最後の舟 3話 戦争の足音
◇◇◇
「……おい!! ざけんなテメェらッ!! 出せって言ったんだよ!!!」
俺が思いっきり牢屋を蹴りつけると、ガァン!! とでけぇ鉄の音が響いた。
気がついたら、俺はここにいた。
あん時はモロに爆発を食らって吹っ飛ばされたうえ、俺もナルミアとの戦いで流石に結構怪我してた。そのせいで馬鹿みてえに血が出まくって、吹っ飛ばされたあとに起きんのもできなかった。
血がやべえなってなった後のことは思い出せねー。まあ、気絶してる間にここまで連れてこられたんだろうなってことはわかった。
(クソッ、手に妙なもんつけやがって!!)
全部ぶっ壊してからヒロコんところに行こうと思ったけど、両手首に手錠みてえなのがつけられている。俺がぶっ壊せねえってことは、ただの手錠じゃねえ。上級錬金術師だとかが作った魔法制御用のやつだってのがすぐわかった。
「……おい、テメェら無視してんじゃねえぞ!! ヒロコはどうしたんだよ!! おい!!」
俺がまた思いっきり牢屋を蹴ると看守がすげえ嫌な顔をしてきた。
ヒロコのことを考えた。
救世主だとか言われていたのを思い出して、妙な汗が滲んできた。
「……テメェら!!! もしもあいつになんかしてたら全員────」
「その心配をする必要はありませんよ、白銀の残光」
俺が怒鳴り散らかしたところで、足音が聞こえた。
コツコツと、気取ったみてえな腹立つ音が近づいてくる。
俺は、その声に聞き覚えがあった。
「……テメェ、まさか」
「どうも、お久しぶりです」
そいつが牢屋の前まで来て、俺を見下ろしてきた。
「……アーサード!!!」
嫌味ったらしいその顔は、全く変わってなかった。
アーサード。前王と友人だったかなんだか知らねえけど、妙なこと吹き込んで戦争やり出した張本人。
政治だとかに詳しくねえ俺でも、こいつのやっていたことはわかっていた。
『君がツクヴァルくんですか? 白い髪の毛のラヴィだと聞いたのですが』
『うちで良ければ使われてください。報酬は存分に出します』
こいつが、俺のことを国に使われる兵士にならねえかって誘ってきた。あん時のことはよく覚えている。わざわざスラム街まで来やがって、そっからこき使ってきて。んで、戦争負けたあとは「責任を取ってください」だとか言って、俺を処刑しようとしてきたクソ野郎。
顔を見るだけでクソほどイラついた。こいつがナルミアにヒロコを探して攫ってこいって言ったんだってことくらい、俺にだってわかる。
「テメェ!!! テメェが余計なことしやがったせいでナルミアも死んだんだぞ!! クソが!! ぶっ殺してやる!!!」
手錠が外れねえせいで、余計にイラついた。それを見たアーサードが、またでけえため息をついて俺に話しかけてきた。
「私は自爆しろだなんて命令していません。彼女の意思で死んだのですよ……それにですね、白銀の残光。私だって今、貴方や救世主を悪いように扱うつもりはないんですよ」
「バカみてえなことほざきやがって……!! 戦争終わったら俺のこと殺そうとした癖によ!!」
「そういえばそうでしたね。ですが、この私が、貴方が暴れて抵抗したから仕方なく処刑を辞めただけだとでも? まあ、貴方は馬鹿だから分からないと思いますが」
そんだけ言って、アーサードがまた横を向いた。
「そのうちわかります」
アーサードがクソみてえな笑顔向けて、俺を横目で見てまたどっかに歩いてった。
(そのうちわかるだぁ? クソッ、ふざけんじゃねえあの野郎!! あいつのせいでナルミアも、ヒロコも……!!)
