第七隻 1話 同じバツ印の女性
私たちはここまでで、多くの町とスラム街を回ってきた。
そこでもまた、色んなことがあった。何かを諦めているスラムの人達と話したり、ちょっとだけ喧嘩になったり、逆にすんなり上手くいったり。
今回足を運んだ町は、今まで見てきたどの町よりも明るい色をしていた。
淡い黄色の壁が並び、屋根や窓枠には橙色や茶色が使われている。道端には黄色い花が咲き、私たちが踏み込み歩く地面までオレンジ色の太陽みたいな色をしていた。
「ここも綺麗な町だね、ツクヴァル」
「クソ明るい場所だな」
市場では果物を売る人の声が響き、通りでは子供たちが走り回っていた。
────だからこそ。
町の奥にあるスラム街へ足を踏み入れた時、その変化は嫌でも分かった。
「あの、すみません! 私たちは冒険者で────」
「……ッ!!」
目が合った長い耳の女性に話しかけた瞬間、ひどく怯えた顔をして逃げ出されたのが始まりだった。
確かに、ツクヴァルの顔にバツ印の火傷があったり、私が暗い髪のアノトに見えるという点では、これまでの旅でも良い扱いを受けないことは普通にあった。
だけど今回はなんというか……差別とか、そういうものだけではない気がした。
「……私たち、怖がられてる?」
「……っぽいな」
喋りかけた女性に怖がられただけでは終わらなかった。スラム街の人たちは、私たちを見た途端にバタバタと音を立てて建物の中へ逃げ込むようになった。
そして、そのうち通りには誰も居なくなって、辺りはしんと静まり返りってしまった。
「非国民とか負け犬とか言われることはあったけどよ、こんなにビビられるこた無かったぞ今まで」
ツクヴァルも初めて経験することらしく、困ったように頭を搔いていた。
「そ、そうだよね……こんなこと今までなかったし、何が起きて────」
「そこの二人。外部から来た者で間違いがないな?」
私たちが話していると、角の生えた男性が三人……こちらへ歩いてきた。
茶色いスーツと帽子、片手には銃のようなものを持っている。それだけでも物騒だなと思ったが、なによりも違和感があったのは……スラム街の人にしては、服装が綺麗すぎるということだった。
「面倒なのに絡まれたな」
ツクヴァルがぼそりと呟いた。
そして、私もその〝面倒〟という言葉の意味がよくわかっていた。
(スラムを支配する、裏社会の人たちだ)
私が緊張で唾を飲むと、男三人が私たちをジロジロ見た後に、ツクヴァルを見て、はっとした表情を向けた。
「おい、一人はベルンクス峠の生き残りだ」
「ならそいつは身元がわかっているし、放してもいいんじゃないか……あれの生き残りは面倒だぞ」
「女だけこっちに────」
「おいテメェら、偉そーに来たかと思ったら次は俺の顔ジロジロ見て前の戦争の話か? ヒロコだけがテメェらについて行かなきゃいけねー理由はなんなんだよ」
男たちが一瞬たじろいだ後、そのうちの一人が私の方を見てはっきり話した。
「ボスからの命令だ。最近、スラムを乱す部外者がいるから一人ずつ調べろってな」
「へえ、じゃあ俺もついて行かせろよ?」
「お前は待機してもらう」
「ま、色々クソみてぇなことして取り調べだとかしてえのに俺みてえな暴れん坊がいたら面倒だもんな?」
ツクヴァルが男たちを睨んだ。
そして、男のひとりが銃を抜いてこちらに向けた瞬間────。
「おおっと!!」
ツクヴァルが即座に背中の大剣を抜いて、男の銃身をまっすぐに斬り落とした。
「ひっ……!!」
戦闘が始まってしまった。私がその一瞬の出来事に固まっていると、ツクヴァルが私を自分の方へ引き寄せ、そのまま背後へ押しやった。
「クソッ!! すぐにこいつらを鎮圧しろ!!」
「やれるもんならやってみなぁッ!!」
ツクヴァルの大剣から青い炎が強く燃え上がる。
残った二人が一斉に銃を構える。
「遅ぇんだよ!!」
ピンク色の魔法陣を召喚し、ツクヴァルが地面を蹴った。
一発目の弾丸を大剣の腹で弾き、そのまま身体ごと回転する。
「ぐあッ!!」
大剣の柄が男の腹に叩き込まれた。そして、もう一人の男が腰から剣を抜いた時、ツクヴァルはそれを見逃さず、すぐに蹴りを入れて吹き飛ばす!!
「ツクヴァルッ!!」
「こいつらあんまり強くねーから問題ねえ!! けど、クソ面倒な騒ぎになっちまったから撤退して……」
そこまで話した時だった。
ツクヴァルが、斬り落とした銃を見て目を見開いた。
「これ」
「……?」
「禁術じゃ────」
その瞬間。
ひら、と。上からなにか、紙のようなものが落ちてくる。
ツクヴァルがそれを拾い上げて、訝しげな表情で見つめた。
「……あぁ? んだこれ?」
小さな紙。
何か、文字が書かれているようだった。
だけど私はその紙になんて書いてあるか────わかってしまった。
「ツクヴァル!!!」
「右側が爆発するかも!!!」
ツクヴァルが私の言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したような顔をした。
そして、私を抱えて左へと転がるように避ける。瞬間、酷い轟音を立てて右から爆発が発生する!!
ドガンッッ!! と爆発音が鳴った場所を見る。さっきまでそこにあった街灯が、跡形もなく消し飛んでいる。
「……!!」
背筋が凍った。
巻き込まれていたら、私たちもああなっていただろう。
「……ックソ!! 油断した!!」
「ツクヴァル、大丈夫!?」
「こんなん使えるやつ、あいつしか見たことねえぞ!!」
あいつしか見たことがない。
その言葉の意味を聞こうとした時────後ろから、女性の声がひとつ聞こえた。
「へえ」
「読める子がいるんだ、これ」
足音。
その女性に気がついた男たちは、倒れたまま慌てて頭を下げてその存在を迎えていた。
空気が、ひどく張り詰めているのがわかる。
女性が帽子を取り、ツクヴァルの方を見た。
「しかし、ここで会うとは思わなかったよ」
「久しぶり、白銀の残光」
────その女性の顔には、大きなバツ印の火傷跡がついていた。




