第七隻 5話 血液の禁術
「じゃあ抵抗してみな嬢ちゃん、あんたの〝やりたいこと〟を突き通すためにな!!!」
オウガが二丁の拳銃を回転させ、そして真っ赤な弾丸を放つ!!
「ツクヴァル!!」
「おうよ!!」
ツクヴァルに合図を出す。ツクヴァルが私を抱えながら、湖の方へと飛ぶ!!
「逃がすかよ!!」
オウガがすぐに追いかける。そして、私たちが主戦場に選んだのは……湖のど真ん中!!
「逃げてるんじゃねーんだよなぁ!!」
ツクヴァルがピンク色の魔法陣を次々と展開させていく。そして湖の真ん中でオウガを迎えた。
片手で大剣の切っ先を湖面へ突っ込み、そのまま下から思い切り斬り上げる!!
ザバァン!! と音を立てて、大量の水が壁のように跳ね上がった。そこへ、オウガの真っ赤な弾丸が次々と飛び込み、目に見えて弾速が鈍る!!
「こちとら!! 逃げるどころかテメェが来るまでウズウズしてたんだよなぁ!!」
ツクヴァルが残った弾丸を、大剣でまとめて弾き飛ばした!!
「へえ、水で壁を作って弾くか!! やるじゃん白銀の残光!! だけど!!」
オウガの足元にも、ピンク色の魔法陣が現れる。そして、跳躍!! 同じように湖の真ん中へとたどり着く!!
「俺がアノトだからって跳躍が上手くねーとは限らねーぞ!!」
ツクヴァルへと急接近!! 弾丸をまたもや発射していく!!
「嬢ちゃん抱えて護衛しながら俺と水の上で勝負か!! 随分舐め腐った態度だな白銀の残光!!」
「……チッ!!」
オウガが笑った。
次の瞬間、オウガの足元にピンク色の魔法陣がさらに展開される。
「だったら────上から撃ちゃいいんだよ!!」
魔法陣が弾けるように光り、オウガの身体が一気に上空へと跳ね上がった!! 湖面から一瞬で距離を取り、オウガが空中で身体をひねる。両手の拳銃が、真下にいる私たちへ向けられる!!
「これも水で弾くかぁ!? それとも作戦変更で退避するか!? アッハッハッ!! お前が片手しか使えねーチャンスを俺が見逃すわけねーだろ!!」
オウガが両腕を広げる。
二丁の銃口が、一斉に赤く光った。
「テメェは死んでもいいんだよ、白銀の残光!!」
轟音。上空から、真っ赤な弾丸が雨みたいに降り注ぐ!!
「ラヴィでもねーのに上手く跳躍使いやがって……!!」
ツクヴァルがピンク色の魔法陣を蹴り、湖面すれすれを横へ滑る。弾丸が次々と水面へ突き刺さり、赤い飛沫と水柱が背後で弾けるのが見えた。
「ヒロコ!! しばらく水の上で戦闘すんぞ!!」
「わ、わかった!!」
「アッハッハッ!! 作戦が上手くいかなくて残念だったなぁ!!」
また正面から三発、そして大剣で水の壁を作り上げる。跳ね上がった水へ赤い弾丸が突っ込んだ。勢いを失ったところを、ツクヴァルがまとめて叩き落とす!!
再び銃声、右。左。上。オウガは魔法陣を次々に蹴り、撃つ場所を変えていく。ツクヴァルも同じだった、湖面を滑り、大剣で水を跳ね上げ、弾丸の勢いを殺す。
弾く。避ける。斬り返す。また弾く。また弾丸が飛ぶ。また水が跳ねる。赤い弾丸が水を浴び、砕け、湖へ落ちていく!!
ツクヴァルとオウガの攻防が続く、水と赤い弾丸がぶつかる音が響き続ける。────ただ、時間だけが過ぎていく。
オウガが大きく後ろへ跳ぶ。
オウガに一瞬の隙────だけどツクヴァルは追わない。また湖面すれすれまで降り、大剣を水の中へ突っ込む!!
