↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/76

第26話 人斬りラーヴァ

「……軍では『人斬りラーヴァ』と呼ばれている男だ」


 ドルグが補充候補の名を指すと、ライコが顔を上げた。


「人斬りって、そんなに強いの?」


 ドルグはすぐには答えなかった。


「俺も剣を合わせたことはない。元は傭兵(ようへい)で、貴族との決闘で相手に大怪我をさせた。ほかにも斬った相手がいるそうだ」


「じゃあ、会ってみたい」


「話を最後まで聞け。人斬りだぞ」


「聞いたよ。強いかどうかは、会えば分かる」


 ドルグは名簿を閉じた。あの呼び名を聞いて目を輝かせる中隊長を、止める言葉が見つからなかった。


     ◇


 前線基地での戦いから数日が過ぎていた。


 募集に応じた兵と、所属先が決まっていない者を確かめるため、ライコとドルグは兵舎を回っていた。まだ第十二中隊の欠員を埋めるには遠い。ドルグが名簿に印をつけ、ライコは一人ずつ顔を見て名前を聞いた。


 最後に向かった兵舎の裏手には、小さな訓練場があった。兵に連れられて現れた男を見て、近くにいた候補者が口をつぐむ。


 背が高い。だが肩も胸も薄く、頬(ほお)は痩(や)せこけていた。背中まで伸びた黒髪の間から覗(のぞ)く目が、ライコをじっと見ている。目が合うと、男は口の端を大きく歪(ゆが)ませ、狂気じみた笑みを浮かべた。今にも誰かを斬ろうとしていると言われても納得する顔だった。


「お前がラーヴァ?」


「ヒッヒッ……ラーヴァニル。……ラーヴァでいいぜぇ」


 声は小さく、語尾だけが妙に長い。そばで聞いていた兵が身を引く。ライコは構わず、男の手を見た。指の節が硬く、剣を握り慣れた手だった。


「剣、使えるんだよね」


「使えるさぁ」


「じゃあ、ちょっと試すだけ。俺とやろうよ」


 ラーヴァの笑みが止まった。ライコの顔から身体へ視線を移し、腰の辺りで目を留める。


「ライ、待て」


 ドルグが二人の間へ腕を差し入れた。


「お前はまだ怪我が治ってないだろう」


「もう治ってるよ」


「前線基地じゃ、立っていられなくなったんだぞ」


「あれから何日も経ったよ」


 ライコは上着の裾(すそ)を持ち上げた。脇に残る傷はまだ赤い。だが、数日前に血を流していた場所はすでに塞(ふさ)がっている。


 ドルグは傷とライコの顔を見比べた。昨日も訓練場で動いているのを見たが、数日前に担架で運ばれた者とは思えない。


 ライコは上着を戻すと、その場で身体をひねり、軽く跳ねてみせた。


「本当に、無茶はするなよ」


「うん。ちょっとだけ」


 ラーヴァは二人のやり取りを黙って聞いていた。ライコが訓練場の木剣を二本取り、一本を差し出す。ラーヴァは受け取る前にもう一度、傷のある脇へ目を向けた。


「ヒッヒッ……俺とやり合うってのかぁ?構わないぜぇ」


 ラーヴァは差し出された木剣を取った。ドルグが、その顔を見て念を押す。


「こいつが言い出したことだ。だが、傷を狙うな」


 ラーヴァは答えず、木剣を無造作に下げたままライコを見ていた。


 ドルグが二人を離し、周囲の兵を下がらせる。ライコは木剣を肩に担いだ。目の前の男がどう動くのか、早く見たかった。


 ラーヴァは長い腕を下げたまま、身体を斜めに向ける。木剣の先は低い。構えの隙を探してライコが半歩踏み込むと、その先端がわずかに動いた。


 間合いへ入る足を狙っている。


 ライコが左へ跳ぶ。足のあった場所を木剣が払い、着地したライコは、ラーヴァの胸へ横に打ち込んだ。


 ラーヴァは上体を後ろへ反らした。木剣が胸のすぐ前を抜けると、低い位置にあった剣先を返し、ライコの手首へ突き上げる。ライコは振り抜こうとした腕を引き、突きをかわした。


「今の、速いね!」


 ライコは笑って距離を詰め、腹を狙って木剣を下から振り上げた。ラーヴァは右へ一歩踏み、半身になってかわす。続けてライコが頭へ打ち下ろすと、さらに右へ踏み出した。木剣は長い黒髪をかすめて落ちた。


 ラーヴァの足は止まらない。ライコが踏み出そうとした足へ、低い突きを放った。ライコが足を引くと、剣先が地面すれすれを抜ける。


「キェエエエエッ!」


 ラーヴァが甲高(かんだか)い声を張り上げた。低い突きから木剣を引き戻し、踏み込む。周囲の兵がたじろぐ中、今度は木剣の先がライコの胸へ迫った。


 ライコはとっさに両手で木剣を握り、胸の前へ立てて受け止めた。乾いた音が響き、握る手に鋭い衝撃が走る。ラーヴァの顔から、先ほどの不気味な笑みが消えていた。木剣を握りしめ、ライコを射抜くように見据えている。


 二人は木剣を引き、距離を取った。


 ライコの目が輝いた。


「もう一回!」


「ちょっとだけと言っただろうが」


 ドルグが割って入る。ライコは不満そうに木剣を下ろしたが、ラーヴァはすぐに一歩退いた。


「……終わりかぁ」


「ああ。十分だ」


 ドルグは答えながら、ライコの脇を見た。上着に血はにじんでいない。それでも、続きを許す気にはなれなかった。


「ラーヴァ、強いね。俺の隊に来てよ」


 ライコがまっすぐ言うと、ラーヴァは木剣を下ろしたまま動かなくなった。返事を待つ間、近くの兵が誰も口を開かない。


「……俺を、かぁ?」


 ラーヴァは自分の背後にいる兵たちを振り返る。目が合った一人が、慌てて顔をそむけた。


「俺を入れたら……ほかの奴らが、嫌がるぜぇ」


「大丈夫!強い人ならみんな大歓迎だよ!」


 周りの兵がぎょっとしてライコを見た。ラーヴァも、すぐには答えない。


「俺が入っても……いいのか?」


 さっきまでのねっとりとした響きが消えた、小さな声だった。


「うん!よろしく!」


 ライコが手を差し出す。ラーヴァはその手を見つめ、やがて木剣を持ち替えて握り返した。


     ◇


 数日後。第十二中隊の兵舎で、ドルグは補充した兵の名を名簿へ書き加えていた。ラーヴァを迎え、募集にも何人かが応じたが、必要な人数にはまだ二十人足りない。


「あと二十人か」


「今日来た人を入れても?」


「入れて、だ」


 ライコは名簿の空欄を覗(のぞ)き込んだ。


「ほかに誰かいないかな。強い人」


「強さだけで選ぶなよ。兵を任せられる奴も要る」


「うん。どうやって探そう?」


 そこで扉が叩かれた。


「ライコ中隊長。面会を求める方が来ています」


 ライコとドルグは顔を見合わせた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

・続きが気になる!


と思っていただけたら、ページ下の☆から評価していただけると励みになります。

★の数は、率直に感じたままで大丈夫です!


皆さまの反応が、続きを書く大きな力になります。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。