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第33話 白狼の槍

 二日目の朝、トロス軍は再び全軍を動かした。


 盾と槍の列がルミナス軍に迫る。ペドルは右軍の前列に兵を残し、敵の勢いを正面から受け止めた。数で勝るこちらには、別の隊を動かす余力もある。


「右端の二隊を前へ。敵の横に回り込め!」


 前列が敵を引き受けている間に、右端の部隊が外側へ広がる。トロス軍もそれを見て、ペドルの二隊が向かう側へ兵を回した。包囲を許すまいと槍の列を伸ばし、二隊を押しとどめる。


 ペドルはすぐに別の隊をその後ろから進ませた。左軍が崩れる前に、右軍で優位を作りたい。敵が包囲を防ぐために兵を割けば、その分、正面への圧力も弱まるはずだった。


「伝令!左軍が押されています!」


「何っ!?まだ戦いは始まったばかりだぞ!」


 ペドルが左を見る。ドエゴン軍は最初の衝突から押し返せず、前列ごと後ろへ下がっていた。右軍が踏みとどまるほど、両軍の前列がずれていく。このままでは右軍の左側面が敵にさらされ、正面と横から攻められる。


「第十二中隊を左へ救援に出せ!」


 昨日の戦いで、ライコの中隊は何度も危うい場所へ駆けつけた。足が速く、崩れそうなところを見つけるのも早い。ペドルはまず、その中隊を左軍との間へ向かわせた。


 ライコたちが持ち場を離れると、ペドルは空いた場所に別の隊を入れる。包囲を狙って右へ出した部隊からも、兵を戻す用意をさせた。


「伝令!ライコ隊が向かったところ以外でも、左軍が崩れています!」


「チッ……右へ出した二隊を戻せ!さらに二隊、左軍へ送る!」


 右へ伸びかけていた兵の列が向きを変える。前進する敵を右軍が受け止め、左軍が下がるたびにペドルは援軍を送った。一か所を塞(ふさ)いでも、別の場所が危うくなる。決壊寸前の堤を守るように兵を動かし続けた。


(このままでは守るだけで手いっぱいだ。いずれ、支える兵が足りなくなる)


     ◇


「ライ、あそこだ!」


 ドルグが示した先では、ドエゴン軍の兵が盾を下げかけていた。トロス兵がその前へ踏み込み、さらに後ろの隊まで退かせようとしている。


「みんな、ついてきて!」


 ライコは大曲剣を肩に担ぎ、敵の列へ駆け込んだ。正面から槍が突き出される。剣の腹で払い上げ、その勢いのまま横薙(な)ぎに振るった。


 横薙(な)ぎを盾で受けた兵が隣の兵を巻き込み、二人まとめて地面を転がる。開いた隙間へライコが踏み込むと、別の兵が槍を突き入れてきた。


 ライコは大曲剣を下から風車のように回し、槍の穂先を跳ね上げた。そのまま頭上へ振り上げた刃を、盾を掲げる兵へ一気に振り下ろす。


 落雷にも似た音が響いた。盾が裂け、その下の兵も大曲剣に断ち割られる。周囲のトロス兵が足を止めた。ライコは刃を引き抜き、さらに奥へ走る。


 敵がライコの背後へ回ろうとしたところで、ライコは味方の列へ駆け戻った。追ってきたトロス兵を、ドルグの小隊が槍で迎える。別の場所にいた敵兵までライコを追って動いた隙に、ドエゴン軍の兵は盾を並べ直した。


「ライコ隊だ!まだ退くな!」


 昨日助けられたドエゴン軍の兵が叫んだ。バスティオン小隊が盾を並べると、逃げかけていた兵もその隣へ戻る。


 敵の一人が横から入り、盾の陰にいたバスティオンの兵へ槍を突き出した。兵は正面の敵を受けていて、横を向けない。


「キョエエエエッ!」


 ラーヴァが横から飛び込み、突き出された槍を剣で払いのける。そのまま敵兵を斬り伏せ、次にバスティオンの兵へ向かった敵にも斬りかかった。


「うわっ!」


 助けられた兵が肩を跳ねさせた。ラーヴァの声に驚いたのだ。本人は構わず、味方へ迫る敵を見つけるたび、甲高(かんだか)い声を上げて剣を振るう。初めはその声に振り返っていた兵も、やがて声が上がった方なら背を預けられると気づいた。ラーヴァのいる場所では敵が近づきにくくなり、盾兵も槍を突き返せた。


 ライコは再び敵の前へ出た。大曲剣で槍の列を乱し、ドルグたちが追いつく頃には味方の盾の横へ戻っている。前へ出るライコと、その場で仲間を守るラーヴァ。二人が動くたび、押されていた兵も少しずつ前を向いた。


 別の場所から、また左軍の兵が退いてきた。ライコはそちらを見ると、大曲剣を担ぎ直して走る。


「今度はあっちだ!みんな、来て!」


 ドルグが自分の小隊を率いて後に続き、バスティオンは残った兵とともに、ようやく持ち直した場所を守った。ラーヴァもその場に残り、味方へ迫る敵を斬る。甲高(かんだか)い声が、ライコの背後から再び聞こえてきた。


     ◇


 トロス軍の後方では、白い上衣を着た騎兵が出撃を待っていた。


 白狼騎士団の隊長、ガスパール・ヴァランは馬上で槍を握っている。目の前のルミナス軍を見ると、怒りが込み上げた。村で見た光景が、頭から離れない。


 白狼騎士団を率い、歩兵五百人とともに国境へ向かう途中、助けを求める村人に出会った。男は息を切らし、まだ村に家族がいると訴えた。


 村へ駆けつけたときには、ルミナス兵は去った後だった。穀物を入れた倉は荒らされ、家からは煙が上がっている。井戸のそばには、剣も槍も持たない村人が倒れていた。男はその一人へ駆け寄ったが、抱き起こしても返事はなかった。


 ガスパールは追跡を命じた。荷車の轍(わだち)と家畜の足跡は、国境へ向かって続いている。略奪した兵を見つけても、すぐには襲わなかった。轍(わだち)が続く丘の間で歩兵を伏せ、盾と弓を用意させる。騎兵は、逃げる敵を追える位置へ回した。


 伏兵に気づいたルミナス兵は、奪った荷を道へ捨てた。歩兵の盾を避けて丘を越えた者にも、馬の足なら追いつける。白狼騎士団は逃げる敵を追い、槍で次々に突き殺した。敵陣へ逃げ込まれるまでに、越境してきた五百人の半数近くを討った。


 それでも、村で倒れていた人々は戻らない。


 ガスパールは目の前の戦場へ意識を戻した。ルミナス軍の左側では、押されていた兵が盾を並べ直している。右軍から来た兵が加わり、トロス軍の前進を食い止めていた。


 ガスパールの背後では、白狼騎士団の五百騎が、いくつもの列に分かれて槍を構えた。白い上衣が風をはらみ、馬の蹄(ひづめ)が地面を踏む音が重なる。


 ガスパールは槍を掲げた。


「突撃ッ!」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


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