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勝ち方

 二回戦の相手を待つ間、ライコは試合場から聞こえる剣の音を追っていた。


 打ち合う音が続くたび、そちらへ顔が向く。誰が勝つのかより、どうやって相手の剣を越えるのかが気になった。


「ライコ。次だ」


 運営の男に呼ばれ、剣を持って立ち上がる。


 手の中にあるのは、隕鉄剣(いんてつけん)とほぼ同じ長さの諸刃(もろは)の剣だった。運営の台から選んだ、縁を丸く潰(つぶ)した刃。腰にあの重い剣はない。


 試合場の向こうで、男が首を回していた。


 革の胴当てに、金属の手甲(てっこう)。右手で持った剣を軽く振り、観客席の一角へ顎(あご)を上げる。


「あれは、大会のために雇われた傭兵(ようへい)だ」


 運営の男が、ライコへ言った。


 傭兵(ようへい)が目を向けた席には、貴族が座っていた。


「強いんですか」


「ここまで残った相手だぞ」


 ライコは頷(うなず)き、境界線の内側へ入った。


「よろしくお願いします」


「おう。長く持てよ、坊主」


 傭兵(ようへい)は歯を見せて笑った。


 剣を持つ手は低い。だが、近づこうとすると切っ先がこちらへ向く。ライコが足を動かすたびに、男の足も少しずつ位置を変えた。


 簡単には飛び込めない。


 ライコは両手で剣を握った。


「始め!」


 地を蹴り、男の胴へ斬り込んだ。


 傭兵(ようへい)の剣が、その刃を受けた。


 金属が鳴った途端、男は大きく後ろへ転がった。背中が土につき、両足が空へ上がる。そのまま一回転し、片膝(ひざ)をついて起きる。


 ライコの次の刃は、頭上を空振りした。


 観客席から笑いが起きた。


「おっと、危ねえ」


 傭兵(ようへい)は片手を地面についた姿勢から立ち上がり、剣を構えた。


 あんなふうに避ける人もいる。


 ライコの口元が上がった。


 男は今度、自分から踏み込んできた。低く振った剣で足を狙い、ライコが跳んでかわすと、すぐに胸へ突きを伸ばす。


 ライコは着地しながら、その剣を横へ弾いた。


 傭兵(ようへい)は踏みとどまった。弾かれた剣を戻し、ライコの刃へぶつける。


 二本の剣が鳴った。


 その向こうから、男の左手が伸びた。


 握っていた砂が、ライコの顔へ飛んできた。


 ライコは首を傾け、上体を横へ倒してかわした。砂が耳の脇を抜ける。


 同時に、傭兵(ようへい)の剣が追ってきた。


 ライコは自分の刃を戻し、頭へ迫る一撃を受け流した。剣先が鼻の前を通り、二人の間へ土煙(つちけむり)が広がる。


 さっき、転がったときだ。


 地面についた手で、砂を拾っていた。


「そんな手もあるんだ」


 ライコが言うと、傭兵(ようへい)は口の端を吊り上げた。


「勉強になったか?」


「はい。でも、剣も速いですね」


 ライコは剣を前へ出した。


 男の突きを外へ弾き、空いた胴へ刃を走らせる。傭兵(ようへい)は腰を捻(ひね)ってかわし、足を入れ替えた。次の剣が、ライコの手首へ迫る。


 両手を引いて避けた。


 男が笑う。


 ライコも、もう一歩近づこうとした。


 傭兵(ようへい)の唇が、すぼまった。


 細いものが、その口から飛んだ。


 顔を狙っている。


 ライコはとっさに柄から右手を離し、開いた手を顔の前へ出した。


 掌(てのひら)に、鋭い痛みが走った。


 針が一本、掌(てのひら)へ深く刺さっていた。指を閉じかけると、突き出た針に触れてしまう。


 抜くまで、右手では剣を握れない。


 右手を引いたライコを見て、傭兵(ようへい)の目が細くなる。口元が笑っていた。


(こいつで決まりだな)


