第七隻 エピローグ ナルミアとオウガの記録
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「おい!! テメェ!! 起きろって言ってんだよ!!」
私は生まれた時から名前で呼ばれたことが少なかった気がする。
親から呼ばれる時はたいてい、「おい」か「テメェ」だ。それで、起きろって言われたら起きて酒を買いに行けと言われたら行って、相手をしろと言われたらするだけ。ナルミアって呼ばれたことはあんまりないかな。まあ、結局その親も私に殺されたんだけど。
弱い人間というのは、自分で何かを決めることができない人間だと思う。私は、昔からずっと決めることが苦手だったし、できなかった。
何かを決めたとき、悪い結果が起きて苦しむのは私だ。責任も私だ。
だから国に雇われて、楽だった。
国も私のことを「楽な人間だ」と言っていた。
私が何かを決めなくても良い。決められた通りに従って動くだけ。事情はよく知らないけれど、国の邪魔になりそうな人間は消した。戦争にも行った。100人殺せと言われた日は、100人殺した。
それで、記念すべき500人目の死体が積み上がった時、ふと思った。
(私も、死ぬ時はこんな風に死ぬ?)
死体と目が合った。
充血した瞳の中で黒目に赤が滲んでいて、目は左右で開き方が違う。血が登ったからなのかはわからないけど、皮膚から血管がよく浮かんで見えた。
『……ッ!!』
初めて怖くなった。
私の人生は、何かを決められないことが普通だった。そして、戦場では死に方を選べないのも普通だった。
だけど、そこで初めて欲が湧いた。
「こんな風に……死にたくない」
馬鹿らしいだろう。贅沢だろう。
大勢殺してきた人間が今更こんなことを考えるだなんて、私も何をしているんだろうと思った。
(私の人生、死に方すら選べないの?)
戦争が終わって、私は敗戦した戦場責任者として処刑されることになった。
白銀の残光が大暴れして抵抗したから、代わりに死んでくれと言われた。私は敗戦の責任を負う戦場責任者として処刑されることになった。
(終わりか)
二本の柱の間には、首を固定するための丸いくぼみがあった。私はそこに首を置いた。
白銀の残光はなぜ暴れてまで抵抗したんだろうか。
あいつもあまり賢くないし弱いタイプだったから、どうせ国と町の人から圧力をかけられて何もできなくなるんだろうけど。
(終わりだ、まあマシな死に方かな)
そう思った。
上半身だけ台に置いて体重をかけた。
汗が、滲んだ。
(終わって良かった、疲れたし)
(良かった)
(良くない)
(これで死にたくない、死にたくない、これで死にたくない)
息が上手くできなくなっていた。
滲んでいた汗が額からボタボタと垂れ始めた。
過呼吸になって頭がクラクラしているから、前後感覚がわからなくなって、首元に木の冷たい感触が当たる度に「今死ぬんだ」と思い込んだ。
多分、数秒しか経っていない中で、何時間も過ぎたみたいな感覚になっていた頃に後ろでドアが開く音がした。
『ナルミア、最後の仕事を与える。そうすれば猶予をやる』
『やるか?』
声が聞こえた。
一度台から降ろされて、振り向くと立っていたのは軍政長官だった。
王が処刑された今、この国で一番偉いらしい。
『…………』
だから私は、答えた。
『やらせて……ください……』
この仕事が終わったあと、どうせ殺されるなら……。
私のやりたい死に方を、探そう。
◆◆◆
俺は生まれた時から、国に首輪つけられて生きてきた。
基本的に、魔法っていうのは国民が悪さできねーように管理されている。だからギルド登録していない冒険者はやっすい武器しか買えねえし、青魔法使えるやつは資格っていう名の首輪つけられて管理される。資格取得で貰える金に釣られて、みんなそれが首輪って気がついてないだけだ。
で、俺はなんの首輪つけられてるかって?
そのまんまの意味、物理的にだ。スラムで生まれて、たまたま生まれつき禁術使えるって理由で魔力制御の首輪を無理やり付けさせられていた。
(死にたい)
魔力制御されるってのは結構辛いんだぜ? 身体ん中で流れてるものを首輪のせいで勝手に制限されるってのは、毎日毎日体調が悪くて仕方がねえ。
それに、生まれつき首輪がついてるって理由で気味悪がられて誰にも近寄られなかった。
ときどき、「全員ぶっ殺せたらな」と思ったことがあったけど、結局その気力も無くなってた。
俺って、生まれただけで良くないやつなんだなって思ってた。
二十歳くらいになった時、ナルミアさんが俺のところに来た。
俺がスラム街のマフィアのやつらに襲われてるのを見て、全員薙ぎ払ってぶっ殺して……。
綺麗だった。
『君が首輪つけられて管理されている子かぁ』
血だらけのナルミアさんが、俺を見て聞いた。
『私、ナルミアっていうんだ。今少しだけ偉いんだよね』
『君の首輪、外せるんだけど協力とかしてくれないかな』
そう言って、タバコを吸い出した。
『……首輪外して、どうすんですか』
俺が聞くと、ナルミアさんがちょっと考えた後に、
『私と仕事して、死ぬの』
そう言った。
ナルミアさんの青色の髪の毛が、血の赤と混ざってキラキラしていた。上手く言えないけど、とにかくキラキラしていた。綺麗だった。ただ、それだけだった。
『君の名前は?』
その日、初めて太陽が眩しいと思った。それは俺が、外で顔を上げてことがないからだって気がついた。俺は、今日、この日。太陽の眩しさを知った。
だから、俺もこう言った。
『俺の名前はオウガです』
『俺と死んでください、ナルミアさん』
俺にとって、人生で一番良い日でしたよ。
ナルミアさん。