「…………?」
そして、オウガの表情が変わる。
何か違和感に、気がついたように。
「あぁ? なんだ、テメェ随分疲れてきてんなぁ?」
ツクヴァルが跳躍しながら、ニヤリと笑う。
オウガは明らかに息切れしていた。
ここまでの攻防で、オウガは確かな実力を見せていた。だけど────今、一瞬隙を見せたように、オウガの動きには疲れが見えている。
「そりゃそうかぁ」
「こんだけ血ぃ使ってりゃ、ヒンケツだとかになるもんなぁ!!」
オウガの目が、跳躍しながら見開かれた。
「……テメェ、まさか」
オウガが歯を食いしばり、強く私たちを睨む。
「俺が血を使いすぎて動けなくなったところを確実に仕留めるつもりだったか……!!」
────作戦通りだ。
私たちは、オウガの禁術が……自分の身体の一部、〝血液〟を使っていることを既に見抜いていた。
「このクソ共が、小賢しい真似しやがって……!!」
「はっ!! 悔しいんなら────最後まで禁術使ってることを隠すべきだったなぁ!!」
ツクヴァルが、さらに跳躍魔法を重ねて息切れしているオウガへ接近しようとする。
────そして、動きが鈍ったオウガへと大剣を振り下ろそうとした、その瞬間だった。
「……なんてな」
オウガが、笑った。
私たちを見て、笑った。
「……ヒヒッ、ヒーッヒッヒッヒッ!! テメェら、それで見破ったつもりだったのかよ!!」
────オウガの周りへと、赤い液体が浮かんでいる。
赤い筋を引きながら宙を飛び、オウガの身体へと〝戻る〟ように吸い込まれていく。
「……は?」
ツクヴァルが目を見開く。さっきまで肩を上下させていたオウガの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
「ヒーッヒッヒッ!! 残念でしたァ!!」
オウガが二丁の銃を前に向ける。そして、形を成した弾丸を再装填する!!
「誰が使った血は戻せねーって言ったよ!!」
「……ッ!!」
「俺の血だぞ!? 撃ったくらいで全部捨てるわけねーだろ!!」
オウガと、至近距離。
ツクヴァルの頭へと、銃口が向いている!!
「持久戦に持ち込めば俺が先にくたばると思ったか!? ざーんねん!! 水で薄めようって考えも無駄だ!! 俺は自分の血液のみを戻せるんだからなぁ!!」
「────クソッ!!」
「これで振り出しだ!!」
オウガが、勝利を確信したように笑った。
「死ね、白銀の残光!!」
だが。
「────なんてね」
私がそう呟いた時だった。
「……は?」
オウガの身体が、ガクンと沈んだ。
足に力が入らないのか、跳躍魔法の上で大きく体勢を崩す。
跳躍魔法を足場にしていたはずが、それも上手く制御できなくなったのか色が薄くなっていく。
引き金は引かれた。だけど、飛び出した赤い弾丸が、途中でぐしゃりと形を崩した。
「な……んだ、これ……」
オウガが、震えている自分の手を見た。
「毒……か……? いや、そんなはずは……俺は、血だけを戻して……そもそもあいつらにそんなの仕込む暇……」
息が荒い。
さっきまで笑っていた顔から、急速に血の気が引いていく。
オウガが何度か瞬きをした。そして───湖の中へと、落ちていく。
「……はい、あなたは血だけを戻したんでしょうね」
水の中へ沈んでいくオウガを、私は見ていた。
「────でも、血は壊れるんですよ。オウガさん」
【TIPS。
赤血球には、外膜(半透膜)が存在している。そして水は浸透圧の低い方から高い方へ移動しようとする性質がある。
血漿浸透圧とは、およそ280mOsm/kgH2Oである。血液と同じ浸透圧の溶液を等張溶液といい、等張溶液中に存在する血球の形態はそのまま維持される。
一方、血漿より浸透圧の低い液体(真水など)に赤血球を入れると、水が赤血球内へ入り込んでいく。
────これにより、極端な低張液に晒された赤血球が膨張し、やがて細胞膜が破れて内容物が流出する現象を、〝溶血〟と呼ぶ。また、溶血により起こる貧血を、〝溶血性貧血〟という。】
……一日前の作戦会議で話した通りになってくれた。
『あの人さ、血を使って武器にしているんなら沢山撃たせて貧血にさせれば良くない? 水に混ぜて薄めちゃうとかさ……』
『いやー、流石に対策されてると思うぞ。俺でも血ぃ流しすぎたらやべぇって知ってたしな』
ツクヴァルと出会った頃の会話を思い出す。確かに、軍医から「貧血」という単語を聞いたと話していた。
『じゃあダメか〜〜……』
『銃使いなら、まあ再装填ってところだろうな。けど禁術使えるからって身体が人よりすげえ強い訳じゃねえと思うから、多分血をもっかい使うとかだと思うんだよな……』
私がメモを片手にうんうんと唸っていると、ツクヴァルがそう呟いた。
私はその言葉に、ひとつ違和感を抱いた。
『……もっかい使う?』
『多分な。血ぃ戻すんだったら、中に毒とか入れちまう作戦とかもあるけど……』
『いや、あのくらい強い人だったらそれも対策されている気がする。私でも思いつくことだし、だけど……』
そして、私は思い出す。
私は、ここの人たちよりも栄養や身体についての知識が……豊富なことを。
『血液の成分自体を壊す方法は、あるかも』
ツクヴァルが水の中に沈んだオウガを拾い上げて────そして、もう片腕で抱えた。
「てん……めえ……っ」
「沈まれて死なれちゃ困るんだよなぁ、お前らがなんのために国に雇われてるか聞かなきゃいけねーからな!」
ツクヴァルが笑った。
「────俺たちの作戦勝ちだな?」
VS オウガ
戦闘終了!!!




