第七隻 4話 作戦実行。VS 白髪の男
…………。
走る。
息が切れる。
背後で爆発音が響いた。
「ツクヴァル、あの人たち来てる!!」
「分かってる!! 止まんな!!」
また大きく爆発音が響いて、次に来る爆発の詠唱札を見る。右、左、天井、右、右、左。
私たちは石造りの通路を駆けていく。目的地にたどり着くために、とにかく前へ前へと向かう。
「ツクヴァル、次は左!!」
「チッ、うざってえ!!」
私たちが今いるのは、黄色い町からさらに離れた山の中にある古い通路だった。
いつの時代かに作られた通路が奥まで続いていて、壁や床には古い文字や仕掛けがいくつも残されている。
そんな場所を、今はナルミアたちに追われながら走っていた。
「はあーあ……」
後ろで、ナルミアの声が響いた。
「元々あんまり頭は良くなかったけど、ここまで阿呆になったんだね。白銀の残光」
ナルミアが、詠唱札を次々と作り上げていく。爆発する、破片が飛び散る。私たちは、とうとう壁まで追い詰められてしまった。
「……ッ」
私とツクヴァルが、壁の方へと寄る。
背中に隠すように、私は壁に刻まれた文字へそっと手を触れた。
そして、ナルミアが私たちに、見下すような視線を向けた。
「近道を通って隣町に逃げようだなんて、山の洞窟の中だから探知されにくいと思った? 女の子を庇うために、随分と早計な判断をするようになったんだね」
「……ハッ、てめぇには関係ねえよ」
ツクヴァルが乱暴に顔の汗を拭った。そして、ナルミアを睨む。
ナルミアはツクヴァルと私に向けた視線を変えず、新しく詠唱札を取り出していく。
「ああけど、阿呆なりに頭は使ったのかな? 洞窟なら私も爆発を警戒すると思った?」
「…………」
「でも残念。私だって爆発させる範囲くらい選べるんだよ」
そして、次の瞬間……床に紫色の魔法陣が浮かび上がる。それを見て、ツクヴァルが思い切り私を抱えて飛び退いた。
魔法陣から、白髪の男が姿を現す。
────間髪入れず、男がツクヴァルへ射撃する。ツクヴァルはそれを大剣で弾いていく!
「チッ……!!」
「あっはっはっ! 追い詰められてやんの!」
男がニヤリと銃を両手に持ちながら笑う。
青い魔力で形作られた銃の内部を、黒い濁りと真っ赤な液体が這っていた。前と同じように、ドクン、ドクンと脈打っており、銃そのものが生きているみたいな気持ち悪さがあった。
「どうする? 白銀の残光」
ナルミアがタバコを取り出し、火をつけた。
「私たちの目的はその子なんだから、お前と正面からぶつからないやり方なんていくらでもあるよ。不利なのはお前だよ」
ナルミアと白髪の男が私たちをじりじりと追い詰めていく。
タバコの煙が空間でこもった。甘くて嫌な匂いが広がって、少しむせる。
行き止まりになった洞窟の通路は狭くて、逃げ道は二人に塞がれている。完全にピンチだ。
向こうも、私たちに対してそう思っているだろう。
「じゃあ、悪いけどその子は貰っていくから────」
「……なあ、ナルミア」
ツクヴァルが、ナルミアへと話しかける。
白髪の男が横で睨みながら二人の会話を見ている。
「ここの通路、名前なんだか知ってるか?」
ナルミアが首を傾げた。
「世間話で時間でも稼ごうとしている? 悪いけど、付き合ってる暇はないんだよね」
「いいや、平気だ」
ツクヴァルが、笑った。
「もう十分稼げたからなッ!!」
────その時。
さっき私が触れた文字から青い光が走った。
光は壁の上を這い、四角い輪郭を描いていく!!
隠し通路が、今ここで開いた!!
「ッ!?」
「さっきの正解を言ってやるぜ」
すぐに開いた扉が、また光を放って閉まり出す。だけどツクヴァルの方が早い、ピンク色の魔法陣を足元へと出して───跳躍し、隠し通路の奥へと飛ぶ!!
