↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/71

第41話 筆頭将軍

 ドエゴンは公爵を見つめたまま、開きかけた口を閉じた。


 越境を禁じたのが公爵本人なら、「若造の策を現場で改善した」という言い訳は通らない。


「プライデル伯爵の件は、後日の軍議で扱う」


 公爵はそれ以上、ドエゴンを問い詰めなかった。


「今は、戦った者たちの働きを称える場だ。クレイル伯爵、前へ」


 ペドル・クレイルが進み出る。右軍が敵の攻勢を受け止め、最後には敵将を討ったことが読み上げられた。敵の将軍旗のもとまで斬り込んだ第十二中隊の名も、はっきりと呼ばれる。


 ペドルは公爵から戦功を記した書面を受け取った。自分の兵が認められたことに、頬が緩む。だが、振り返った先にドエゴンの姿を見つけると、笑みを引っ込めた。


 続いて、ほかの戦場でトロス軍を引きつけた部隊が呼ばれた。次には、長い対陣のあいだ補給を途切れさせなかった部隊の名が続く。左軍についても、白狼騎士団の猛攻を受けた兵たちの働きが読み上げられた。壇上へ進む将が代わるたび、会場には拍手が起きた。


 ドエゴンは席に座り、俯(うつむ)いたまま、そのすべてを聞いた。


 最後の表彰が終わり、公爵が会の終了を告げた。


     ◇


 数日後、王都で軍議が開かれた。


 長い卓を囲む席は、すべて埋まってはいない。公爵と筆頭将軍のほか、王都にいる各派の大将や、王都にいない大将の代理を務める将が数名、席に着いていた。各地の大将を、この件のために全員呼び戻すことはしなかった。


 それぞれの椅子の後ろには副官や書記が立つ。ルクシオンも公爵の後方に控え、手にした書類を揃えていた。


 卓の上座についたシルベイン公爵は、将軍ではない。軍務卿(ぐんむきょう)として軍をどこへ出し、何を目的に動かすかを定める。実際の戦場で兵を率いるのは将軍たちだ。国境へ軍を出し、越境を禁じた命令も、公爵が軍務卿(ぐんむきょう)として発したものだった。


 公爵の隣には、レオニード・ホークガルドが座っていた。


 年老いてなお大きな身体を持つ、王国の筆頭将軍。第一王子派にも第二王妃派にも与(くみ)さず、王国の軍を長く支えてきた男だ。背を椅子へ預けず、卓上の報告書に目を落としている。席に着いた将の何人かは、彼と目が合う前に姿勢を正した。


 公爵が一枚の命令書を卓の中央へ置く。


「トロス国境での任務は牽制(けんせい)。越境は禁じた。プライデル伯爵は、その命令を受けていたにもかかわらず、左軍から五百人を敵領へ送った」


 公爵は地図の上に指を置いた。トロスと向き合っていたのは、ペドルとドエゴンの軍だけではない。ルミナスは複数の地点へ軍を出し、シーネルへ向かう敵兵を分散させていた。


「各軍が持ち場を守ることで成り立つ策だ。一軍だけが勝手に国境を越えれば、ほかの軍の動きにも影響する」


 公爵が顎(あご)を上げると、ルクシオンは後ろに立ったまま別の書類を開いた。帰還兵の報告だ。村から食糧と家畜を奪ったこと。兵が家を焼き、村人を殺したこと。伏撃(ふくげき)に遭って多くの兵を失い、生き残りが敵に追われて戻ったこと。ルクシオンは書かれた順に読み上げた。


 ドエゴンは軍議の席にいない。ペドルもいない。二人の報告書と、表彰会でのドエゴンの弁明を記した書面が、卓に並べられていた。


 公爵がその書面を取り上げた。


「伯爵は、物資を奪うよう命じたが、村人の殺害も敵との交戦も命じていないと述べている」


 第二王妃派の将が口を開いた。


「殺害を命じた証言は、まだありません。命令違反は別として、村で起きたことのすべてを伯爵の責任と決めつけるのは早計です」


 第一王子派の将が、村の被害を記した報告書を指した。


「では、焼かれた家や殺された者については、現場の兵だけを裁くのか」


「そうは申しません。何を命じたかは、引き続き調べるべきだと申し上げています」


 レオニードが顔を上げた。


「村人を殺せと命じたかどうかは調べればよい。だが、越境を禁じられていたのに五百人を送り込んだ。これは伯爵自身が認めている」


 卓を挟んで言い合っていた二人の将が、口を閉じた。


「兵には、他国の村から物資を奪えと命じた。その兵が村人を殺し、村を焼いた。命じておらんから自分には関係ないと、将が言えるものか」


 第二王妃派の将が身を乗り出した。


「伯爵に責任がないとは申しません。しかし、左軍は白狼騎士団と戦い、戦果も挙げました。厳しい謹慎を命じ、しばらく兵の指揮から外せば――」


「しばらく、か」


 レオニードはその言葉を遮(さえぎ)った。


「戻したあと、また軍務卿(ぐんむきょう)の命令より自分の判断を優先したらどうする。そのときも勝ちさえすればよいと?」


「そのようなことは申し上げていません」


「だが、軍に残せば、いずれまた兵を預ける話になる」


 レオニードは卓を囲む将たちを見渡した。


「私は、ドエゴン・プライデルを軍から除籍すべきだと考える」


「軍籍を剥奪(はくだつ)するのですか」


 第二王妃派の将の声が強張(こわば)った。第一王子派の将は、公爵が中央に置いた命令書を指で叩(たた)く。


「禁じられた越境を独断で命じた将です。軍に残すなら、次の命令違反を誰が止めるのか」


「処分が必要なことは認めます。ですが、軍籍まで奪えば、将としての道を閉ざすことになります」


 レオニードは命令書を見たまま答えた。


「だからこそ、除籍を求めている」


 第二王妃派の将が口を閉じる。公爵の後ろで、ルクシオンが書類を揃える手を止めた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。