第27話 二十人の盾
「ライコ中隊長。面会を求める方が来ています」
扉の向こうからの声に、ライコが答えた。
「入って!」
ライコの声に扉が開いた。銀色の長い髪を肩の後ろへ流した男が、兵に案内されて入ってくる。
「ルクシオン!」
「お久しぶりです、ライコ」
ルクシオンは微笑み、机に広げられた名簿へ目を向けた。その後ろから、もう一人、肩幅の広い男が入ってくる。短く刈った黒髪に太い眉。血色のいい顔には、まだ若さが残っていた。背中には盾を負っている。
「こちらはバスティオン・ガードナー。ガードナー男爵家の次男で、レグベル公爵のもとにいる騎士です」
男はライコの前で足を揃えた。
「バスティオン・ガードナーです。二十人を率いてきました。よろしくお願いします、中隊長」
ライコは男の顔を見上げる。貴族だと紹介されたが、先日出ていった小隊長たちのような、値踏みする目はしていなかった。
「二十人?」
「第十二中隊は、それだけ兵が足りないと聞きました」
ルクシオンが答える。ドルグは名簿を閉じ、二人を見た。
「公爵家の方から、うちへ兵を?」
「ええ。彼らも第十二中隊への参加を承知しています。まずは顔を合わせていただけますか」
ライコはもう立ち上がっていた。
◇
兵舎の外に、二十人の兵が並んでいた。足元には荷が置かれ、背には盾がある。ライコが近づくと、彼らは一斉にバスティオンへ目を向けた。
「中隊長に、お前たちの戦い方を見てもらおう。盾を持って、並べ」
男たちが足元の荷を脇へ移し、盾を構える。前に出た兵が盾を並べ、後ろの兵がその間へ盾を重ねた。列の隙間が消える。バスティオンが右へ二歩動くと、列も同じだけ動く。足音にばらつきがない。
「おお!」
ライコが横へ回ろうとすると、端の兵が盾を向け直した。隣の兵もついていく。間へ入れると思った場所が、すぐに塞がる。
ドルグは二十人の足運びを見ていた。攻めてくる相手に合わせて列を動かす。盾を持って立つだけでは身につかない動きだ。
「よく鍛えていますね」
「ありがとうございます。ドルグ隊長、こいつらをどこへ置けばいいですか?」
「まずは荷を兵舎へ。そのあとで、残っている小隊の配置を相談しましょう」
バスティオンが頷いて声をかけると、兵たちは盾を下ろした。荷を運び始めた一人から大きな包みを受け取り、バスティオンも肩に担ぐ。
「自分で運ぶの?」
ライコが聞くと、バスティオンは笑った。
「運ぶさ。うちは人手が足りなくてな。畑仕事も狩りも、親父や村の連中と一緒にやってた」
「貴族でも?」
「貴族でも腹は減るからな」
そう言って歩き出すバスティオンの盾を、ライコは目で追った。
「ねえ、あとで俺とも戦おうよ。その盾、破れるか試したい!」
「いいぞ。でもまずは、こいつらの荷を下ろして、寝る場所を決めさせてくれ。手合わせは明日にしよう」
「約束だよ!」
「分かった、分かった」
バスティオンは笑いながら兵舎へ入った。ライコはその背を追いかけそうになったが、ドルグに襟をつかまれる。
「お前はこっちだ。まず名簿を直す」
「あっ、そうだった」
◇
兵舎の部屋へ戻り、ルクシオンも椅子に腰を下ろした。ドルグが、バスティオンから預かった紙を広げる。連れてきた兵二十人の名前と、それぞれが扱える装備が書かれている。ドルグが第十二中隊の名簿へ写す間、ライコは新しい名前を一つずつ読んだ。
「これで、足りなかった二十人が揃ったな」
ドルグが筆を置く。空いていた欄が埋まっている。ライコは、新しく仲間になった兵たちの顔を思い浮かべた。
「後で、みんなの名前も聞いてくる」
「そうしろ。バスティオンとは配置の話もせにゃならん」
ルクシオンは二人のやり取りを聞き、静かに席を立った。
「では、私はこれで。バスティオンのことをよろしくお願いします」
「うん。ありがとう、ルクシオン!」
◇
数日前。
ルクシオンに呼ばれたバスティオンは、机を挟んで彼と向き合っていた。
「あなたにお願いがあります」
ルクシオンは一枚の名簿を差し出した。そこには第十二中隊と、その新しい中隊長の名が記されている。
「率いている二十人とともに、この部隊へ加わっていただきたいのです」
「第十二中隊……中隊長が代わったそうですね」
「ええ。ライコという少年です」
バスティオンは名簿から顔を上げた。
「兵が足りないという話は聞いています。ですが、それだけなら私たちである必要はありませんよね」
ルクシオンは頷いた。
「彼を、近くで見てほしいのです」
「見て、どうするのですか」
「どれほどの実力を持ち、どんな人物なのかを知りたい。報告書だけでは、そこまでは分かりません」
バスティオンは、もう一度ライコの名を見た。二十人を連れて行けば、自分だけでなく、彼らも少年の指揮の下に入る。
「分かりました。ただ、部下たちの命もかかっています。ルクシオン殿が聞きたい答えを選んで報告するつもりはありません」
「それで構いません。あなたが見たことを、そのまま教えてください」
バスティオンは名簿を置いた。
「そこまでして、あの少年を見極めたい理由は何ですか」
ルクシオンはライコの名が書かれた行に目を落とす。
「将来、公爵家に――ひいてはルミナス王国にとって、力となる人間かを知りたいのです」
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