第五隻 6話 小さな勇気たち
◇◇◇
今日も役場は、忙しい。
(わっ、私まだ報告書とか書けていないのに!)
ずらりと受付に並ぶ冒険者たちを見る。席に座っている同僚たちは、私の方をちらちら見るだけで、誰も受付の方には向かおうとしていなかった。
『…………』
まだたくさんやること残ってるけど、受付誰も行かないし。そしたら冒険者の人たちは困っちゃうだろうし、私が行くしかないか。そう思って今日も窓口の方へと行く。
(今日も残業だなあ……)
窓口の席に座って、それぞれ用件を聞いていく。
『あっ、あっ、そのっ、依頼達成の報奨金の手続き、ですね、はいっ、お待ちを』
私はいつもこうだった。
役に立ちたくて、自分から率先してお仕事をして。そしたら「いつもありがとう」って褒められて、また嬉しくなって色んなことをやって。
そして気がついたら私がやるのが当たり前になっていて、やらないとヒソヒソと言われてしまうのだ。
(わああ、バツ印の人もいるし……しかも青い髪のアノトの人も並んでる……こわいなあ、変なこと言われないかなあ……)
初めてバツ印の人が受付に来た時、アノトの女の人を連れていた。
言われた通りにファイアベア討伐の報奨金の手続きをしていく。その日はとりあえず平和に終わった。
そしたらそのうちバツ印の人とアノトのお姉さんが来なくなって、特定の冒険者の方しか受付で見なくなった。
(や、やっぱり、最近すっごい色々やってたし町の人に嫌われちゃったんだ)
私としても、あの二人に関する陰口ばっかり受付で聞くのも疲れていたし。もう来なくても良かったのかな、ってちょっと思っていたりしたけど。
『あそこにある依頼、全部ちょっと合わなさそうなんで!! こういう感じの依頼とかありますか!?』
なんと、今度は堂々と受付で聞くようになった。
(く、空気全然読まないんだなあ……ていうか嫌だなあ……私が紹介したってバレたら、町の人になんて言われるかわかんないし部長だって嫌がるよ……)
私は内心ため息をついていた。それに、少し怖かった。町の人から嫌がられているのに、こんなに堂々と色々と話してくるなんて信じられなかったし。
だけど、同時に。
(……凄いなあ)
ちょっとだけ、尊敬していたりもした。
◇◇◇
「い、いっ、いいえ。私が証言します」
冒険者用の受付にいつもいる、キャッツの女性がそこにいた。
「あ、あの人……」
急いで走ってきたのか、髪の毛は乱れてゼェゼェと息を切らしている。猫背が少しピンと伸びて、吃りながらも治安隊のやつらに話しかけていた。
「そっ、そっ、そもそもっ、あなた達が、町の方の税金を使って活動すると、認められた時っ、行政から、ルールを渡されたはずですよ」
「あぁ? ルールだぁ? テメェら俺たちに守られといて今更そんなことを────」
「まっ、まず、拘束は四時間までと決められてます。なお調査の必要が残る場合はっ、拘束理由を記録した上で、翌日以降に再度出頭を求めなければならないと、決められてます」
「…………」
「そっ、それにっ、そこのラヴィの方……ツクヴァルさんのっ、怪我が酷いです。不当な暴力は禁止されてるのではっ」
窓口のお姉さんが、震えながらも一生懸命に言い返していた。喋る途中で何回も何回も何かの資料を読んで確認して、そしてまた怖がりながらも話していた。
そしてそれに対して、治安隊の男のひとりが治療されながらも鼻で笑った。
「不当?」
馬鹿にするような目で、私たちを見た。
「俺の仲間はこの前、バツ印野郎にボコられたんだぞ? 全く不当じゃねえよなあ?」
「それって、あなた達が私を連れていこうとして───!!!」
「だーかーらー!! その証言も誰が信じるんだよ!!」
そして、勝ち誇ったような顔を窓口のお姉さんに向けた。
「お前が証言するとか言ってるけど!! お前みたいな仕事押し付けられてるようなチビのキャッツの言うことなんて上司が聞くのかぁ!? 偉くもねえくせによ!!」
「うっ……」
お姉さんがその剣幕にたじろぐ。何かを言い返そうとして、それでもやっぱりまた言葉が出なかったのか黙ってしまっていた。
私もなにか言い返そうとしていた。だけど……。
私も男たちの言葉に、うまく何かを返せなかった。
(せっかくこの人が来てくれたのに)
(何も言えないまま終わるのは嫌だ!!)
ローロラさんはずっと怒りの籠った顔を男たちに向けていた。それでも治療を止めることはなかった。
「今回のことも、お前らのせいだって話して────」
その時だった。
「い、いや……俺、この前見たぞ……ローロラさんが最初に治安隊のやつらに絡まれてたの……」
役場のお姉さんの後ろで、また声が聞こえた。
その人も同じように、汗をだくだくに流して息を切らしていた。
「い、いつも受付してくれてるお姉さんがこっち行ってたから何かあるのかもって思って追いかけたんですけど……その、俺、あなたたちの方がおかしい気がします」
「……はあ?」
治安隊の男が、目を見開いた。
私たちが騒いでいる声を聞いたのか、近くにある家の人達が次々と出てくる。
「そ、そうだよ!! アタシだって見たよお前らが先にローロラさんを連れ去ろうとしてたんだ!! それをそこのラヴィが助けてたよ!!」
いつも、お惣菜を売ってくれてるおばさん。
「わ、私も先に治安隊の人たちが腕掴んだの見た……かも……」
野菜を売ってくれるお姉さん。
「おい!! パルヤのやつがずっとソワソワしてたから話を聞いたけど……!! 儂はパルヤの言ってることを信じるぞ!!」
食事屋の、店長さん。
声が小さい人も大きい人も、色んな人の証言が集まってくる。私たちの周りに、人が集まってくる。
どんどんとそれがざわめきになっていき、そして治安隊の男たちは周りを見て物凄く焦った様子で睨んできた。
「お、お前ら調子に乗りやがって……!! けど、今回俺たちがこんなに腹壊してんのは、どうせこのバツ印らがなんかやって────」
「そ、それは、証拠が、ありませんから、何も言えませんが」
みんなのざわめきの前へ立って、役場のお姉さんが、震えながらも力強く治安隊を見た。
「あ、あなた達が不当なことをしているのは、確実です」
「……ぐっ!!」
ローロラさんが何も言えなくなった治安隊の男たちの背中をドン、と押した。
「治療は全員終わったわよ?」
そして、睨んだ。
「さっさと帰ってちょうだい。早めに私を呼んでもらえて良かったわね」
「……このクソ野郎共が!!」
男が吐き捨てるように言うと、食事屋の店長さんが……叫んだ。
「うるさーーい!!! お前らを持ち上げた儂らにも責任はあるがな!! 儂らがお前らの言うことをこれからも聞くと思うなよ!!」
「そ、そうだよ!!」
男がまた目を見開き、そして舌打ちをした。
……治安隊の男たちが、建物の中へと帰っていった。
ツクヴァルを助けられて、終わった。
全部が。
治安隊のやつらが全員退散したあと、住民たちは一気に静かになった。
そして、それぞれの視線が……
ツクヴァルへと向けられていた。
「…………」
ツクヴァルが、口を開いた。
「俺は────」
私はそのツクヴァルの言葉の続きを、ただ黙って聞くことにした。




