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家族の条件

「ライコ、うちの婿(むこ)になれ!」


「……え?」


 ライコは、目の前のキティを見た。

 満面の笑みだった。


 木剣を片づけていたドルグまで、手を止めている。


「今、何て?」


「婿(むこ)になれと言った!」


 聞き間違いではなかった。


     ◇


 その少し前。

 キティは家で、母親と向かい合っていた。


「キティ。結婚のこと、少しは考えているの?」


「考えているぞ」


「まあ。では、どなたかいらっしゃるのね?」


「いや、まだいない」


 母は、膝(ひざ)の上で重ねた手を動かさずに、首だけをかしげた。

 すらりとした長身の、美しい人だった。穏やかな微笑みも崩さない。


「それは、前に聞いたときと同じお返事ね」


「条件も変わっていないからな」


「あなたも、もう二十四でしょう」


「二十四になったからといって、条件を変えるわけにはいかん」


 キティは腕を組んだ。


「強い男がいい。少なくとも、こちらが負けるくらいには」


「あなたに勝てる殿方、ね」


「そうだ!」


 母は小さく息をつき、隣に座る夫を見た。


「あなたからも、何か言ってあげて」


 バルクは重々しくうなずいた。


「弱い男ではいかんな」


「同じことを言ってどうするのです」


 母の声は、少しも大きくならなかった。

 バルクは口を閉じた。キティは満足そうにうなずいている。


「強い方がいいのは、私も賛成ですよ。でも、お相手がいなければ話が進まないでしょう」


「だから、見つければいい」


「それを、いつ見つけるのかと聞いているの」


「むう……」


 キティが黙ったところで、バルクが口を開いた。


「ライがいる」


 キティの腕がほどけた。


「……ライ?」


「うむ」


 あの顔が浮かんだ。

 話していると、少しも強そうには見えない。けれど、その強さは知っている。


 キティは、ぽんと手を打った。


「おお、それはいい!」


 母の目が、すっと細くなった。


「今まで気づいていなかったの?」


「婿(むこ)にするとは考えていなかった」


「そんなにすぐ決めてしまって、いいのかしら」


「強いぞ。文句なしだ」


「それは聞きました。あなたは、その方と一緒にいたいの?」


 キティは答えかけ、一度口を閉じた。


 ライコと手合わせをする。

 隣に座って、飯を食う。

 ただ話をする。


 最後の二つを思い浮かべても、悪くなかった。


「……うん。ライなら、いい」


 組み直しかけた腕を下ろした。


「ライがいい」


 母は娘の顔を見て、それから微笑んだ。


「では、ご本人に聞いてみないとね」


「聞いてくる!」


 キティは立ち上がった。


「待ちなさい。いきなりお話ししても、向こうは驚くでしょう。まずは――」


「分かった!」


 返事は、もう戸口から聞こえた。


 母は閉まった扉を見つめ、夫へ顔を向けた。


「あの子、何が分かったのかしら」


 バルクも扉を見た。


     ◇


 キティはライコの前で、ぐっと胸を張った。


「さあさあ、婿(むこ)になれー!」


「えー!?」


 ライコは思わずドルグを見た。


「俺を見るな」


 ドルグは木剣を抱え直し、目をそらした。


「ライコ殿!」


 伝令が訓練場へ駆け込んできた。


「ライコ大隊に招集が来ています!」


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