死ぬほどイライラして、マジで暴れたくなってきた時……ふと、思い出した。
確かに戦争中こいつにクソほどこき使われてイラついてたけど…………
俺もやってる時はなんやかんや、楽だなって思ってたことを。
「…………」
またそれがすげえキショくてウザくて、牢屋を蹴りまくった。
「……クソがァ!!!!」
思い出したくねえことも思い出して、ヒロコも捕まって、どこにいるかわかんねえままで。
とにかく、今あるもんを全部ぶっ壊してどうにか脱出する方法しか、考えられなかった。
◇◇◇
「……パルヤ、しばらく店には来ないで家で静かにしておけ。給料は保証してやる、危なくなったら儂の妻が使ってた家を貸してやる。だから大人しくしておけ」
僕は店長にそう言われて、しばらく仕事を休んでいた。
家の中でやることがなくて、僕はただひたすら新聞を見ていた。
「…………」
そして、それを見てまた嫌な気持ちになることの繰り返しだった。
記事の一枚目には、大々的に「救世主、現る」と見出しが出ていた。
救世主は今、ゲルヴィの王都にいると記されている。その救世主は青色の髪の女性で、食の知恵が深くあり、前王の残したサインが読めたと、色々と大袈裟に褒めたてながら書いていた。
だけど僕は知っていた。
数日前から、ツクヴァルとヒロコがマフィアに狙われていたということを。
そいつらは国から派遣されたかもしれない奴らだったって話していたことを。
そして今、そのふたりと連絡が全然繋がらないことを。全部、全部。知っていた。
(もしもこの救世主が、ヒロコのことだったらどうする?)
正直、思い当たることは色々あった。
…………いや、違う。この記事を見てほぼ確信に近い感情を抱いていた。
救世主はヒロコのことだ。
多分ヒロコとツクヴァルは、国に捕まっている。
僕は、理解していた。
「……外も、ピリピリしてるな」
閉めたカーテンの隙間から、窓の外の方を見た。
町の人達はヒソヒソと色んなことを話したり、気まずそうにしたり、治安隊のやつらがまた偉そうに歩いていた。
救世主が現れて、この国はもう安泰だ。ゲルヴィはまた強くなれる、もう負けることは無いと国が煽ってから、外ではヴィージ狩りというものが始まっていた。王が新しく誕生したのならば、ヴィージの人間が紛れ込んでスパイになっているかもしれないと世間は噂し出して、そう見える人間を片っ端から捕まえて尋問しているらしい。
国がやれと言ったわけじゃない。つまり、ほぼ私刑だ。だけどゲルヴィはそれを放置していた。
そんなの、ゲルヴィが「やっていい」って認めたようなもんだ。
「……ゲルヴィは何を考えてんだ?」
僕は、とにかく不思議だった。
こんなに大々的に救世主が現れたなんて国中に広めて、間接的にヴィージを敵対視するような言動を続けて、おまけに救世主のいる場所まで書いている。
そんなことをしたら、ヴィージだってただ黙っているだけじゃ済まない。色々な危険性がある。また戦争だって起こるかもしれなくて─────。
「…………まさか」
嫌な予感が、した。
国民のヴィージ狩りを止めず、煽るだけの国。
恐らくヒロコ……救世主が現れたとだけ伝えて、その同行者については何も触れない。
そして、何よりも。
『国は死んだって発表してるけどな。あそこの戦場で生き残ったって言ったら恥になるとか思ったんじゃねーの?』
白銀の残光は、死んだものとして扱われている。
「……ッ!!」
口を押さえた。吐き気がした。
嫌な想像が当たってるかもしれないと思うと、その邪悪さに酷く気持ち悪くなった。
「……ゲルヴィ軍部、まさか」
新聞を握った。
ヴィージに見えるように危険を煽って、向こうから攻撃させて、それを戦争の口実にするついでに…………。
「────ツクヴァルを利用しようとしてるのか?」
処刑されるはずだった最強の兵士を、ここで利用してついでに消せるのならば、
国にとって、どれだけ都合が良いだろうか。




