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最後の舟 9話 ローロラの慈しみ。そしてヴィージの刺客

「おい!! 西の方つったよな!! 場所どこだ!!」


 ツクヴァルが片腕で私を抱えたまま走る。部屋を飛び出し、そのままリーチェさんのいる方へと向かった。

 後ろでアーサードが何かを言っているようにも聞こえたが、今はそれを聞いている場合じゃない。


「こちらです!!」


 リーチェさんが紫色の魔法陣を出す。そこから、地図のようなものが空中に浮かび上がった。

 地図には城らしき印があり、ひとつの丸いマークが少しずつ近づいてきている。



「ああっ!? この丸いマークがヴィージのやつで城のマークがこれなら結構近づかれてんじゃねーかよ!! 今行って間に合うのかよ!!」


 ツクヴァルが舌打ちをする。そして入口の方まで走ると、ピンク色の魔法陣を何個も展開した。


「……それとマークがひとつしかねえ、一人か」


 ツクヴァルが小さく呟く。その目には、何かを思い出したような色が浮かんでいた。


「……一人? 攻め込んできてるのが?」


 ヴィージ側も、何かあった時の責任を小さくするために少人数を攻め込ませているんだろうと思ったけど……ツクヴァルの表情を見て、なんだかそれだけではない事情が見えたような気がした。


「クソッ、これで死ぬほど急いで間に合うか────」


 ツクヴァルが魔法陣を使って跳躍しようとした、その時だった。


「ツクヴァルくん!! ヒロコちゃん!!」


 廊下の奥から、ローロラさんの声が聞こえてきた。パルヤと一緒に私たちの方へ走ってくると、廊下沿いにある扉を指さした。


「転移装置、あるって聞いたの!! 使って!!」


「ローロラさん、パルヤ!!」


 ローロラさんが鍵みたいなものを持っている。それで扉を開けて、私たちを中へと招き入れる。


 部屋の中央には、見たこともない大きな装置が置かれていた。床には七色の魔法陣が広がり、きらきらと光りながら回転している。



「こ、これは……!!」


 そしてその横で、リーチェが驚いたように声を漏らした。


「専用の魔力を注入しないと使えないものですよ、何故作動できて────」


「…………ローロラさんは、俺が徴兵されていた時に助けてくれた人です」


 軍服を着ている一人の男の人が出てきてぼそりと呟いた。


 その人を見て、ツクヴァルも驚いたように目を見開いていた。


「……アーサード様に逆らうのは恐ろしいです。ですが、恩は……返さねば、無礼でしょう」


「……看守野郎」


 ツクヴァルが男の人にそう言うと、その看守と呼ばれた人は少し帽子を深く被り直して目を背けた。



「……あの時、腹空かして死にそうな時にパンをくれてありがとうございました」


 ローロラさんは、その言葉に対して……ただ頷いた。



「私も、ありがとう」



 そう言うと、ローロラさんはリーチェの横へ向かい、転移装置を動かす準備を手伝い始めた。


「ツクヴァル、ヒロコ!!」


 そして、パルヤが私たちを見て……大きく手を振った。


「絶対に、絶対に生きて帰れよ!!」


 私とツクヴァルは


 パルヤたちに向かって大きくサムズアップした手を挙げた。


「あたりめーだ!!」


「待っててね、みんな!!」


 その瞬間、足元の七色の魔法陣が一際強く輝いた。


 きらきらと回っていた光が、少しずつ速さを増していく。床から浮かび上がった光の粒が私たちの周りをぐるぐると回り、気がつけば視界が七色に染まっていた。


「す、すごい……」


「俺も使うの久しぶりだな、これ」



 ふわり、と身体が浮くような感覚がする。思わずツクヴァルにしがみつくと、私を抱える腕にぐっと力を込めた。



 次の瞬間、足元の感覚が消えた。


 音も、光も、何もかもが遠ざかっていく。


 そして────ざっ、と風が頬を撫でた。


 目を開けると、そこにはもう城の姿はなかった。


「…………」


 ぱちぱちと瞬きをする。


「ここが、攻め込んできている場所で────」


 私が言いかけた瞬間だった。


「ッ!! ヒロコ!!」


 ツクヴァルが突然、私を抱えたまま地面を蹴る。


 その直後────ズガァンッ!! と何かが斬れるような音が響く!!


 ついさっきまで私たちが立っていた場所に、白銀の光が走った。そしてそれは、空間に十字を描いてきらきらと残り、地面も同じように裂けていた。


「な、なに!?」


「急に攻撃してきやがって……!!」


 ツクヴァルが、地面に刻まれた十字を見て思い切り顔を顰めた。そしてその向こうに、一人の人影が立っていた。


「…………」


 ツクヴァルが、息を呑む。


「……テメェ、やっぱりそうか」


 その声は、さっきまでとは明らかに違っていた。


「……はあ」


 斬撃で裂けた空間の奥、一人……女性が立っているのが見えた。


 暗い緑色の髪の毛をした、多分……アノトの女性。


 そしてその女性が、大剣を持ち炎を大きく纏わせた。


「白銀の残光、やっぱり生きていたか」


 赤い軍服を整えて、ツクヴァルをじっと見た。


「……テメェも生きていたとはな」


 ツクヴァルが、歯を食いしばる。


 ────その表情が一瞬、すごく怒っているように見えた。だから私は、ツクヴァルの手を強く握った。


「ツクヴァル」


 語りかける。


「私たちは、大切なことを……見失わないようにしよう」


 この人のことは誰だかわからない。だけど、今私たちが一番すべきことは……ヴィージの侵攻を止めることだ。


 ツクヴァルが、私が強く繋いだ手を見て一瞬キョトンとした表情をした。そして、息を吐いてぼりぼりと頭をかいた。



「……あぶねぇ、キレるところだったわ」



 そして。


 次は、小さく笑った。


「よう、因縁だとかはまた今度にしとくぜ。それより今は、ヒロコと一緒にいるからな」


 女へと、その名前を言った。


「〝赤銀の十字〟」



 ────その言葉で、私はようやく気がついた。


 この人が戦争中にあのバツ印の炎を落とした人なのだと。

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