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第五隻 最終話 大丈夫、私たちは生きていける

「俺は────」


 集まった人たちから視線を向けられたツクヴァルが、口を開いた。


「俺はあん時、フツーにこれからギルドマスターになるかもしんねえヒロコ助けるついでにローロラも助けたんだぞ」


 そう、さらりと話した。


(ツ、ツクヴァル!? それだとローロラさんのことは元々助けるつもりじゃなかったみたいな言い方じゃない!?)


 今、ここで、町の人たちが私たちのことを助けてくれて、汚名返上するチャンスだという時にツクヴァルはそう話した。


「あ、あんた。そんな言い方……」


 住民の一部が苦笑いしながらツクヴァルを見てそう呟いている。


(もっとこう、他にいい感じの話し方とかできるんじゃ……!!)


 私は内心、そう思っていたが。


 それでも黙ってツクヴァルの続きの言葉を待っていた。


 今私がここで、ツクヴァルの話すことに対して……「正しい答え」や「良いコミュニケーション」を求めるのは、良くないと思った。


 ツクヴァルにはツクヴァルなりの言葉で、ツクヴァルの想いを話すべきなんだと思った。


 それに…………。


(前に私が〝ツクヴァルを馴染ませなきゃ〟って思っていたのは、傲慢だったから)


 だからこそ、私はここで口を出さない判断をした。


 ツクヴァルはそのまま話し続ける。


「というか、お前らも今そうだろ! 俺らのこと助けに来たってよりは、そこの役場のキャッツ女とか……ローロラとかパルヤんこと気にして来たんだろ!」


「…………」


 住民たちが顔を見合わせた。ツクヴァルに何かを言おうとしている人もいたが、一旦黙ってそのままツクヴァルの言葉を聞き続けるようにしていた。


「だから!」


 そして。


 べ、と。ツクヴァルが住民たちに向かって舌を出した。


「俺はギルドのため! お前らはそれぞれちげーやつのため! だから俺がここで、お前らの仲間に入って仲良しこよしすると思うんじゃねーぞ!」


 ────この言葉にはちょっとヒヤッとした。


 それでも、私は口出しせずに見ていた。


 ツクヴァルの言葉に、ドキドキしながらも……何かを、期待していた。


「俺はこれからもいつも通り〝よそ者〟だ! お前らの町の仲間じゃねーよ!」


 ツクヴァルが私の持っている荷物を代わりに背負う。住民は、この時点でツクヴァルに対して怪訝な表情を向けている人もいたし、バツの悪そうな顔で目を背けている人もいた。



 ツクヴァルが山の方へ歩いていこうとする。


 そして、立ち止まる。 


「ま」


 住民たちの方へ、振り向いた。


「よそ者のままで、その上で言うんなら」


「マジで助かった。ありがとうな」


 そう言って、手を振った。


「…………」


 私もツクヴァルのあとをついていく。


 山へ向かっている時、後ろからまた声が聞こえた。


「……私たちこそっ、ありがとうございましたー!!!」


 役場のお姉さんの声だ。


「……俺らも、まあ、この前はありがとうな!!」


「また店に来いよ!!」


 色々な声が聞こえてくる。

 またほかの声がいくつか重なり、そして私たちが奥の方へと歩くまでしばらく続いていた。

 振り返ると、ローロラさんが微笑みながら私たちを見送っていた。


(そっか)


土を踏みしめる感触を、いつもよりも少し強く感じた。


(私たちって、私たちのままで良かったんだ)


 私たちは、常にみんなのために何かをしようとしている訳ではなかった。


 ローロラさんやパルヤと関わったきっかけも、ツクヴァルと一緒に節約をしていくためだったし、私の好奇心のためでもあった。

 この前のツクヴァルも私のために治安隊の人達を追い出して、今回だって暴力に耐えてくれた。



 そして、町の人達が今日ここに来てくれたのも……。



 役場のお姉さんのため。

 ローロラさんのことを庇うため。

 パルヤの言うことを、信じるため。


 みんながみんな、身近な誰かのために動いた。その結果、私たちも一緒に助かった。


(身近な人を大切にしようとしたら)


(そうしたら、また違う誰かと繋がっていっている)


 分かり合えないなら分かり合わなくていい。そんな作戦をやりながら町で生きてきた。

 確かに、今だってみんな完全には分かり合っていないだろう。


(それでも)


