちろん国王様がパヅァルアのみならずルヌラリア全体においてすら並ぶ者なきほどの大勇者であられることは浅学非才の身ながら存じ上げておりますけれども、相手は地獄の魔王にも比せられるべき悪魔的存在でございますッ!もしも万一国王様の御身に間違いがあろうものなら、我々民草は一体いかなる光を頼りにこの闇夜の道を辿って行けばよいのでございますかッ……!?」
まさに一瀉千里の勢いで迸った魂の叫びの後には重ねた両手に顔を伏せての慟哭が続き、驚いて振り向いたゼトゥスも半ば呆然となって少女を見下ろしていたが、やがて慈悲の微笑と共に厳かにこう告げたのであった。
「パレルよ……そこまで私の身を案じてくれるとはまことに忝ない思いであるが、決して悲嘆に暮れるには及ばぬ。
なぜならば、このゼトゥス・マナレックは決して我を忘れた玉砕覚悟の無謀な突撃などに打って出ることはないからだ。
私が極宝剣を抜き、自ら動く時──それは必ずや、緻密かつ冷徹な状況判断によって必勝の目算が立てられる場合に限るのだよ。
であるからこそ、たとえそこに闘示盤が無かろうとも常に戦局を詳らかに把握しておく必要があるのだ……いいね?
そしてどうやら君の言によればそれは可能であるとのことだが、まことに心強く、大いに安堵したぞ」
莞爾としてこう述べた新国王ゼトゥスは正面に向き直ると真珠を鏤めた白い革帯で左手首に巻いた純白の楕円形響鳴石に向かって、
「ダゴード、聞こえるか?
目下、戦闘域に展開中の全鏡晶珠を操作してくれているラツォーロ聖獣師によれば、おまえの響鳴石に星覇獣国の動向を映し出すことは可能であるとのことだ……うむ、とりあえず森に常駐させている4体の力猿は要塞の主要入り口2か所付近に待機させ、一旦内部へ戻れ。
私の予想では敵は凶霊龍による強襲のみならず混乱に乗じての潜入戦をも目論んでいるはずであり、このゼトゥスの命を奪うため自陣で最強の白兵戦隊を差し向けてくるであろう。
おそらくは、最近あの王国きっての名剣士・リジェドクを撲殺したという巨漢の鎧武者あたりも刺客の一人として加わっている公算が大だな……。
うむ、それであるからして、要塞内の守りに万全を期すためにもそろそろ【針撃獣兵団】を解き放っておくべきだろう──ふふっ、何しろあの怪物どもを手足のごとく自在に駆使できるのはおまえをおいて他におらんのだからな……!」




