↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/66

最後の舟 5話 食事屋の店員には勇気がある

◇◇◇


 …………。


 夜中、僕は町の中に誰もいないことを確認して、いつも働いていた店に来た。


 店長は、業者との肉の仕入れを全部一人でやっているからか、凄く疲れてよく寝ているみたいだ。


(店長、僕がいつも狩りに出ていましたからね。そこからまた業者見つけて肉を仕入れてなんて、大変ですよね。苦労させてごめんなさい)


 僕は、自分の家で書いた手紙を厨房の机に置いた。


 また、店の中を眺めた。

 ここに来てから数年、本当に色々なことがあった。色々な料理を作って、色々なことに傷ついて、色々な優しさに触れて……。


 そして、ちょっと色々なことで喧嘩もしたけど、最終的には仲直りできた。


(店長、今までありがとうございました)


(本当に、世話になりました)


 これ以上見ていたら、本当に辛くなって立ち止まりそうだ。


 僕は店から出た。そこからは、なるべく町の景色を見ないようにした。


 好きだった町の景色が、通り過ぎていく。そして、町の出口が見えてくる。

 僕はそれだけを目指した。その方向だけを目指して歩いた。


 そして、門から出ようとした瞬間───。



「……待って、どこへ行くの」



 女性の声が聞こえた。


 思わず振り向いた。

 その声は僕が絶対に聞き間違えることのない声だったからだ。


「…………ローロラさん」


 ローロラさんが、寝巻きのまま息を切らして僕の方へと近づいてきた。走ったのだろうか、僕はその足音に気が付かないくらいには、ここを出ることに緊張していたんだろうか。


「なんでここに────」


「……私は、どこへ行くのって聞いてるのよ!!」


 ローロラさんが僕に叫ぶ。町の人に聞かれたらまずいと思って、ローロラさんを軽く引っ張って木の影の方へと隠れた。


「ローロラさん、大丈夫です。僕は大丈夫ですから……!!」


「そんな大荷物持って、それにさっきお店に入っていたでしょう。私、窓から見てたのよ……!!」


 ローロラさんが僕の服を掴んでぐしゃりと顔を歪めた。


「パルヤくん、もしかして……ヒロコちゃんとツクヴァルくんの所にいくの!?」


 そして、僕はその言葉に何も言えなくなった。


 実際に、その通りだったからだ。


 ローロラさんは僕の様子を見て、僕がこれから何をしに行くか確信したみたいで、さらに強く服を掴んできた。


「何をしに行くの!? あなたが王都に入ったら、大変なことになるわよ!! ヴィージだなんてバレたら、何をされるのか───」


「……そんなことは、わかっているんですよ」


 ローロラさんが、ぴたりと声を止めた。


 僕は目を逸らした。顔を見られなかった。


「わかっています、わかっているんです。王都に入って、僕が出頭したからといってツクヴァルたちのところに行ける保証なんてないって、分かっています。だけど、それでも、行きたいんです」


「…………」


「そもそも、あの記事に書いてあることが本当は嘘で、ヒロコが王都にいる保証なんてないっていうのもわかってます。あれはヴィージを誘い込むための嘘なだけかもしれないって……」


「……それなら、なんで」


「だけど、せめてツクヴァルは……ツクヴァルは王都にいるかもしれないじゃないですか!!」


 もしもだ。


 ヒロコ……救世主が、王都にいると大々的に発表して、それを知ったヴィージが救世主を消そうとした時、狙ってくるのは多分、王都そのものだろう。


 その時、それに対抗するのに必要なのはツクヴァルなはずだ。


 ────そして、ツクヴァルは王都に攻め込んできたヴィージに対抗して死ぬかもしれない。しかも、ヴィージは自分たちが先に攻撃してしまったという事実を作らされる。


「ローロラさん、僕は!!」


 ローロラさんを、見た。


 ローロラさんも、泣きそうな顔で僕の目を真っ直ぐに見ていた。


「あいつらが!! 大切な友達だから!!」


 僕は、自分が話しながら泣いていることに気がついた。


「このまま何もできないなんてことは、嫌なんです!!!」



 そして、ローロラさんも、真っ直ぐに見ている瞳に涙が浮かんでいた。



 僕は、話しながら自覚した。

 あいつらは僕自身が思っているよりも、大切な友達だったんだということを。

 大切な友達が、救世主だとかで色々祭り上げられるのは見たくなかったんだと。


 この短い期間であいつらと積み上げてきたものは……


 僕にとって、本当に宝だったんだと。今、改めて自覚した。


 息が切れた。涙がボロボロと溢れた。

 ローロラさんも同じように、泣いていた。


 そして……少し静かになったあと。



「……多分、ヒロコちゃんは本当に王都にいるわ」


 ローロラさんが、ぽつりと話し始めた。


「……え?」


「多分、今、国を動かしているアーサードの目的は……ヒロコちゃんっていう救世主を利用して、前王の倉庫を開けさせること。アーサードは、継承証がないからこの国を好きにできなくて焦っているはずだわ」


 寝巻きのローロラさんが、髪の毛を結ぶ。そして、施療所の方を見て、ブツブツと言った。


「昔新聞に書いてあったことが本当なら、そうだと思うの。継承証見つからず、王権が揺らぐって書いてあったから……。それにアーサードの性格を考えると、リスクを負ってでも自分の手元にヒロコちゃんを置いておかないと不安になるだろうし、何よりもツクヴァルくんの餌になるし」


「ロ、ローロラさん?」


「パルヤくん。私ね、実は昔、結構偉い軍医の元で働いていたの。前線兵士を治療する祈祷師としてね」


 眉を下げながら、指を口の前に置いて静かに笑っていた。


 その顔がすごく、なんだか、綺麗だった。


「完全に中までは入れないと思うけれど、途中までは安全に入れると思うわ。コネって強いでしょう?」


「私が出頭させる、っていう名目でね」



 …………。


「クソッ、こいつ!! 急に出頭してきたと思ったら、救世主の知り合いかもしれないだと!!」


「このキャッツの祈祷師も共犯だったとは!!」


 僕たちは、王都内部まで入って、守り人達に取り囲まれていた。


 ローロラさんのおかげで、途中までは確かにスムーズに入れたが……やはり、ツクヴァルやヒロコが持っていた精霊通信の履歴を調べられたからか、途中から雲行きが怪しくなり、今この状況になっていた。


「離して!!」


 ローロラさんが腕を掴まれ、そして口を押さえられかけている。


 僕はまだ抵抗ができた。もう少し、もう少しだけこのまま捕まらないでいられそうだった。


(クソッ、上手くいくとは思ってなかったけど……これ以上先に進むのは無理だ!!)


 守り人の手を振り払った。殴られた。


 心臓が跳ねた。僕はここで、捕まる。捕まって、何をされるかわからない。


(だけど、だけどだ)


 それでも。


(僕にはやらなきゃいけないことが、ある!!!)


 最後の足掻きを、することにした。


「ヒロコーーーッ!!! ツクヴァルーーーーッ!!!」


 僕は、力いっぱいに叫んだ。


「お前らは、このままだと利用される!! 道を見誤るな!!!!」


 ────このみっともなくて無茶苦茶な、聞こえるかも分からない最後の足掻きを!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。