第15話 手柄の行方
城門からルミナス軍の本隊が突入した。城壁の上にも、第十二中隊をはじめとする兵がいる。アインゼル軍は両方へ兵を向けたが、門から入る本隊も、城壁を進む兵も押し返せなかった。
町は、その日のうちにルミナス軍の手に落ちた。
戦闘が終わると、ユリスはエドラスとともに中隊の兵を数え、報告をまとめた。
ライコが崖を登り、梯子の上り口を守る敵を退けた。そこから味方が城壁へ上がり、ドルグの小隊が門を開けた。第十二中隊は、ほかの上り口も押さえている。
ユリスは一つずつ書き留め、報告書を見直した。
「これだけやったんだ。今度こそ、いい評価がつくだろ」
給金が上がり、危険の少ない役職に近づくかもしれない。ユリスの口元が緩んだ。
ところが、総大将の陣幕へ報告に行くと、中から声が聞こえた。
「三日間攻め続けて敵の目を正面へ集め、側面の崖を使った。我ながら、よい判断だった」
ユリスは入口で足を止めた。開いた幕の向こうで、記録係が総大将の言葉を書き取っている。
「第十二中隊の働きは、どう記しますか」
記録係が筆を止めて尋ねた。
「私の策を実行した部隊だ。そう書けばよかろう」
ユリスは手元の報告書を見た。
崖を使うと言い出したのはライコで、許可したのは自分だ。総大将が命じたのは、正面からの力攻めだった。
それが今、総大将の策として書かれている。
報告書を握る手に力が入った。だが、今ここで言い返しても、相手は総大将だ。次の戦いで、また危険な場所へ送られるかもしれない。
ユリスは紙を持ち直し、陣幕へ入った。
◇
戦勝会には、レグベル・シルベイン公爵も姿を見せた。ユリスも席へ呼ばれていたが、目の前の杯を手に取る気にはなれなかった。
総大将が杯を掲げる。
「敵を正面へ引きつけ、崖から城壁を破った。あれが勝因だ」
出席者の何人かが頷いた。ユリスは顔を上げたが、何も言わなかった。
「失礼します」
ルクシオン・フラグナが一礼し、進み出た。
「何だ、公爵のところの若造」
「戦功の記録について確認させてください」
ルクシオンは手にした紙を開いた。
「崖を登ったのは、第十二中隊のライコ小隊長です。その案を認め、兵を登らせたのはユリス中隊長。第十二中隊はほかの上り口も確保し、ドルグ小隊長の兵が城門を開けました」
「それも私の指揮の下であろう」
「全軍を率いたのは閣下です。ただ、閣下の副官が残した命令には、崖への指示はありません」
総大将が杯を下ろした。ルクシオンは別の紙へ目を移す。
「ユリス中隊長の報告に加え、ドルグ小隊長と、梯子から上がった兵にも話を聞きました。別の上り口を押さえた隊の報告とも照らし合わせています。崖を使うよう閣下から命じられたという証言はありませんでした」
ユリスはルクシオンの手元を見た。
自分の報告書だけではない。あの場にいた兵に確かめ、部隊ごとの働きまで調べていたのだ。
ルクシオンは紙を揃え、総大将へ顔を向けた。
「戦功を正しく記さなければ、次の戦いで使うべき者を間違えます。崖からの突破を決め、兵を動かした働きは、第十二中隊の戦功として記すべきです」
総大将は口を開きかけたが、レグベルへ目をやると、そのまま口を閉じた。
レグベルはユリスへ目を向けた。
「よくやった、ユリス。部下の働きも記録に残そう」
ユリスは立ち上がり、頭を下げた。
「ありがとうございます」
これで、部隊を動かした自分の働きも記録に残る。報奨金も、次の役職も期待できるかもしれない。給金は高く、前線からは遠い方がいい。
顔を上げると、ルクシオンと目が合った。
ユリスは、自分の部屋へこの男が訪ねてきたときのことを思い出した。あのときルクシオンは、公爵の名にかけて、功績も部下も奪わないと誓った。
ルクシオンが、にこりと微笑んだ。
◇
会が終わってから、レグベルはルクシオンと、占領した町の地図を広げた。
「町は取った。さて、これをどう使う?」
ルクシオンはすぐには答えず、地図の上へ指を置いた。
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