↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/72

第8話 隠された戦功

 部屋に入ったルクシオンは、ユリスに一礼した。


「突然伺って申し訳ありません。少しお話を聞かせていただけますか」


「これはルクシオン殿。もちろんです。こちらへ」


 ユリスは椅子を勧めた。ルクシオンは子爵家の息子で、自身の爵位はない。家の格だけなら、伯爵家の息子であるユリスの方が上だ。だが、戦勝会では公爵がこの男を傍らに置き、話を聞いていた。軽く扱える相手ではない。


 ルクシオンは椅子へ向かう前に、小石の並ぶ地図を見た。


「お取り込み中でしたか」


「新しく小隊長になった者に、兵の動かし方を教えていました」


 ユリスがライコを示す。ルクシオンの視線が少年へ移った。


「お若いですね」


「ライコです。先の戦功を受けて、第十小隊を任せました」


「その戦いについて伺いに来ました」


 ルクシオンは席に着いた。ユリスも向かいに座る。ドルグとライコは机の脇へ下がり、エドラスは扉のそばに立った。


 まず尋ねられたのは、左翼から敵中央の側面へ回った経緯だった。ユリスは敵右翼が下がったのを見て、中隊を右へ向けたと答える。ルクシオンは戦場の位置を確かめるように頷き、次に敵右翼の中隊長の話を出した。


「討ち取ったのは、どなたですか?」


 ユリスは答える前に、ライコを一度見た。


「我が隊の兵です。あの後は中隊全体で押し込みました。敵右翼を崩せたのは、皆がよく働いてくれたおかげです」


「兵のお名前は?」


「混戦でしたから、まずは隊全体の働きとして――」


 ユリスは言葉を選んだ。ここでライコが討ったと答えれば、一人で敵陣を斬り進んだ話まで尋ねられるだろう。公爵の傍にいるルクシオンから、あの兵を寄越(よこ)せと言われたら断れるのか。


 昔、補給品の記録を何日もかけて整理したときのことを思い出す。足りない物資が別の倉庫に回されていたのを見つけ、帳簿も作り直した。ところが上官は、ユリスの字で埋まった帳簿を持って、自分が調べ上げたかのように報告した。ユリスの名は残らず、次の日には別の書類の山が届いた。苦労はユリス、手柄は上官というやつだ。


 そういうことは、一度ではない。ライコを従者にして手元へ置いたのも、先に誰かに目をつけられたくなかったからだ。


「兵の名を尋ねてから、答えにくそうにされていますね」


 ルクシオンが言った。ユリスは顔を上げる。


「……そんなことはありません」


「私が部下を引き抜くと、お考えですか?」


 ドルグがルクシオンを見た。エドラスも扉の脇で顔を上げる。ユリスはすぐには否定できなかった。


「警戒なさる理由は分かります。ですが、公爵様の名にかけて、私があなたの功績や部下を奪うことはないと誓いましょう」


「そこまでして、なぜ知りたいのです?」


「私が知りたいのは、誰が何をしたのか。それだけです。正しく知らなければ、次に使うべき者を間違えます」


 ユリスは机の上の小石を見た。さっきまで、ライコが率いる兵の位置を確かめるために動かしていたものだ。部隊の力を知らずに次の戦場へ出せば、困るのは自分も同じだった。


「……敵の中隊長を討ったのは、ライコです」


 ルクシオンは改めてライコを見た。ユリスは続けた。


「一人で敵陣へ入り、中隊長を一撃で倒しました。止める間もありませんでしたよ」


「敵兵には囲まれなかったのですか?」


 ドルグが困ったように眉をかく。ユリスも呆れたような口調で続けた。


「私も信じられないのですが、囲まれる前に突破したそうで……」


 ルクシオンはライコへ視線を向けた。


「相手が指揮官だとは、分かっていたのですか?」


「知らなかった」


「では、なぜ向かったのです?」


「鎧が派手で強そうだったから……」


 ドルグにぎろりと睨(にら)まれ、ライコは慌てて付け足した。


「……です」


 ルクシオンは小さく笑った。


「戦ってみたかったのですね」


「うん」


 ユリスは咳払いをした。


「ルクシオン殿。戦いのことを調べているのは、何か理由が?」


「次の戦いに備えるためです」


「次?」


 ルクシオンは地図の国境線へ指を置いた。


「先に国境を越えたのはアインゼルです。王国が報復のために兵を出すなら、今度はあちらの領内が戦場になります」


「まさか、うちの中隊も行くんですか?」


「命令はまだ出ていません。ただ、第十二中隊の名は候補に挙がっています」


 ユリスは国境線を見た。戦勝会で顔を覚えてもらい、次こそ給金がよくて危険の少ない仕事を――そう考えたばかりだった。


「また危ない仕事かよ……」


 ライコは身を乗り出し、地図の国境の向こうに描かれた町を見つめていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。