 男は剣を引き、踏み込もうとした。


 その前に、ライコが来た。


 剣は左手に残っている。


 ライコは右手を柄へ戻さず、左手だけで刃を振った。


 傭兵(ようへい)は慌てて受けた。


 耳元で、鋭い音が弾ける。


「おい、待――」


 次の刃が、もう迫っていた。


 ライコは男の剣へ一撃を叩(たた)きつけて弾き、すぐに斬り返した。


 嫌な気持ちが、胸の中へ広がっていた。


 砂を投げるのは、思いつかなかった。転がって避けながら次の攻撃を用意するのも、面白かった。


 けれど、針が刺さった手を見て笑う顔は、面白くなかった。


 最初の騎士は、全力で向かってきた。


 勝負がつけば剣を下げ、手を差し出してくれた。


 あの人と戦った場所で、目の前の男は、剣を握る相手が痛がるのを待っている。


 ライコの足が、さらに前へ出た。


「くっ!」


 傭兵(ようへい)が剣を立て、頭へ迫る刃を受けた。


 受けたと思ったときには、次の一撃が脇腹へ迫っていた。


 剣を下げて止める。


 今度は、上から振り下ろされる。


 追いついた刃が、甲高く鳴った。


 速い。


 傭兵(ようへい)の笑みが消えた。


 剣が戻らない。受けるたびに腕が跳ね、構えを直す前に次の一撃が飛んでくる。


「ぐっ!」


 丸い刃が、胴当てを叩(たた)いた。


 息を吐いた口が閉じる前に、腿(もも)へ次の一撃が入る。膝(ひざ)が曲がったところへ、手甲(てっこう)ごと腕を打たれた。


 傭兵(ようへい)はよろめき、なお剣を振った。


 ライコはその横を抜けた。


 男の刃は誰もいないところを走り、ライコの剣が反対側の胴を打つ。


 傭兵(ようへい)の身体が、右へ左へ揺れた。


 足を踏ん張ろうとしても、次の刃がそれを許さない。声を上げるたび、別のところを叩(たた)かれる。


 剣を振っている少年一人を相手に、何人にも囲まれているようだった。


「ま、ちょ、ぐえっ!」


 傭兵(ようへい)が最後に振り上げた剣を、ライコは下から弾いた。


 切っ先が高く跳ねる。


 剣を寝かせ、空いた胴へ左手で振り抜いた。


 胴当てに刃の腹がぶつかり、男の両足が地面から離れた。


 身体が横向きに飛んでいく。


 境界線を越え、仰向け(あおむけ)に土へ落ちた。勢いのままもう一度転がり、両脚だけがぴんと空へ突き出る。


 今度は、すぐには起きなかった。


「そこまで!場外!」


 ライコは剣を止めた。


 男の脚が、ばたりと土へ落ちた。


「勝者、ライコ!」


 歓声が上がった。


 傭兵(ようへい)は転がった先で上体を起こし、口を開いた。声が出ず、もう一度開ける。


「……何だよ、それ」


 ライコは剣を下げたまま、男を見た。


 返す言葉は、出てこなかった。


     ◇


 試合場を出ると、そばにいた衛兵がライコの右手を見た。


「どうした、その手」


「針が。口から飛んできました」


 ライコは運営の台へ剣を置き、左手で針をつまんで抜いた。


 抜いた途端、思った以上に血が溢(あふ)れた。掌(てのひら)に溜(たま)まり、手首を伝って落ちる。


 衛兵が傷を覗(のぞ)き込み、眉を寄せた。


「深いな」


 試合場の方へ顔を向けてから、ライコへ布を差し出す。


「これで押さえておけ」


 ライコは左手で受け取り、右の掌(てのひら)へ押し当てた。


「ありがとうございます」


 布が、じわりと赤く染まった。ライコは押さえる手へ力を込めた。


 向こうでは、傭兵(ようへい)が立ち上がっていた。胴を押さえ、足を引きずりながら、雇い主の席を見上げている。


 あの剣は、ちゃんと速かった。


 砂を避けた後も、次の一撃をすぐに返してきた。


 ライコは傷口を押さえながら、男の背中を見た。


「普通にやれば、もっと強かったのに」


 初戦の後のような笑みは、戻らなかった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


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