 それでも。


 私たちは、みんなのおかげで助かって……前よりも少しだけ、色んな人たちと話せるようになったのだ。


「ツクヴァル、ありがとう」


 今日はよく星が見えていた。いや、私が前よりもよく空を見れるようになっただけかもしれない。


 ツクヴァルの歩幅が少し小さくなって、私の歩くスピードへと合わさった。


「俺もありがとうって言いてえところだけどよ……」


立ち止まって、じっと訝しげな目を向けてきた。


「お前マジで、あんなイカれた作戦もうやるんじゃねーぞ!!!」


「い、いや、私だってやりたくなかったよ!! 食材が無駄になるかもしれない作戦を私がやるなんて……!!」


「そうじゃなくってだな……!!」


 そこまで言って、ツクヴァルの表情が少し変わった。


 呆れ果てたような顔から、少し真面目なものへ。

 何かを考えているような目で、じっと私を見ていた。


「お前ってさ」


 ツクヴァルがそこまで言ったあとに、首を振った。


「……いや、なんでもねーわ。とりあえずもうイカれた作戦はやめろ!」


「なにー!? と、とりあえずごめんってば! 水はツクヴァルが戻してくれたから証拠隠滅は平気だよ!」


「お前マジで…………」


「あ、アッシュコッコは照り焼きにするね」


 ツクヴァルが溜息をつきながらまた足を進める。

 私も一緒に、山小屋へと帰っていく。


 …………。


「ということで、使用したアッシュコッコは美味しくいただきます!」


 ツクヴァルが作ってくれたオーブンから完成したアッシュコッコの照り焼きを取り出す。「じゃーん!」と言いながらお皿へ取り分けていくとツクヴァルが少し身を乗り出し、期待するような目で肉を見つめていた。


 肉を食べやすい大きさに切る。焼きあがった表面には甘辛いタレが艶々と絡み、じゅうと音を立てながら照りを出した。


 香ばしい匂いが広がる。

 噛めば外側は少し香ばしく、中は柔らかい。濃いめのタレが肉汁と混ざって、ご飯が欲しくなる味だった。


「焼き加減もよし! 美味しい〜!!!」


「これ、あんま食ったこと無かったけどうめえわ」


「アッシュコッコって、調理するの難しいらしいもんねー」


 フォークを進めていく。


 そして、ひととおり食べたところで……山小屋の中が少しずつ、静かになっていく。


 私とツクヴァルがフォークを置いた時。


「なあ」

「ねえ」


 お互い、声が被った。


 顔を見合わせる。


「あっ、ごめん。先にそっちいいよ」


「いやいいよお前言えば」


「あーいやその……」


 若干、気まずい空気が流れる。


 少し静かになったところで、最初に口を開いたのはツクヴァルだった。


「あん時、話遮って悪かった」


 真剣な顔で、私にそう言った。


「話したいことってなんだ?」


「…………」


 目を見開く。


『あ……ツクヴァル! 戻ってくるの早いね。実はさ、その、私、話したいことがあって』


 あの時、ツクヴァルが私を逃がすことを優先してくれて話せなかったことだ。


「実は、私も今それ話そうとしてたの」


 頬をかいた。

 なんだ、覚えてくれていたんだ。


 どうやって言い出せば良いのかわからなくて、少しだけまた静かになる。


 ツクヴァルは黙って私の言葉を待っていてくれた。


 そして、ようやく言葉が出た。


「…………私ね、ギルド設立許可が出たらさ。外に出て冒険しながらご飯屋さんやりたいの」


「…………外」


 ツクヴァルの目が大きく見開かれた。



 そしてまた、静かになった。



 部屋がしんとしている。その沈黙を何となく埋めたくて、ついつい早口でまた説明してしまった。


「あっ、そのっ、あれらしいんだよね! 保証金払って行商札貰ったら、そういうこともやれるらしくって! 色んなところ歩き回りながらだからキッチンカー……あ、その、移動式の屋台!そんな感じになると思うんだけど!」


「……行商札」


「あ、えっと、ローロラさんにご飯美味しいから外でも売れるんじゃないかみたいに言われて、やりたくなったっていうか、私の勝手なアレなんだけど、どうかなって。その、小屋とか作って貰っちゃったのに申し訳ないなって、思ったりもするんだけど」


 説明し終えると、ツクヴァルが黙って頷いた。

 しばらく部屋は静かだった。


 私はツクヴァルがなんて答えるのかわからなくて、緊張していた。

 外行くとか面倒だろ!って言うかな。

 それとも案外ノリノリになってくれたり?


 気恥ずかしくて、俯いてしまっていた顔を上げる。

 ツクヴァルの顔を見た。


 ……私は、少し驚いてしまった。


「…………」


 ツクヴァルは、どこか自分のことではないような顔をしていた。


 

 私に視線を向けているのに遠くを見てるような、そんな表情。


 見たことがなかった。


 そして何より、予想外だった。


(……ツクヴァル、なんでこんな顔してるんだろう)


 私がその表情を見て硬直していると、ツクヴァルが頭をぽりぽりと掻いて、重たそうな口を開いた。


「お前が行きてえんなら行くか」


「えっ、あっ、いいの?」


「おう、いいんじゃね」


 そして、案外あっさりとOKした。


「そ……そっか! ありがとうね、聞いてくれて!」


 それでも、私の中で引っかかることが沢山あった。


『地図読めなくても受付の場所はわかる。俺は前からここら辺いたしな』


『俺は他の国のセイジだとかブンカだとか全然知らねーぞ。ずっとここらへんで生きてるしよ』


 前に会話したことが、次々と頭の中で再生されていく。


 なんてことのない雑談だった。それが今……凄く、頭の中でぐるぐると回っていた。


(ツクヴァルって)


 ツクヴァルが自分の分の食器を片付けようとして立ち上がった。私はその背中を見ていた。


(もしかして、戦争以外でここの外に出たことない?)


 ふと、そんなことを思っていた。


【第五隻 完】

【第六隻目が旅立つ】


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