↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/72

闇討

 ライコは運営の台へ、試合用の剣を置いた。


 左手を離すと、腕が少し軽くなった。右の掌(てのひら)には、まだ布が巻かれている。


「これ、ありがとうございました」


 運営の男は剣を受け取り、台の下から隕鉄剣(いんてつけん)を出した。鞘(さや)に入ったまま、両手で持ち上げて差し出す。


 ライコは左手で鞘(さや)を受け取った。


 ずしりと、腕へ重さが戻る。


 今日使った剣とは、やっぱり違う。


 抜きやすいよう、鞘(さや)の金具を右の腰の帯へ掛けた。左手を放すと、帯がぐっと引かれる。


 右の腰に重みがかかる。ライコは帯の掛かり方を見て、鞘(さや)が帯から外れないことを確かめた。歩くたびに揺れないよう、左手で位置を直す。


 男の目が、右手の布へ向いた。


「その手は、休ませておけよ」


「はい。明日まで、剣は振らないようにします」


 ライコは礼を言い、会場を出た。


 外にも、まだ人がいた。今日の試合の話をしながら歩く人。連れの腕を引き、どこかを指す子供。


 空には夕日の色が残り、建物の間では影が深くなっていた。


 その間を抜けると、剣がぶつかる音も、歓声も聞こえなくなった。


 ライコは右手を見た。


 握れば、傷が開きそうだった。


 それでも、今日の相手の剣は思い出せる。顔へ迫った突き。斬撃をかわした後、すぐに構え直した足。


 強かった。


 あの人と、普通の剣で戦ってみたかった。


 上着の裂け目へ目を落とし、それから前を向いた。


     ◇


 通りを曲がったところで、男が一人、立っていた。


 ライコが近づいても、道を空けない。


「あの、通りたいんですけど」


 男は腰へ手をやった。


 背後でも、靴が地面を擦(こす)った。


 振り返ると、二人いた。


 片方は剣を、もう片方は短剣を抜いている。


 ライコの笑みが消えた。


 ここには境界線も、間に入る審判もいない。ライコは男たちの顔より、刃の先を見た。


 前の男も、剣を抜いた。


 何を言えばよいのか考えるより先に、その刃が胸へ迫った。


 ライコは半身になって突きをかわし、左手を右の腰へ伸ばした。


 右に掛けておいて、よかった。


 左手が迷わず柄へ届く。腰の帯に留めた鞘(さや)から、隕鉄剣(いんてつけん)を滑らかに抜いた。


 後ろの二人が、左右へ分かれる。


 ライコは壁側へ退き、建物の壁を背にした。三人の刃を、前で見る。


「囲め」


 前の男が言った。


 ライコは左手の剣を構えた。


 右手は、身体のそばに置く。


 試合用の剣なら、左手でも軽かった。


 これは違う。


 切っ先を動かすだけで、腕がその重さを受ける。止めた後、反対へ振るのにも力がいる。


 どれか一本だけを見ていれば、別の刃が届く。


 ライコは剣先を上げすぎず、左右の男の足も見た。


 前の男が、ライコの頭へ剣を振り下ろした。


 ライコは、その剣へ隕鉄剣(いんてつけん)を横から叩(たた)きつけた。


 甲高い(かんだかい)音が、通りに弾けた。


 男の剣の先が折れ、宙を飛ぶ。


 ライコの右側から、二人目の剣が胴へ伸びた。


 ライコはそのまま腰をひねり、隕鉄剣(いんてつけん)を振り抜いた。


 刃と刃が、激しくぶつかる。


 相手の剣は大きく外へ弾かれた。男は踏みとどまれず、上体をのけぞらせる。


 最初の男は、折れた剣を見ていた。


 先を失った刀身を、目が追っている。


 その一瞬、動きが止まった。


 ライコは、のけぞった男を追わなかった。


 右へ振った剣を返し、最初の男の胸へ刃を走らせる。


 服が裂け、血が散った。


 浅い。


 思ったほど、刃が入らなかった。


 左手一本では、この重さを十分に操れない。引き戻した刃を狙った深さまで届かせられず、胸を浅く斬るにとどまった。


 男は胸を押さえ、よろめいた。


 まだ、倒れない。


 二人目は後ろへ跳び退いた。


 左から、低い影が迫る。


 短剣の男だった。


 ライコは隕鉄剣(いんてつけん)を引き戻そうとした。


 振り切った直後の刃が、重い。


 両手なら、もっと早く返せた。だが、右の掌(てのひら)は柄を握れない。


 左腕だけで切り返す。


 ほんの少し、遅れた。


 男は腰を落とし、ライコの腿(もも)へ短剣を走らせた。


 ライコはとっさに左足を引いた。


 短剣の先が、左腿(もも)の外側を掠(かす)める。


 薄く、熱い痛みが走った。


 遅れて、隕鉄剣(いんてつけん)を振った。


 男は地面へ転がるように身を投げた。ライコの刃が、その身体の上を通り過ぎる。


 男は転がった先で立ち上がり、仲間へ目配せした。


 胸を押さえた男が下がる。


 二人目も剣を持ったまま、身を翻(ひるがえ)した。


 三人は、建物の間の闇(やみ)へ逃げていった。


 ライコは剣を構えたまま、しばらく動かなかった。


 足音が遠ざかる。


 通りの奥を見つめ、息を整えた。


 戻ってくる足音は、なかった。


     ◇


 左腿(もも)に、細い傷がついていた。


 布地の裂け目へ、少し血が滲(にじ)んでいる。


 深くはない。歩いても、足は動く。


 ライコは息を吐いた。


 試合の外でも、剣を向けてくる。


 何のためだったのだろう。


 逃げた先を見ても、分からなかった。


 左手の剣へ目を落とす。


 受ければ、相手の剣は大きく跳ねた。重さは、ちゃんと使えた。


 けれど、一度振った後に戻すのは、試合用の剣とは違う。


 右手を使えない今は、いつものつもりで振れない。


 ライコは右手を柄へ近づけず、左手で剣を下げた。


 腰に固定した鞘(さや)の口へ、剣先を合わせる。ゆっくり刃を送り、鍔(つば)が鞘(さや)口につくまで押し入れた。


 剣から左手を離した。


 今日はもう、抜きたくなかった。


 泊まっている部屋へ戻る頃には、通りの灯がともっていた。


 水で腿(もも)の傷を洗うと、少ししみた。布を当て、右の掌(てのひら)の布も新しいものに替えた。


 針が刺さった傷は、まだ深く残っている。


 右手は使わず、休ませる。


 ライコは食事を済ませ、横になった。


 明日も、試合がある。


 まだ戦っていない人がいる。


 強い人と、剣だけで戦いたい。


 初戦の騎士が差し出してくれた手を思い出した。あの人も、この街のどこかにいるのだろう。


 襲ってきた三人を思い返すより、初戦の騎士の剣の動きを思い出していたかった。


 目を閉じると、今日の剣の音が、しばらく耳の奥に残った。


     ◇


 翌朝、ライコは目を覚ました。


 窓の外が、明るい。


 起き上がり、少し首を傾げ(かしげ)た。


 どこが、と聞かれたら、うまく言えなかった。


 ほんの少し、身体の感じが違う。


 ライコは寝床に座ったまま、朝の光を見ていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。