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第47話 久しぶりの休み

 ドエゴンの謹慎が解けた頃も、ライコは各地の戦場を走り回っていた。


 あるときは、山道で敵に追われた味方を救った。道幅は狭く、負傷兵を運ぶ列は速く進めない。追手が最後尾の兵へ何本もの槍を突き出したとき、ライコが追手と味方の間へ飛び込んだ。大曲剣が唸(うな)りを上げ、槍をまとめて薙(な)ぎ払う。追手の前列は、山道から転げ落ちそうになって足を止めた。


「先に行って!ここは俺たちが止める!」


 負傷した兵に肩を貸していた男が、何度も振り返りながら列とともに進む。ライコは敵へ踏み込んだが、押し戻した兵のさらに奥には、まだ追手がいた。


「ライ、深追いするな!負傷者が抜けるまで、ここを守るんだ!」


 ドルグの声に、ライコは追おうとした足を止める。敵が道の端から回り込もうとすれば、大曲剣の切っ先を突きつけ、回り込みを阻んだ。バスティオンの盾兵が道を塞(ふさ)ぎ、ドルグは最後尾の兵に負傷者を先へ運ばせる。


 最後の負傷者が、曲がり角の向こうへ消える。ドルグが手を上げ、ライコも盾兵とともに下がった。追手は狭い道でバスティオンが率いる盾兵の列を崩せず、負傷者の後を追うことはできなかった。


 別の戦場では、雨の中、味方の攻撃が敵の盾に止められた。幾度押しても、泥に足を取られて押し返される。ライコは戦場を見渡し、敵の盾が薄くなった一角を指した。


「あそこから入る。みんな、ついてきて!」


 第十二中隊が泥を跳ね上げて走る。敵が盾を向け直すより早く、ライコは盾の継ぎ目へ大曲剣を叩(たた)き込み、二人の兵を左右へ弾き飛ばした。開いた場所へドルグの兵がなだれ込み、ラーヴァは敵の槍兵に斬りかかる。バスティオンの盾兵が敵の反撃を受け止めている間に、敵の前列は崩れ、後ろの隊も退き始めた。


 ともに戦った別の中隊の兵たちは、次の戦場でライコを見つけると、自分たちから第十二中隊の隣に並んだ。


 戦が終わるたび、ライコの名を聞く者が増えた。報告書に戦功が記され、褒賞(ほうしょう)の知らせが届くこともあった。ドルグがその知らせを読み上げても、ライコは次の訓練で誰と剣を合わせるかをバスティオンに尋ねていた。


 若い。平民の出だ。それでも、巨大な曲剣を振るう姿を一度見た兵は忘れない。ライコは危ない場所へ真っ先に駆けつけ、その後ろには必ず第十二中隊が続く。そんな話が、兵から兵へと伝わっていった。


 もちろん、皆がライコを認めたわけではない。軍の将たちの中には、年齢や生まれを理由に顔をしかめる者もいる。それでも戦場から届く報告には、第十二中隊と、その中隊長の名が何度も記された。


 そうして一年近くが過ぎた。


     ◇


 次の任地へ向かう第十二中隊は、街道沿いの町に予定より一日早く着いた。


 朝のうちに町外れの宿営地へ入ると、兵たちは荷を下ろし、馬を休ませ始める。宿営地を守る兵の一人が、ライコの背の大曲剣を見て、隣の兵の袖を引いた。


「あれが第十二中隊の……」


「ずいぶん若いな。本当に中隊長なのか?」


 ライコが二人の方を向くと、若いと言った兵は気まずそうに口を閉じた。もう一人は大曲剣から目を離せない。ライコは手を上げて挨拶し、宿営地の中へ進んだ。


 大曲剣を外し、ようやく肩を回す。


「今日はここで休める。明日の朝には出発だ」


 バスティオンが行程を確かめながら言う。


「一日だけ?」


「一日も、だ。前の任地を発ってから、まともな休みはなかっただろう」


 荷車のそばでは、眠そうな兵が座り込んでいる。別の兵は外した鎧(よろい)を抱えたまま、動く気力もなさそうだった。戦が終われば次の持ち場へ移る。その繰り返しで、皆、久しぶりに剣を置ける日を迎えていた。


 ドルグが兵たちへ休息を命じて戻ってくると、ライコは宿営地の向こうに見える森を眺めていた。


「ライ。何を見てる?」


「森。久しぶりに歩きたい」


「休みの日まで歩くのか」


 ドルグが呆(あき)れた顔をする。ライコは振り向いて笑った。


「だって、行軍中は道から外れるな、勝手にいなくなるなって言われるだろ。今日はいいんだよね?」


「中隊長が迷子になったら、明日の出発が遅れる」


「迷わないよ。村にいた頃は、一人で森に入ってたんだから」


 バスティオンが二人の会話を聞いて、大曲剣へ目をやる。


「剣は置いていけ。休みの日まで、それを背負って歩くことはない」


「うん。森を歩くだけだし」


 ドルグはまだ何か言いたげだったが、ライコの顔を見て息をついた。


「夕方までには戻れ。明日の朝は早いぞ」


「わかった!」


 ライコは私服に着替え、大曲剣を宿営地に残して森へ向かった。


 町外れの道を少し進むだけで、家々から聞こえる声は背後へ遠ざかる。道沿いの木立を抜ける風は涼しい。ライコは足元の折れた枝や、湿った土に残る小さな獣の跡を見つけては、子供の頃のように目を輝かせた。


 明日の朝にはまた、兵を率いて街道を進む。今日は行き先を決めずに歩ける。それが楽しかった。


 森の入口へ差しかかったとき、ライコは足を止めた。


 ――キンッ。


 金属のぶつかる音が、木々の向こうから聞こえた。続いて馬が激しくいななき、誰かが叫ぶ。


 ライコは音のした方へ駆け出した。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


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