第18話 休むのは敵だけ
入口と反対側で、柵の木が割れた。
ユリスが音のした方へ顔を向けると、割れ目から槍が突き込まれていた。守備兵が押し返しても、次の敵が柵へ取りつく。
「ドルグ、兵を連れてあっちへ!入口の守りは残せ!」
ドルグが自分の小隊を走らせた。ユリスも後を追う。柵の内側では、弓兵が空の矢筒を振っていた。
「矢は運び込んだばかりだろう!」
「まだ荷車にあります!運んでいた兵も、敵を止めに回っていて……!」
柵を破られかけたため、先ほど命じた矢の運搬が止まっていた。荷車はすぐそこにあるのに、今ここを守る兵を抜けば、敵が入る。
ユリスは、柵から離れたところに座る負傷兵へ目を向けた。腕に布を巻いているが、立とうとした足には力が入っている。
「歩けるか?」
「歩くくらいなら」
「荷車から矢を運べ。箱は持つな。片手で持てる分だけでいい」
兵はうなずき、荷車へ向かった。額に布を巻いた別の兵も立ち上がる。
「俺も運べます」
「頼む。ほかにも動ける者がいたら声をかけろ。無理な奴は休ませておけ」
やがて、矢を抱えた兵が戻ってきた。弓兵は受け取った一本をすぐにつがえ、割れ目のすぐ外まで迫った敵を射る。
敵がひるんだ隙に、ドルグたちが柵へ駆け寄った。内側から押し返し、木をつかむ敵の手を槍で突く。敵が離れると、ドルグがそばの兵へ怒鳴った。
「板を持ってこい!ここを塞ぐぞ!」
割れ目に板を当て、兵が押さえる。その間も、負傷兵は荷車と弓兵の間を往復していた。
ひと息つく前に、横手から別の叫び声が上がった。
ユリスが駆けつけると、エドラスが守備兵とともに、柵を越える槍を剣で払っていた。
「敵は退いたんじゃなかったのか!」
「退いたのは、先ほどの場所だけです!」
エドラスが槍を押し返しながら答えた。ここへ兵を増やしたいが、ドルグたちを全員呼び戻せば、割れた柵が手薄になる。
ユリスは兵を一人つかまえた。
「ドルグに伝えろ。柵を支える兵は残し、動ける者をこっちへ回せ」
ほどなくドルグの小隊の兵が走ってきた。守備兵の隣に入り、槍を突き出す。敵はしばらく押してから、柵を離れた。
ユリスは、戻ってきたエドラスと柵の隙間から外を見た。退いた敵兵が、水を飲んでいる。その脇を、別の兵が武器を手に通り過ぎた。
反対側から、また味方を呼ぶ声が上がる。
「……あいつら、順番に休んでやがる」
こちらは四方を空けられない。敵が集まった場所へ兵を送るたびに、別の場所が薄くなる。兵は同じ柵の内側を、何度も走らされていた。
◇
ユリスが兵を戻す先を考えていると、ライコがそばへ来た。
「あそこ、やばいかも」
指されたのは、今は大きな声も上がっていない一角だった。ユリスは、敵が押し寄せている反対側へ目をやる。
「今、攻められているのは向こうだぞ」
「うん。でも、あっちが先に抜けそう」
ライコは指を下ろさなかった。その先で、守備兵の一人が膝をついている。隣の兵が代わりに槍を突き出していたが、柵を押されるたび、足が後ろへ滑った。
「行ってみろ。第十小隊を連れてな」
「わかった」
ライコは待たせていた部下へ手を振り、柵へ走った。小隊の兵が追いつくと、ライコは膝をついた守備兵の前へ入った。
その直後、柵の外で伏せていた敵兵が立ち上がった。
敵が一斉に木を押した。守備兵が踏ん張りきれず、柱の傾いた隙間へ盾がねじ込まれる。後ろの敵にも押され、盾を持つ男が柵の内側へ入った。
「敵が入ったぞ!」
第十小隊の兵が叫んだ。
ライコは、男が剣を振り上げるより早く、その手首を斬った。剣が落ちる。盾の上へ突き出された別の槍を剣で払い、傷ついた男を蹴り戻すと、後ろから続こうとした敵も押しとどめられた。
「押し返せ!」
ライコの声に、第十小隊の兵が隙間へ盾を並べた。ライコが伸びてくる槍を弾く。その間に守備兵が柱を押し戻し、別の兵が板を運んできた。
敵は、盾と板で塞がれていく割れ目から離れた。
追いついたユリスは、柵の前に立つライコへ尋ねた。
「よく分かったな。こっちが危ないと」
「何となく。あの人、もう立ってられなさそうだったから」
ライコが目を向けた守備兵は、仲間に支えられて柵を離れるところだった。
あの男が倒れてから兵を呼んでいたら、間に合わなかっただろう。ユリスは、少し先で動く敵へ目を戻した。
「ライ、お前の隊は一か所に置かない。危ないと思った場所へ動け。ただし柵の外には出るな。動くときは、俺にも知らせろ」
「わかった」
ドルグの小隊には、補強した柵を守らせた。ライコたちが動いても、兵を残す場所は必要だった。
その後も、敵は攻める場所を変え続けた。
荷車から矢が届く。空になった矢筒へ、弓兵がそれを詰め直す。ライコたちは柵の内側を走り、ユリスは届く報告を聞いて、兵を送る先を決めた。
日が傾いて、ようやく敵の攻撃が遠のいた。
柵から離れたところに、敵兵の火が見える。こちらの兵も地面へ座り込んだが、外を見張る者まで休ませるわけにはいかない。
ユリスは、割れ目に打ち足された板を見た。夜の間に、ほかの傷んだところも直しておかなければならない。
後方へ出した三人の伝令からは、まだ何の知らせもない。
「……まだ一日目か」
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