↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/76

第60話 間に合った援軍

 土煙(つちけむり)の中から、先頭の旗が近づいてきた。


 バスティオンが目を凝らす(こらす)。見覚えのある旗だった。


「ペドル殿だ!」


 旗のそばを馬で進む騎士が、川岸へ顔を向けた。


 倒れた兵。血に濡(ぬ)れた盾。敵を押し返しても、その場に立つのがやっとの者たち。


 ペドルは剣を上げた。


「前へ!味方を助けるぞ!」


 後ろの兵が声を上げた。列を広げ、川へ向かって駆けてくる。


 クアルデン兵の盾が、揺れた。


 目の前では、アイゼンベルクが親衛兵に抱えられている。呼びかけても返事がない。その向こうから、まだ力を残した新しい軍勢が迫っていた。


「閣下を舟へ!退け!」


 親衛兵が叫んだ。


 盾をルミナス兵へ向けたまま、仲間が担ぐアイゼンベルクの周りを固める。ルミナス兵に剣を向け、川まで下がっていった。


 周りのクアルデン兵も、後ろを振り返る。


 岸に残っていた舟へ、親衛兵がアイゼンベルクを運び込んだ。船べりへ盾を並べ、寄ってくる味方を乗せる。


 舟が岸を離れた。


 それを見た敵が、次々と川へ下がる。まだ戦おうとした兵まで、隣の男に腕を引かれた。


 ルミナス兵が声を上げ、槍を前へ出す。


「追いすぎるな!」


 マッチョリーニ伯爵が、大剣を掲げて止めた。


「岸を押さえろ!動ける者は、倒れている味方を助けるのだ!」


 前へ出かけた領兵が足を止めた。敵の背中を見てから、草地に倒れた仲間へ屈(かが)む。


 ペドルの兵がその脇を通り、川へ下がる敵へ盾を向けた。


 マッチョリーニ伯爵は、新しく来た兵の列を見た。自分たちの列とは違い、盾を持つ腕が下がっていない。


 大きく息を吐いた。


 大剣の先が、ようやく地面へ下りた。


     ◇


 ライコは川を見ていた。


 さっきまでこちらへ向いていた敵の顔が、もう見えない。盾も槍も、岸へ向かって遠ざかっていく。


「退いた……?」


「ああ。退いたぞ」


 ドルグの声がした。


 ライコはもう一度、川を見た。


 そのとき、足から力が抜けた。


 膝(ひざ)が折れる。バスティオンが脇へ腕を入れ、ドルグも反対側から身体を支えた。


「もう立たなくていい。座れ」


 ドルグはライコをゆっくり草地へ下ろした。


 足を投げ出すと、痛みが一度に押し寄せてきた。息を吐こうとして、胸まで痛む。


 柄を握っていた指を、一本ずつ緩めた。


 キティが駆け寄ってきた。


 ライコの前へ膝(ひざ)をつき、近くからその顔を見る。頬(ほお)の血は乾きかけていた。肩口の革は裂(さ)け、腕にも、脇腹にも傷がある。


「ライ……こんな傷で、まだ進んでいたのか」


 ライコは顔を上げた。


 何か答えようとしたが、息を整えるだけで精いっぱいだった。


 キティは自分の袖から布を裂(さ)いた。肩口の血が流れるところへ当て、手で押さえる。


「動かずにいるのだ。まず傷を見てもらおう」


 バスティオンが手当てのできる兵を呼んだ。ドルグは水を持ってこさせ、ライコのそばに屈(かが)んだ。


 ライコは、膝(ひざ)の横へ置いた剣に目を落とした。


 いつもなら、その先まで刃が続いていた。


 今は、途中で途切れている。


 手を伸ばし、柄に触れた。折れた刃の向こうには、泥のついた草が見えるだけだった。


 ドルグは何も言わなかった。


 遠くで、敵が退いたと知らせる声が上がった。


     ◇


 アイゼンベルクが倒れた場所には、剣が一本残っていた。


 近くの兵が、柄を拾い上げようとした。


 持ち上がらない。


 男は眉を寄せ、今度は両手で握った。腰を落として引き上げると、ようやく刃が草から離れる。


「何だ、これ……!」


 ただの剣に見えた。


 あの少年の大曲剣のように、巨大な刃でもない。それなのに、両腕へかかる重さは、見た目から想像したものとはまるで違う。


 持ったまま身体を起こすと、手が下へ引かれた。刃の先が、また地面につく。


「おい、手を貸せ!」


 別の兵が来て、男の顔と剣を交互に見た。


 二人で柄を支えて運ぶ。その重さに、助けに来た兵まで目を剥(む)いた。


 ドルグは運ばれてきた剣を見て、少し離れた草地を指した。


「そこへ置け。敵の大将の剣だ。ほかの戦利品と一緒に保管する」


 兵たちは剣を下ろした。一人が手を振り、しびれた指を曲げ伸ばしする。


 ライコは、その刃を見た。


 自分の全力を受け止めた剣。


 折れた大曲剣の柄を見てから、もう一度、草地へ置かれた刃へ目を向けた。


     ◇


 ペドルは前線へ兵を回した後、馬を降りた。


 負傷者の間を歩き、マッチョリーニ伯爵のもとへ来る。


「間に合ってよかったです。五千ほど連れてまいりました。敵軍の監視はこちらが引き受けます。そちらの兵を休ませてください」


 マッチョリーニ伯爵は、大剣を地面へ置き、ペドルの手を両手で握った。


「よく来てくれた!助かったぞ……!」


 大きな声が、最後には掠(かす)れた。


 ペドルはその手を握り返す。伯爵の後ろで、領兵が草地へ座り込んでいた。仲間の肩を借りて歩く者もいる。


「負傷者を運ぶ兵も、こちらから出します」


 そばの兵へ顔を向け、負傷者を運ぶよう命じた。


 セヴェロは、マッチョリーニ伯爵の脇でそのやり取りを聞いていた。


 眼鏡を押し上げ、川へ目を向ける。


 敵の舟が遠ざかっていた。岸には味方の盾が並び、その後ろで新しい兵が負傷者を抱えている。


 本当に、援軍が来た。


 副官として、まずは生きている兵を助けなければならない。


 セヴェロは近くの兵へ、歩けない者から後ろへ運ぶよう指示した。担ぐ者が足りない場所には、ペドルの兵を呼んで回す。


 その間も、頭の片隅から消えないことがあった。


 (早い)


 救援を求めても、伝令が着くまでに時間がかかる。知らせを受けてから兵を集め、支度を整え、ここまで軍を動かすにも時間がいる。


 要請を出した時期と、今の到着を照らし合わせる。


 この五千が動けるようになるまでの手順を、一つずつ考えた。


 間に合わない。


 だからこそ、退くことまで考えていた。


 だが、ペドルの兵は目の前にいる。汗を流し、土埃(つちぼこり)にまみれ、味方を助けている。


 セヴェロはペドルを見た。


 ペドルは運ばれる兵へ道を空け、すぐそばの負傷者を自分も支えている。助けに来たという言葉に、嘘(うそ)は感じなかった。


 それでも、時刻が合わない。


 セヴェロは疑問を胸の内へ留め、倒れた兵の方へ歩いた。


 (この時刻に来られるなら――いつから動いていた?)


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。