第17話 援軍だ
ユリスは馬上から、煙の下にある前線基地を見た。
木の柵の内側で、守備兵が槍を突き出している。押し返された敵も、すぐにまた柵へ取りついた。別の場所でも剣が振られ、兵の叫びが続いている。
後ろには、三日かけて運んできた荷車が並んでいた。今なら引き返せる。だが、基地が落ちれば、物資の届け先そのものがなくなる。
輸送隊長が、柵へ取りつく敵兵を見て馬を止めた。手綱を握る手が震え、すぐに来た道を振り返る。
「私が責任を持って援軍を呼んでくる。君は、ここを頼む」
ユリスが返事をする前に、隊長は馬を返した。荷車を見もせず、来た道へ駆け去っていく。残された御者が、ユリスへ顔を向けた。
(あの男に任せて待てるか)
「エドラス。足の速い馬を三頭回せ。基地が襲われていると伝え、援軍を急がせろ」
「はっ」
エドラスが兵を呼び、馬へ向かわせた。三人が来た道を駆け戻っていくのを見送り、ユリスは輸送の兵へ向き直った。
「荷車はそのまま待たせろ。俺が合図したら動かすんだ」
御者たちが手綱を握り直す。ユリスは基地の入口へ目を戻した。
敵は柵を攻めるのに気を取られ、こちらへ背を向けている。入口までの道を開けば、荷車を中へ通せる。
「ライ、入口の前を破れ。敵を追うなよ。荷車の道を開けるんだ」
「わかった」
ライコが第十小隊を連れて前へ出た。ドルグも自分の小隊を動かし、その隣へ並ぶ。
「俺たちは横を押さえる。お前だけ先に行くなよ」
「うん」
ライコが走り出すと、気づいた敵兵が振り返った。胸へ突き出された槍を剣で払い、敵の腕の内側へ踏み込む。剣を返して胸を斬ると、男は槍を落として倒れた。
その場所へ第十小隊が入った。ドルグの小隊も横から押し、入口へ通じる道を広げていく。
「後ろから来たぞ!」
柵を攻めていた敵が向き直った。ライコたちへ剣を向け、開いた道へ押し寄せる。
「入口まで道を守れ!」
ドルグの声に、兵が足を止めて盾を構えた。ユリスが荷車の列へ腕を振る。
「今だ!荷車を進めろ!」
車輪が動き始めた。ライコたちは道の両側に残り、荷車へ近づく敵を退ける。
「援軍だ!入口を開けろ!」
ドルグが柵の内側へ叫んだ。守備兵はすぐには動かず、隙間から槍を向けてこちらを見ている。
「味方だ!補給を持ってきた!」
守備兵が、荷車の両脇で敵を食い止める兵たちを見た。槍を引き、扉の陰へ手を振る。
ようやく入口が開いた。先頭の荷車に、二台目、三台目が続く。
「中へ入った荷車は奥へやれ!入口で止まるな!」
ユリスは内側へ声を飛ばした。ここで詰まれば、後ろの荷車が敵の前に取り残される。
最後の荷車が、入口の手前で遅くなった。敵の叫びに馬が首を振り、御者が手綱を引く。その間に、敵兵が荷車の後ろへ回ろうとした。
ライコが男の前へ入った。振り下ろされた剣を弾き、剣を握る手首を斬る。ドルグも別の敵を盾で押し戻した。
「進め!」
ドルグが御者へ叫ぶ。馬が蹄を踏み鳴らし、再び車輪が動いた。
最後の荷車に続いて、ユリスも入口を通った。ライコとドルグが部隊をまとめて入口をくぐると、守備兵が木の扉を閉じる。外から槍が叩きつけられ、兵たちは太い木を渡して扉を押さえた。
◇
基地の中は、荷車と兵で混み合っていた。負傷者が地面に座り、木箱には柵を越えた矢が刺さっている。
ユリスは馬から下り、近くの騎士へ尋ねた。
「ここの指揮官はどこだ?」
「……亡くなりました。流れ矢が当たりまして」
「何だって!?代わりに指揮を執っている者は?」
「皆、持ち場は守っています。ですが、全体の指示を出せる者が……」
残っているのは下級騎士や平民の兵ばかりだった。自分の持ち場を守るので精いっぱいで、基地全体へ指示を出す者がいない。
ユリスは額を押さえた。報奨金は、まだ一枚も使っていない。給金のいい役職を夢見たばかりで、今度はこの木の柵を守ることになるのか。
「ここにいる兵は?」
「三百には届きません。そちらの中隊が入っても、四百に満たないかと」
「敵は?」
「千ほどおります」
「千か……」
ユリスは運び込んだ荷車を見た。物資はある。矢の箱も積んでいる。
自分が出した三人の伝令が、一日か一日半で後方へ着く。援軍がすぐに動けば、三日ほどでここへ届くだろう。それまで、柵の向こうにいる千人を防がなければならない。
「俺が指揮を執る。荷車は入口から離せ。矢を各持ち場へ運べ。動けない負傷者は奥で手当てしろ」
近くの兵が荷車へ走った。騎士も声を張り上げ、持ち場の兵へ指示を伝える。
ユリスは、ライコとドルグへ向き直った。
「お前たちは四方を見てこい。どこから入られても困る」
ライコが、周りの柵を見渡した。
「入らせなきゃいいんだね」
「そうだ。少なくとも三日は、もたせる」
そのとき、入口の方で敵の声が遠のいた。退いたのかと、ユリスが顔を上げる。
反対側から、柵の木が割れる音がした。
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