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魔龍皇将士団の紋章  作者: 尾岐多聞
第2章 星覇獣国の秘密

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第17話 妖美の時計師は超戦士!?

 一介の時計職人にすぎぬはずのレィ・ネウェスの跳躍は何と5ヤーン(約8メートル)にも及び、度肝を抜かれた王宮死守兵団の面々は腰に吊るした剣の柄に手をかけたまま呆然と見上げるのみである。


「コ、コイツ……一体何者なんだ……!?」


 団長ラザク・ロドノフの疑問は部下たちのみならずレィと昵懇であった番兵たちのものでもあったが、兵団員たちが誰よりも恐れる彼の声を合図として条件反射的に抜刀する間に美貌の怪人物もアクションを開始していた──外套の内ポケットから右手を抜き出した時、ゴルフボールほどの大きさの紫玉が4個握られていたのである!


「や、奴めッ、懐から何か取り出したぞッ!?」


「危ないッ!おそらく爆弾だ、逃げろッッ!!」


 まるで蜘蛛の子を散らしたように四方に駆け出す兵たちを、さすがに微動だにせぬラザクが「見苦しいッ!誇り高き王宮死守兵が何たるザマだッ!!」と一喝するが、予め相手の反応を読んでいたらしい妖美の時計師は謎の球体を1個ずつ左手に持ち替えると、逃亡者たちの進路に向けて次々と投擲する。


 ──シュパアアアアアッ!


 紫玉が石畳に激突した刹那、誇張抜きに直径6ヤーン(約10メートル)ほどの空間が眩い紫の閃光に包まれ、視界を奪われた彼らは悲鳴を上げながら片手で握った剣を上方に突き上げ、もう片方の腕で両目を押さえながら蹲ってしまうのであった。


 当然ながら光は上方へも伸び、落下しつつあった時計師をも呑み込んだが、半メッツ(約1分間)後に光が薄れかけた頃にはむろんその姿はどこにもなかったのである。

 

 そして、“誇り高き武人”ラザク・ロドノフの姿もまた──。


          ✦


 隠者的傾向のあった前王の嗜好にしたがって、深い谷を見下ろす断崖に聳える闘神城の周囲は鬱蒼たる樹々に埋め尽くされているため、確たる土地勘さえ備わっていれば逃亡経路には事欠かない。

 そして1年(ルヌラリアの1年は15カ月)もの間、片道3ロッカ(約2時間)かけて少なくとも毎月一度は徒歩で森を横断してきたレィ・ネウェスにとって、それは決して難事ではなかったのであるが……。


 あたかも精悍な肉食獣を彷彿させる疾走によって順調に距離を稼いでいた彼の10ヤーンほど前方の木陰からゆらりと現れた黒い影──たとえ今が日没後で視界が定かでなかろうとも、そのずんぐりとした体型から瞬時にその正体は知れた。


「くっくくく……小細工ならお手の物であるキサマならではの小賢しくも鮮やかな逃げっぷりであったが、この私には通用せん。 

 とはいえあの大跳躍にはさすがに驚かされたが、あれだけの工作技術を持つオマエのことだ、何かとんでもない仕掛けをその靴底に仕込んでいるのであろう。


 ふふふッ、むしろ足手まといの連中が消えたことでこちらとしては動き易くなった──(愛剣をスラリと抜いて切っ先をレィに向け)どうだ、ここで最後の忠告を行っておくが、投降するなら今この時しかないぞ。

 そしてこの場でガドゥア様暗殺の大罪を認めるならキサマが最も恐れているであろう拷問室行きだけは免除してやる──だが抵抗するというのならここでとことん痛めつけた上で更にあそこで延長戦だ……さあどうだ?半メッツ待ってやろう、くれぐれも自らの力量を正確に鑑みて後悔のない決断を下すんだな」


 されど、返答は即座にもたらされた。


「大変申し訳ないですが、そこを退()いてもらえませんかね?」


 その瞬間、木々を揺るがす「ぬごりゃあああああッッ!!!」という怒号と共に、砲弾のごとき死守兵団長の短躯が白刃を引っ提げて突進して来た!

 されど美貌の時計師は羅紗布の包みを小脇にしたまま、無造作なまでに自然な足取りで前進するのであった──そして距離が残り1ヤーン余りに縮まったところで、岩をも断つであろう剛力によって明らかに一般兵が用いる物とは異なる重く分厚い凶刃が振り下ろされたのである!

 

 ──ガッキイイイインンッッ!!


 高硬度の金属同士による甲高い激突音が響きわたり、あろうことか渾身の力で振り下ろされた殺人剣を受け止めた物体がよりにもよって、いかに国王御用達の最高級品とはいえあくまで1個の時計を収めた外箱にすぎぬという超現実的事象にラザク・ロドノフは驚愕の表情を隠せなかった。


「キサマッ……時計の(はこ)でこの剛刃をッ!?

 そしてこのパワー……信じられんッ……死守兵団どころか王国軍でも屈指の腕力を誇るこのオレ様を向こうに回して一歩も退かぬどころかジワジワと押し戻しつつあるではないかッ……!」


 まさに武人として生涯最大の異常事に直面し、豪胆極まる死守兵団長の声にも動揺の色が隠せない。


「ははは、驚かれましたか?

 何といいましても国王陛下からご注文頂いた品ですから、値は張りますが万全を期す意味でもルヌラリア屈指の硬度と軽さを誇る【ソリューン鋼】で運搬用のケースを拵えましてね……もちろんそれに自作の【千迷鍵】も取り付けておりますが、この二段構えの施策によってたとえ函自体を入手したところで、そこらの盗賊ふぜいが中身を取り出すのは断じて不可能と自負しております。

 

 一方の腕力に関して申しますと、まぁさすがにあの真紅の魔人(ダゴード)様が相手となればキツいでしょうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


「──なッ、何だとォッ!?」


 掛け値なしに全力で剣を撃ち込んでいるラザクにとって、この余裕のコメントは到底信じられぬ……いや愛妻の浮気に直面するほど許し難いものであったが、事実として力負けしている現状では罵り返すこともできぬ。


「レィ・ネウェス……キサマ一体何者なんだッ!?……()()()()()()()()()()()()()!?

 そして真の目的はッ!?……答えろッ!?」


「真の目的と言われましても、しがないその日暮らしの平民であるわたくしはご覧のとおり一介の時計職人にすぎぬわけですから、いきなり人生の目的などと問われましても精魂込めて作業を行ない、依頼主の期待以上の成果物を仕上げてお届けするまでとしか申し上げようもないのでして……」


「しらばっくれるなッ!余人はまだしも、このラザク・ロドノフの目はごまかせはせんぞッ!!


 オマエにとって時計師は世を忍ぶための仮面にすぎん──その正体はどう考えても身の程知らずにも我が王国に真っ向から抗う星覇獣国の工作員か、あるいはこの争いに乗じて漁夫の利を得んとする大国の間諜に違いないのだッ!

 さあ吐けッ!一体どこの誰がいかなる意図をもってキサマを送り込んだのだッッ!?」


 容易く返答を得られる問いとは当のラザク自身が考えていなかったが、それは至極あっさりともたらされた──されど、その内容を理解するのが不可能であっただけである。


 妖美の時計師はこう答えたのだ、


「それは、【闘主】です」──と!



 

 



 



 


 

 



 


 






 



 


 




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