↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/72

第32話 崩れる左軍

 翌朝、トロス軍が陣の前に並んだ。


 援軍の千人が加わり、敵は三千に増えていた。盾と槍の列から、焼かれた村の名を叫ぶ声が上がる。国境越しにこちらを見据える顔には、怒りが浮かんでいた。


 ルミナス軍も、東のペドル軍と西のドエゴン軍が並んで受ける。それぞれの旗の下に兵が集まり、二つの軍の継ぎ目には間が残っていた。


 ペドル軍は二千人。ドエゴン軍は、越境させた五百人の損害を抱えていた。戻らなかった者も多く、生きて帰った兵にも傷を負った者がいる。


 敵陣から角笛が鳴り響いた。


 トロス軍の前列が動き出し、国境を越えて迫った。盾の縁がぶつかり合い、足音が平原を渡ってきた。


「まだ引きつけろ」


 ペドルの命令が伝わり、右軍の前列は持ち場で待った。敵が近づく。顔が見え、怒鳴り声まで聞き取れる。


「今だ。槍を構えろ!正面で受け止める!」


 ペドルの旗が上がった。盾がそろい、その間から槍が前を向く。そこへトロス軍がぶつかった。


 盾が激しく鳴り、前列の兵の足が土を削る。下がりかけた兵の背を、後ろの者が支えた。トロス兵は押し返されても、すぐに次の者が盾を構えて踏み込んでくる。


 第十二中隊も、右軍の前列で迎え撃った。ライコが大曲剣で槍を払い、バスティオンの盾兵がその脇を守る。前へ出すぎた敵は、ドルグの小隊が槍で押し戻した。


「ライ、ひとりで行くなよ!」


「分かってる。みんな、来て!」


 ライコは後ろの足音を確かめて踏み込んだ。敵の槍を弾き払い、仲間が前へ出る場所を作る。


 右軍は持ちこたえていた。一方、西のドエゴン軍では、命令の声が変わった。


「前へ出ろ!」


 ドエゴン軍で上がった命令は、すぐに「退くな!」という怒鳴り声になった。前列が押し戻されると、隣の隊も側面を攻められるのを恐れて下がる。負傷者と踏みとどまる兵がぶつかり、乱れた列へトロス兵が入り込んだ。


「左軍との間が開いています!」


 伝令がペドルの馬へ駆け寄った。西を見ると、ドエゴン軍の旗が後ろへ遠ざかっている。空いた間から敵が入れば、右軍は横から攻められる。


「西端の二隊を回せ。まず間を塞(ふさ)げ!」


 二隊が左へ走った。薄くなった右軍の正面を、残る兵が広がって守る。そこへトロス軍が押し込み、盾の列が揺れた。


 次の伝令がペドルのもとへ走り込む。


「左軍の前列が、また下がりました!」


「第十二中隊を向かわせろ!」


 伝令が駆け出した。ペドルは隣の部隊を動かし、第十二中隊が抜ける持ち場を埋めさせた。


     ◇


 救援命令を聞いたドルグが、西を指した。


「ライ!左だ!」


 ドエゴン軍の兵が押し込まれ、その後ろの隊まで退き始めていた。先に来た二隊だけでは、広がる隙間を塞(ふさ)ぎきれない。


 ライコは大曲剣を構えて走った。ドルグの小隊と、バスティオンの盾兵が続く。


 味方を追い立てていたトロス兵が、ライコへ槍を突き出した。ライコは大曲剣で横から弾き、踏み込んで刃を打ち下ろす。


 盾で受けた兵が、岩でも落ちたような重い音とともに膝(ひざ)をついた。ライコがその盾を刃で横へ押しのける。開いた場所へ、ドルグたちが駆け込んだ。


「味方か?」


 逃げかけていた左軍の兵が振り返った。


「右軍のライコ中隊長だ!助けに来たぞ!」


 第十二中隊の兵が声を張る。ライコは迫る敵の槍を払い、振り返った兵たちへ叫んだ。


「ここに並んで!まだ守れる!」


 バスティオンの隊が盾をそろえ、敵の突きを受け止めた。退いていた兵もその隣へ戻り、自分の盾を構える。


 ドルグは後ろへ下がる兵の腕をつかみ、盾兵の脇を指した。


「そこだ。槍を前へ向けろ。隣の奴と一緒に守れ!」


 兵が槍を構え直す。ライコが敵を押し返し、バスティオンたちが空いた場所を守った。崩れかけた列が、もう一度つながる。


 だが、一か所を支えたところで、別の場所から救援を求める声が上がった。立て直した列を左軍の兵に任せ、ライコたちは次の場所へ走った。


 日が傾くまで、ペドルは右軍から兵を送り続けた。左軍が下がるたびに間を埋め、その分薄くなった右軍の正面を守り直す。片方が破れれば、もう片方も横から攻められる。


 日没とともにトロス軍が引き揚げ、ルミナス軍も負傷者を運んで陣へ戻った。左軍は初日から何度も崩れかけた。救援を出し続けた右軍にも、負傷者が増えている。


 牽制(けんせい)に来たはずが、味方の一軍を失いかねない戦いになっていた。


     ◇


 その夜、ペドルはドエゴンの天幕を訪れた。


 部下たちが地図を囲み、翌日の配置を話し合っている。そのすぐそばで、ドエゴンは厚切りの肉を頬張(ほおば)り、酒を飲んでいた。卓には白パンや果物まで並んでいる。


「今日、こちらから三度、兵を左へ送りました」


 ペドルは声を荒らげなかった。


「次も同じように左軍が下がれば、右軍を守る兵が足りなくなります。部隊を動かすときは、こちらにも知らせてください」


 ドエゴンが杯を置いた。


「私の軍の動かし方まで、お前に指図される筋合いはない」


「指図ではありません。両軍の間を守るために必要な報告です」


「トロスは三千。こちらはまだ数で勝っておる。お前の兵がもっと前へ出れば済む話だ」


 地図を囲んでいた部下たちが口を閉じた。ペドルは言葉を選び直す。


「左軍が退けば、敵は右軍の横へ入ります」


「だから何だ。今日はお前の兵を送って防げたではないか」


 ペドルはドエゴンを見た。明日も同じことができるとは限らない。だが、繰り返しても聞く気はないらしい。


「では、明朝の配置だけでも知らせてください。継ぎ目を守る部隊を把握しておきたい」


 ドエゴンが顎(あご)で部下に指図した。配置を書いた紙が運ばれてくる。ペドルは受け取り、天幕を出た。


 外では、負傷者を運ぶ兵の声がまだ続いていた。明日、左軍が今日より早く退いたら。残された兵で両軍の間を守りきれるか、ペドルには分からなかった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。