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第二隻 1話 初手で断られる

「普通に冒険者やらない?」


 そんなわけで、私たちの冒険が始まったのである!


 と、言いたいところだったのだが。


「嫌だ」


 なんと、初手で断られた。


 冒険が本当に始まるには紆余曲折あった。その一部始終がこれから見れるだろう。


 真っ二つになったファイアベアを横目に私はとにかく手をわたわたと動かしツクヴァルを説得する姿勢を見せた。


「な、なんで!?!?」


「やらねえ、嫌だから」


「なんでやらないの!? こんなのに強いのに!! 絶対死体漁りより良いじゃないですか!!」


「やらねえもんはやらねえんだよ!!」


 ツクヴァルが大剣を片手にズカズカと家の中へと入っていく。ファイアベアの死体を横目に私もあとをついていく。


「え、あの、死体は!?」


「知らねえ。どっかの冒険者が見つけて勝手に自分らの手柄にするだろ」


「なんで!? お金困ってるんですよね!? 自分でこう……報告とかしないんですか!?」


 報告、と聞いてまたぴくりとうさぎの耳が動いた。そして嫌そうにこちらを見た後に腕を組んで小屋の中へと入っていった。

 私も少し強めに閉められたドアを押して半ば無理やり小屋の中に入っていく。ツクヴァルが大剣をベッドの下に収納したあと、そのまま寝転がった。


「しねえ」


「ほ、本当になんで……?」


 頭に疑問符が浮かびまくった。

 お金に困っているのに、ファイアベア討伐を報告しない?

 話を聞く限り絶対に手柄になるのに?

 他の冒険者に手柄を譲るほど慈善的なやつとは思えない。

 ベッドの横でうんうん唸っていると大きめの舌打ちが聞こえた。


「ここまで構ってくるとかマジでイカレてんのか……」


「いや、その、本当に意味わかんないんだって!」


 窓から覗く町の方を指さした。


「あそこに依頼の掲示板あるよ!? 見に行こうよ!!」


「テメェいつの間にかタメ口聞くように……」


「いいから、見に行こうよ!!」


 グイグイと引っ張るとうさぎの耳がゆらゆらと揺れてまた嫌そうな顔をした。


「離せ!! 行かねえっつってんだろ!!」


 まださすがに本調子ではないのか、抵抗こそするものの私に引っ張られるまま立ち上がった。


「いいから!! 1回見るだけ!!」


「見たって変わらねえよ!」


「なんで見てもないのに分かるの!?」


「…………」


 一瞬。


 ツクヴァルの口が止まった。


「と、とにかく行きますよ!」


「クソ……」


 ぶつぶつ文句を言われながら、私はさっき通った町までツクヴァルを引っ張っていった。


 そして例の掲示板の前。


 相変わらず、何枚もの紙が所狭しと貼り付けられている。


『北部街道 グリーンウルフ討伐求む!』

『薬草採取 補助、護衛募集』

『ファイアベア目撃情報 討伐者には報奨金』


 ずらりと並べられた紙のうち、一番下を指さしてツクヴァルへと見せる。


「ほら!! ファイアベアって書いてる!!」


「…………」


「報奨金7万ゴールド!? ダ、ダイヤの指輪預けた時より高いし……めっちゃいいじゃん……」


 そのつぶやきにまた耳がピクリと動いてこちらを見る。

 そしてツクヴァルが紙をまじまじと見た。


「ゼロ……4つだから……7万か……」


「そうですよ!! ……ん?」


 一瞬、違和感を抱いた。

 普通、数字から数えるか?

 先に依頼書の内容を読まないか?


「…………」


 ツクヴァルの顔を見る。

 私が何かを考えているのに気がついたのか、一瞬目を見開いた後に顔を逸らした。


「……あの」


「んだよ」


「もしかして、なんですけど」


 恐る恐る声をかけた。

 ツクヴァルの顔が強ばっていく。


「これ……もしかして、読むの苦手だったりする……?」


 ぴくり、と。

 ツクヴァルの長い耳が大きく跳ねた。

 さっきまで嫌そうに逸らしていた目が、今度は私を睨みつけるように真っ直ぐに向いてきた。


「……だからなんだ?」


「えっ、あっ」


 低い声が唸るようにこちらへと響いた。


「読めねえよ」


 吐き捨てるように言って依頼書を剥がして私の方へと押し付けてくる。


「悪かったな、文字も読めなくてよ」


「い、いや、ちが、ちがくて!」


「だからやんねえんだよ冒険者なんて!! 文字読めねえやつがどうやって地図見て、どうやって金とかの申請すんだよ!! こんなんで仕事できるか!!」


 怒鳴り声に肩がはねた。

 遠巻きに私たちを見ていた住民たちもこちらを向いてヒソヒソと小声で話している。


「やだ、あのラヴィ……なんか怒ってる……」

「本当に怖いわ、これだからバツ印は……」


 その声に対して思わず反射で振り向いてしまった。目が合うと住民たちはそそくさと逃げるように退散していく。


 ツクヴァルも周囲の視線に居心地の悪さを感じ取ったのか眉間のシワがさらに深くなった。


「ツ、ツクヴァル、ごめん、私、勝手なこと言って」


「帰る」


「ツクヴァル! でも、私このままじゃ良くないと思って─────」


「どんな言葉も読めてるインテリのテメェにゃ俺の気持ちは分からないだろうな!!」


 ツクヴァルが背を向けて歩いていく。

 その背中を追おうとしたその時、


(……ん?)


 ひとつの事に気がついた。


(どんな文字でも?)


 引っかかる。

 今まで私は……ここにある文字が全て日本語に見えていた。


 お店の看板に書いてある『お怪我や不調 診ます』だって、普通に読めていたわけで──────。


(いや、それって普通に変じゃない?)


 町の名前すら知らない。

 通貨はゴールド。

 うさぎ耳の人がいて、熊はビームを吐いて、魔法まである。


 なのにだ。


(それなのに言語だけ普通に日本語って、おかしい)


(……何かで翻訳されてる?)


 そう思った瞬間、


 何かが閃いた。


「─────ツクヴァル、待って!!」


 希望の光がひとつ、見えた。

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