第13話 崖の上
「上へ出たら、まず梯子の上の敵を退かせろ。あそこが空かなきゃ、俺たちは登れん」
崖に手をかけたライコへ、ドルグが背後から言った。
「敵を追いかけて、そこを空けるなよ」
「わかった」
ライコは岩の割れ目に指を入れ、突き出た石へ足をかけた。腕で身体を引き上げ、空いた足を次の出っ張りへ移す。
下からは大きく見えた出っ張りも、近づけば指先がかかるほどしかなかった。それでも、つかめる場所はある。ライコは次の割れ目を探し、身体を持ち上げた。
足を置いた岩が、ぐらりと動いた。
石が崩れ、片足が宙へ浮く。ライコは岩をつかんだまま、残った足を割れ目へ押し込んだ。身体が止まる。崩れた小石が下へ跳ねていった。
「本当に登ってるぞ……」
「声を出すな。上に聞こえる」
ドルグが兵を黙らせた。ライコは足場を確かめ、また手を上へ伸ばす。
城壁の正面では、ほかの部隊の攻撃が続いていた。上から石を落とす音に、兵の喊声が重なる。ユリスは第十二中隊に梯子を用意させ、崖の方へ目を向けていた。
やがて、崖の縁が目の高さへ近づいた。
ライコは指をかけ、そっと上を覗いた。続いている城壁の上には、槍を持つ兵や、石を抱えた兵がいる。皆、外へ掛けられた梯子の方を見ていた。
ライコは身体を引き上げ、城壁の上へ足を下ろした。
◇
剣を抜く音に、近くの槍兵が振り返った。
胸を狙う穂先を剣で払い、ライコは踏み込む。槍兵が柄を引き戻すより早く、剣を返して、その手首を斬った。
槍が石の上へ落ちた。敵兵は傷口を押さえて下がり、声を張り上げる。
「敵だ!城壁の上に敵がいるぞ!」
叫び声に、離れた敵兵まで振り向いた。
ライコは梯子の上り口へ走った。そこにいた敵兵が、抱えていた石を放り出す。隣の槍兵が前へ出て、ライコの腹を狙って槍を突き出した。
ライコは剣で槍の柄を外へ押し、その横へ踏み込んだ。脇腹を斬られた槍兵がよろめく。石を捨てた男は剣を抜いたが、ライコが迫ると、倒れかかった仲間を避けて後ろへ下がった。
上り口の前が空いた。
ライコは壁の下へ顔を向けた。
「ドルグ、今だ!」
下で待っていたドルグが、剣を掲げた。
「よし!梯子を掛けろ!」
ルミナス兵が梯子を運び、ライコのいる場所へ立て掛ける。ドルグは数人を下に残して梯子を支えさせ、先頭の兵を登らせた。
その間にも、アインゼル兵が上り口を取り返そうと近づいてきた。
ライコは下から目を戻した。振り下ろされる敵の剣を弾き、踏み込んで胴を斬る。男が倒れると、その後ろの兵が盾を上げた。
ライコは追わなかった。ここを離れれば、梯子を登る仲間が敵の前へ出てしまう。
最初のルミナス兵が、城壁の縁へ手をかけた。
横から敵の槍が伸びる。ライコはその柄を剣で払い、穂先を味方から遠ざけた。敵が槍を戻す間に、ルミナス兵が壁をまたぎ、ライコの隣へ出て盾を構えた。
二人目も上がってきた。
ライコが剣で敵を退かせ、その隣では、先に登った味方が盾を並べる。前へ出た味方が敵の槍を盾で受け、登ってくる仲間を守った。
「上がった奴は横へ広がれ!次を詰まらせるな!」
下からユリスの声が飛んだ。
ルミナス兵は梯子の前を空け、城壁の上を左右へ進んだ。ライコ一人で守っていた場所に盾が並び、その後ろから次々に兵が上がってくる。
ドルグも、自分の小隊とともに登った。
城壁へ足を下ろすと、目の前で味方の兵が敵を押し返していた。後ろを振り返る。梯子を登ってくる兵の頭が見える。上り口に迫っていた敵は、味方の列の向こうへ押し返されている。
三日間、誰も登れなかった城壁に、味方の列ができていた。
ドルグは前を向いた。その先で、アインゼル兵が城門へ下りる階段に集まり始めている。ここで押し合うだけでは、町へ入れない。
ライコは剣を構え、次の敵を見ていた。ドルグは兵を呼び寄せ、階段を剣で示した。
「俺たちが門を開ける。ライ、お前は好きなだけ暴れろ」
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