「ここの通路は!! 〝ショルワンダンジョン通路〟っていうんだよ!! ダンジョンって名前ついてる時点で警戒するべきだったな!!」
「転移して追いかけろ、《《オウガ》》!! 私は後から行く!!」
「……チッ!!」
閉じかけた扉の向こうで、紫色の魔法陣が光った。次の瞬間、白髪の男……オウガの姿が向こう側で消える。
扉が閉じ切る直前、向こう側からナルミアの声が聞こえた。
「最初っからこれが目的か、やられたね……」
そして、石扉が完全に閉じた。
……私たちは、作戦を完了できた。
◇◇◇
一日前。
私たちは山にある岩小屋の中で、地図を見ながら二人でうんうんと唸っていた。
『ここに籠ってても、そのうち見つかっちゃうだろうしどうしよう……』
『ナルミアは絶対見つけてくるぞ、それまでに準備しとかねーとまずいな。しかも、禁術使いまでいやがるからダリィんだよな……』
私たちは今まで通った町で買った携帯食を食べながら話し合っていた。
私は木の実を齧りながら、もう一度地図に目を落とした。
『この辺で、逃げながら戦えそうな場所ってないかなぁ。それか、もういっそのこと頑張って隣町まで行って立て直すとか……こことか近道だし……』
『んな作戦ができるんなら苦労してねーだろうな。しかもあの禁術野郎、紫魔法の転移まで使いやがるから多分追いつかれんぞ』
転移、と聞いて彼が突然私の隣に現れて攻撃してきた時のことを思い出した。
あれはそういうことだったのかと、納得しながら考える。
『ナルミアは昔っから転移が使えねーから、あの禁術野郎雇って自分の弱点カバーしてんだろうな。そうやってやられちゃ、ただ逃げるだけじゃすぐに捕まんぞ』
『だよねー…………あれ?』
『なんだ?』
地図の端に、妙な場所があった。
『これ、〝ショルワンダンジョン通路〟って書いてある』
『んあ? そーなのか?』
ツクヴァルが地図に目を向ける。
『けどさ、見る限り普通に隣町に行くために使われてる通路だよね? それなのにダンジョンって、おかしくない?』
『普通に昔はダンジョンだったけど壊れて今はただの通路として使われてんじゃねーの』
『けどこれ……見て』
地図の一点を指差す。
『水色ってことは湖か?』
『うん。ここ、洞窟の真ん中に湖があるでしょ』
『あるな』
『でも、この湖まで行く道がどこにも書いてない』
『…………』
いくつか通路は分かれているが、隣町まで続くほぼ一本道。その少し外れに、大きな湖だけがぽつんと描かれている。
『昔はダンジョンだったんだよね?』
『まあ、名前聞く限りはな』
『だったら……今は使われてない道が残ってるんじゃない?』
私がそう話した時、ツクヴァルが耳をピンと立たせて感心したみたいに息を吐いた。
『隠し通路ってことか』
『……多分』
私たちはこれまでに何回か、ダンジョンに行ったことがある。私がダンジョンの暗号を読めるおかげで、仕掛けにもあまり苦労せずスイスイと進めていた。
そして、私たちがを回ったダンジョンこそ少ないけれど……その中で隠し通路が無いところは、なかった。
『……ツクヴァル、その禁術の人が厄介なんだよね?』
『そうだ。あいつら、人間の一部とか命とか使うせいでクソ強いんだよ。だから禁止されてんのに堂々とやりやがって』
『に、人間の一部とか命……だから血みたいなのが流れてたってこと?』
ツクヴァルはそれに対して、『だろーな』とだけ答えた。私はやっぱりその禁術というのが怖くて、少し寒気がした。
『ツクヴァル』
『あ?』
『もし隠し通路が本当にあるなら……湖まで行けるかもしれないよね』
『まあ、そうなるな』
『……じゃあ、そこに行きたい』
ツクヴァルが『ほう?』と言って、私の顔を見た。
『ツクヴァル、あの白髪の人とナルミアさんを誘い込んで分断させて……禁術っていうのも防ぐ方法、あるかもしれない! 賭けてみよう!』
◇◇◇
そして現在。
私たちは、その湖へ続くはずの隠し通路にいた。
オウガと呼ばれていた白髪の男は、やっぱり私たちに追いついてきた。二丁の銃を回転させて構え直し、私たちを見る。
「……なるほどなぁ〜、ナルミアさんが転移使えねーの知って分断させたな? まあ、そこそこやるじゃん」
「お? 結構悔しそーだなお前?」
「チッ……そこのアノトの嬢ちゃんがどうやって隠し通路開いたか知らねーけど、まあ俺たちも油断したね」
オウガの前髪から覗く青い瞳が、私のことを確かに睨んでいた。
振り向いて、奥を見る。
確かに、湖があった。
「……あなた達や国が、なんの目的で私を捕まえようとしているのか、わかりませんけど!!」
オウガへと、負けずに言う。
「私は、やりたいことをやっただけで、こんなことされる筋合いはありません!!」
「……ハッ!!」
青い魔法陣が、オウガの背中で展開された。
円周に刻まれた文字が一つずつ、血で塗られたみたいに赤黒く変化していく。何重にも重なった円がそれぞれ回転し、中心へ向かって闇が収束していった。
キィン、と高い音が鳴る。
「じゃあ抵抗してみな嬢ちゃん、あんたの〝やりたいこと〟を突き通すためにな!!!」
オウガとの勝負が、始まる!!




