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第20話 蛇の剣

 ライコは踏み込み、ロッコの喉元へ剣を突き出した。


 大曲剣の柄が、その切っ先を弾く。ライコはすぐに剣を引き、腕へ斬りつけた。黒い鱗(うろこ)模様の鎧に火花が散る。続けて脚を狙ったが、ロッコは一歩下がって刃をかわした。


「速いな」


 ロッコが柄を握り直し、大曲剣を横に振った。


 ライコは剣を立てて受けた。


 雷鳴のような金属音が弾けた。受けた剣が押し込まれ、踏ん張った足が土を滑る。押し返そうと力を込めた瞬間、全身が横へさらわれた。


 地面へ背を打ち、転がる。それでも剣は放さず、ライコは足をついて跳ね起きた。柄を握る手に、衝撃が残っている。


 ロッコはもう追いついていた。大曲剣を振り上げ、頭へ叩き下ろす。


 ライコは横へ跳んだ。今まで立っていた地面を刃がえぐり、土が飛ぶ。


 背後では、敵兵が再び柵の割れ目へ取りついていた。第十小隊が槍で押し返している。そちらへ追い込まれれば、仲間まで大曲剣に巻き込まれる。


 ライコは割れ目から離れる方へ走った。ロッコが身体を向け直し、大曲剣を追わせる。


 刃の届く距離は、先ほどの一撃で見た。その外へ足を運んだはずだった。


 だが、ロッコは踏み込んだ足を軸に腰を回した。両手で柄を引くと、弧を描く長い刃が、ライコの逃げた先へ回り込む。


 まだ届く。


 ライコが身体をひねるより早く、切っ先が鎧の脇を裂いた。浅い傷が走り、熱い痛みが遅れて広がる。


「そこまで届くのか」


 ライコは、大曲剣を構え直すロッコを見た。


 まるで、うねる蛇だ。刃を避けたと思っても、逃げた先へ切っ先が伸び、鎧の隙間に噛(か)みついてくる。


 ロッコも、ライコの脇へ目を向けていた。手応えは浅い。すぐに大曲剣を振り上げ、今度は斜め上から首を狙った。


 ライコは膝を深く曲げ、刃の下へ飛び込んだ。ロッコの胴へ自分の剣を届かせようとする。


 だが、ロッコは剣を胸元へ戻すと、ライコへ踏み込んだ。


 鎧に覆われた肩が迫る。ライコは両手で握った剣を胸の前に立てたが、止めきれなかった。


 巨大な鉄槌(てっつい)で殴られたような衝撃が、剣を通じて胸へ突き抜けた。


 ライコは後ろへ弾き飛ばされ、地面を転がった。剣は放さず、足を地面に突っ張って止まる。片膝をついたときには、肺の中の空気を押し出されたようで、すぐには息を吸えなかった。


 長い刃を掻(か)い潜って懐に入っても、あの体当たりがある。


 ライコは細く息を吐き、顔を上げた。ロッコがまた近づいてくる。


 脇の傷がひりついた。それなのに、大曲剣を握る姿を見ると、口元が緩む。


 あの剣は、まだ自分の知らない動きをする。


 ライコは立ち上がった。柄を握り直す手に力が入る。胸の奥が熱くなり、心臓が激しく脈打っていた。


 ロッコの剣が、横から胴へ迫った。


 ライコは後ろへ跳び、刃が通り過ぎると同時に踏み込んだ。腕へ剣を振るう。ロッコは鎧で受け、大曲剣を引き戻した。


 首への突きは、剣の根元で止められた。ライコがすぐに足元へ斬り返すと、ロッコは脚を引き、踏み直して大曲剣を振るう。


 速く斬り込んでも、厚い鎧と大曲剣が急所を守る。ロッコの剣を受ければ押され、避けても反った刃先が追いすがる。


 何度も刃を交わした。ライコは攻める手を止めず、ロッコも引かない。柵の内側で、二人は斬り結び続けた。


     ◇


 やがて柵の影が長くなった頃、角笛が鳴った。


 一度ではない。ツヴェリア軍の陣から同じ音が繰り返され、ほかの柵でも敵が下がり始めた。その日の攻撃を打ち切る合図だった。


 ロッコは音のする方へ顔を向けた。割れ目を攻めていた兵が盾を構え、柵から離れていく。


 ライコへ向き直ると、ロッコは大曲剣を構えたまま後ろへ下がった。割れ目を通って外へ出ても、こちらから目を離さない。


 その向こうには、後退する兵を守る盾が並んでいる。追えば、そこへ一人で飛び込むことになる。


「もう終わり?」


 ライコの声に、ロッコは答えなかった。最後の兵が柵を離れると、黒い鎧も敵の列へ戻っていく。


「ちぇっ。まだ戦いたかったのにな」


 ライコは剣を下ろした。そこで脇の傷が痛み、顔をしかめる。


 近くで守備兵が手を貸すのを断り、エドラスが立ち上がった。胸を押さえたまま、ライコのところへ歩いてくる。


「ライ、大丈夫か?」


「浅いよ。エドラスは?」


「大丈夫だ。大したことはない」


 そう言っても、エドラスは胸を押さえた手を離さなかった。息をつくたびに、顔がこわばる。


 二人が割れ目から離れると、板を抱えた兵が通り過ぎた。ユリスが、負傷者を奥へ行かせ、動ける兵に板と土嚢(どのう)を運ばせている。


 ライコも手当てへ向かう。エドラスはその隣を、胸をかばいながら歩いた。


 ユリスは、破れた柵を見た。今夜のうちに塞がなければ、明日はそこから敵が入る。


 自分が出した伝令は、もう後方へ着いただろうか。援軍がすぐに動いてくれていれば、明日には間に合うかもしれない。


 そうでなければ、またこの人数で守ることになる。


「明日が正念場だな」


 板を打ちつける音を聞きながら、ユリスはつぶやいた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


久しぶりの小説執筆なので、誤字脱字や「ここが分かりにくい」「こうした方が読みやすい」と感じたところがあれば、気軽に教えていただけるとうれしいです。

「この部分が分からなかった」の一言だけでも、とても助かります!


また、本作を読んで少しでも


・面白かった!

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